第23話 ガリ勉は友情を利用し謀る③
「【インベントリ】それじゃあ。次はみんなにこれを渡すよ。Mixed Reality 略してMRゴーグルとハンド操作セット。飛び出す3D画面付きのリモコンウォッチだ。」
「まだあるのか。言葉で聞いても分からん。」
「龍之介、その前に言う事あるだろ。今、それ何もない所から出てきたんだぞ。」
「考えてもみろよ楓雅。適応しなかったら、この先ずっと驚きっぱなしだと思うぞ。」
「たしかに。達也、これは何に使うものなの?」
「分かりやすく言うとスマホの代用品かな。画面が眼鏡に映し出されるんだ。停止モードではハッキリ見えるけど、移動モードにすると透けて現実が見えるから、戦いながら情報も取得出来るし、音声でのサポートもある。ただ一つだけ特徴があって、これらはただの通信機器ではなくギルドマスターから貰った冒険者の為のサポートツール、つまりスキル補助製品なんだ。」
「やっぱり適応できないよ。今日一日だけで、俺の常識がこんなにも崩れていく。」
「深く考えるな感じろ。達也は最高だ。俺はもうワクワクしかしないぞ。な。璃音。」
「そうだね。これで何が出来るのかな?」
「……これは、ひょっとして私への愛のプレゼント……ハゥー。」
「うん。このデバイスは冒険者パーティー用に改良した機器なんだ。親が俺で皆に配ったのは親の影響を受ける。パーティーを組んでいる状態に限り、俺のスキルが反映される。例えば、鑑定や自分のステータス情報が確認出来たりとかね。容量は限定だけど、さっきのインベントリもパーティーでいる間は各自個別のインベントリが使えるよ。あとは普通の電子機器としての特徴になるけど撮影モードをONにすれば、リアルタイムでゴーグルから撮影が出来る。眼鏡を外した時も腕輪から投影される3Dホログラムが画面代わりになる。」
「ハンパねえっ。三つのスキルを貰ったようなもんじゃねーか。抱きしめても良いか?」
「本当に凄すぎる。理事長がこの中途半端な時期に引き抜くわけだよ。」
「はわわわっ。私の想いが……達也くんに届いたのね。」
「里桜が小声で何か言ってるけどほっといて良さそうね。そんな場合じゃない。」
「達也が凄いのか、最先端テクノロジーが凄いのか。」
「楓雅くん、そこ悩むかな。達也くん一択でしょ。ね〜雫。」
委員長だけがまた頭を抱えている。
「……達也くん。これってまだ発売前のはずだよね。九条理事長は、これをどこで仕入れたのかしら。……いや。メーカーも開発者も別だわ。」
「それは俺も知らないよ。夢乃さんは、これと同じような製品を何か知っているの?」
「え……うん。ちょっと興味があって調べていたの。来週には全世界に向けた発表があるはずよ。オールAI仕様の次世代型通信機器としてね。スキル補助機能はないけど。」
「ずいぶんと詳しいんだね。理事長に渡されて試行錯誤するまで、俺は知らなかったよ。全員付けてみようか。」
龍之介が試着に戸惑っている。
「このハンド操作セット。腕輪と指輪が透明の糸で結ばれてる。どうやって装着するんだ?」
「まず腕輪を付けて、一本ずつ指輪をはめると紐が伸びるはずだよ。」
「本当だ。手袋にすれば良いんじゃないかと思ったけど、装着感が少なくて素手みたいだな。こっちの方が便利だ。」
これの使い方もそうだが、見た目に違和感も残ると思うので、何か言われる前に実演してしまおう。
「シルフェ ステルスモード起動」
「おいっ達也っ。お前の眼鏡も装着品も全部消えたぞっ。」
「うん。見た目が気になる人はこのモードを勧めるよ。あとは移動モードで透過しながら、現実に集中出来るように慣れる必要がある。操作しながら動くのはまだ危ないから。」
