異世界から帰ってきたら世界が変貌していた。

薄明

第1話

「これで……任務完了ミッションコンプリート!」

「お見事です。我が主」


そこは見たこともない色とりどりの美しい花々で埋め尽くされている。


そこにいるのは漆黒の剣を竜に突き刺す黒髪黒眼の少年ーー篝天雷かがりてんらいと彼に付き添う銀髪の少女ーースフィアだ。


彼らは任務のためにその場所を訪れていた。


「SSランク級の魔物……クヴァリスも一撃で屠りますか。流石ですね」

「まぁね。この場所だけは守りたかったんだよ」


天雷はクヴァリスと呼ばれた竜を一瞥する。


「にしても、最後・・がこいつなんだね」

「やはり……帰られるのですね」

「もちろん。そのために今まで頑張ってきたもんだからね」


天雷はこの世界の住人ではない。


地球と呼ばれる異世界から召喚された、勇者と呼ばれる立場だった。


「魔王を倒した時に帰ってもよかったんだけど…でも、ここにこいつが攻め入ったと聞いたら……向かわずにはいられなかったんだ」


天雷が述べたように、魔王を倒すことが天雷が召喚された理由になる。


この世界には魔法が存在している。

魔力というものを媒介として、魔法を発動するというものだ。


しかし魔力は保有限界があり、その魔力を溜め込んでしまったら、魔物と呼ばれる化物へと変化する。


魔物になってしまうと理性は保てなくなり、人間を襲って魔力を喰らい、強くなろうとする。


人間も例外なく魔力を保有しすぎると体が紫色へと変色していき、人外の強さを持ってしまう。


それを人は魔人と呼び、忌み嫌った。


国外へと追放された魔人は怒り狂い、人間を滅ぼそうとした。


それを企てたリーダーを魔人達は魔王と呼び、敬った。


こうして人と魔人の戦争が始まる中で天雷が召喚された。


天雷は人間側として、魔人達を次々と屠っていった。


そして魔王も、天雷の手によって屠られ、人間側が勝利したのだった。


「人間もふざけていますね。自分達のために無関係の主を異世界から召喚するとは……」

「良いんだよスフィア。僕はもう気にしてないし、帰る方法もちゃんと見つけたんだし、この世界の人達に恨むことはないよ」

「ですが…」

「それに、この世界に来れてなかったらスフィアにも会えなかったんだ。だからそんなに気にしないでよ」


天雷はスフィアの頭に手を乗せ、優しく撫でながら言った。


渋々といった表情でスフィアは引き下がった。


「さぁ、帰ろうか。僕の役目は終わったんだ」


天雷はポケットから金色に装飾されたカードのようなものを抜き取ると、竜を突き刺していた剣を構えて真っ二つに斬った。


「SSSランクのギルドカードですがよろしいのですか?」

「もちろん、あっちに持っていっても邪魔なだけだからね」


ギルドというのは、薬草採取や魔物討伐などの幅広い分野で依頼を取り扱う施設になる。


天雷は魔王討伐の他に、合間を縫って依頼をこなそうと、登録をしていた。


気付いた時には最高ランクと称されるSSSランクとなっていたようだが、本人はあまり気にしてはいなかった。


この称号だけでも、一生遊んで暮らせる地位を得ることが出来るが、天雷はこれっぽっちも考えていなかったようだ。


続いて天雷が取りだしたのは白い球状の物だ。


「開け。『時空神のワールド・ゲート』!」


天雷達の目の前に、扉のような白い光が現れる。


「いつ見ても素晴らしいですね」

「まあね。これをくれたあの人には感謝しないとね」


天雷は笑ってスフィアに応えると、スフィアと共に歩きだす。


「じゃあね。楽しかったよ」


天雷のその呟きはスフィアにしか聞こえなかった。


白い光が収まると、色とりどりの美しい花が風に揺られていた。


ーーーーーーーーー


その場所の名は、天の楽園バレンガーデンと呼ばれる、天雷が唯一好んだ場所だ。


花々は決してかれることはなく、大地を彩っている。


その場所の中心に佇む大木の下には、白い宝石と真っ二つに分かれた黄金のカードが置いてあった。


ーーーーーーーーー


「戻ってきたんだな」


開口一番、僕……篝天雷は大きく伸びをする。


「ここが主が住んでいた世界なんですね」


隣にいるのは銀髪の少女のスフィアだ。


「そうだよ。気持ちいい……とは言えないんだけど」

「先程の天の楽園と比べると空気は悪いですよね」

「うっ……それは言わないで。僕も気にしてるんだよ」


僕は先程までいた花々の景色を思い出す。

あそこは好きだったな。空気も美味しいし、何より景色が良かった。


まぁ、結界を張ったしもう誰も来なくなるんだろうけど……。


それはさておき。


「これからどうしようか」

「どうされるおつもりなんですか?」


うーん、考えてないんだよね。


「まぁ、今やることはね……」


首を傾げるスフィアを見て、笑顔で言う。


「ここトイレだから、まずはここから出ようか」


締まらない帰還となってしまった。

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