何か決心したように海老原さんが俺の前に出てきた。
「達也くん。私、初日にも言ったけど、あれからずっと達也くんと仲良くしたかったの。それが叶って本当に嬉しい。だから。……記念にチーム名を決めたい。」
「海老原さん。それ良いね。」「ああ。決めようぜ。」「うん。」「仕方ないわね。」「達也。なんて名前にするのかな。」
パーティー名か。一般的なのはギルド名だけど、名のある冒険者がパーティー名を付けて活動している場合もあったな。春奈さんの所は無名だったけど。面白い。
「分かった。なら一人ずつ、名前の候補を出し合うってのはどうだろう?」
龍之介が立ち上がる。
「OK。この学校で名前のない勢力は総じてこう呼ばれるんだ。達也一派。」
「ごめん。却下で。」
璃音と楓雅が続いた。
「達也のお友達会。」「龍之介も璃音も格好悪いよ。達也ブラザーズ。」
「ちょっと待って。達也からは一旦離れないか? 恥ずかしすぎるよ。」
委員長が片手を空に掲げ、自信ありげな表情を浮かべる。
「人々は私達の活躍を見てこう呼ぶ事になるでしょう。『Tガールズ』と。」
「それ達也のイニシャル入ってるし、女の子限定な。」「あんたは、さっきブラザーズって言ったでしょ。」「ゲフン。」
委員長が楓雅とじゃれていると親友の久保田花恋さんがその間に割って入る。視線が完全に楓雅をロックオンしていた。
「花恋組って言うのはどうかな。」
「一番存在感薄かった子が、ここに来て主張してきた。」
「ちょっと、楓雅くん。その言い方は酷いよ。」
「冗談だよ。ごめん。俺はずっと君しか目に入らなかったよ。」
「ちょ……むー。ずるい。」「なにその反応。可愛いー。」
「お前ら。イチャイチャは後でやれ。」「悪ぃ龍之介。」
最後に海老原さんが言う。
「奇跡のF
「…………。」
「海老原。それはどういう意味なんだ?」
「うん。私、達也くんの事を調べたんだ。奇跡のFランクから一夜にして、ババ抜きでババを引いた少年と蔑まれた。でも、実際は本当に奇跡の人だったんだよ。
だから私は考えたの。FランクのFは、形のない無限の可能性Formlessなんじゃないかって。でも、それはこのクラスで達也くんと出逢った私たちも同じでありたい。
私たちは最底のFクラスなんかじゃないんだよ。それぞれが可能性を持った奇跡のクラスだって思いたい。」
「良いな!」「最高じゃん。」「素敵ね。」
……それは駄目だ。名前と同じくらいに特定される。
「奇跡のFランク。能無しで笑われてた俺なのに、一部の人からずっと言われ続けてきた呪いの言葉なんだよー。恥ずかしすぎるっ! それだけはやめてくださーい!! お願いします。」
シーン
「お困りのようだから、達也くんに代わって委員長の私が仕切るね。試しに達也くんの案を言ってみてよ。」
「漆黒の翼。」
「論外……だと思うけど。里桜の案に賛成の人。」
「「「「は~い。」」」」
「うん。達也くん以外は全員賛成ね。観念しなさい。多数決なら決定よ。」
「達也。恥ずかしいのは分かるが、ど真面目に言った海老原さんに失礼だぞ。『奇跡のF級』かっこいいじゃん。」
「ああ。決まりだな。」「それしかないと思う。」
「……分かりました。パーティー『奇跡のF級』。皆さん。これから、よろしくお願いしますっ!!」
「「よろしく。」」「「「「よろしくお願いします」」」」
「なあ達也。漆黒の翼はドストライクだったぜ。でもそれ以上にきっとみんな悔しかったんだ。俺達はお前を笑ったやつを絶対に見返してやる。『奇跡のF級』という名はこの瞬間、そんな覚悟に変わったんだ。」
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