第23話 ガリ勉は友情を利用し謀る②
ラブリさんの案内で、冒険者達が入ってくる。石井先生は一番窓際にいる男性を前に出るように促した。
「俺はEランク覚醒者。
紐にぶら下がった鉄が、僅かに揺れている。発表者の得意気な顔とは裏腹に、クラスメイト達が残念そうな目で見つめている。
そう。俺はその残念なスキルが見たい。俺の学習が使えない残念スキルであったように、スキルはその解釈次第で可能性が広がると思っている。それに――
「【
インベントリに入れておいた霊晶石を手に取る。
「【鑑定】」
『霊晶石
保有スキル:【金属引力】 』
――この霊晶石に収まるスキルは、Eランクまでのスキルなのだ。
予定通り上手くいった。インベントリ内のアイテムは俺の一部という事で処理される。これで【金属引力】のスキルを保有した霊晶石が誕生した。発表者はまだ演説を続けている。
「だが、俺の能力はコレで終わりではない。この金属の色を見よ。最初は鉄の色だったが、今はうっすらと黒く変色しているではないか。これこそがスキルの進化、そして神の力だ。」
ラッキー。これは棚ボタだ。まだ学習し終える前に派生能力が見れた。
キュルキュルキュル
龍之介が小さく呟いた。
「……本当に変わったのか?」
『 【金属自在】を獲得しました 』
――発表は10人ずつ入れ替わり計20人だった。
順番は最後の一人になる。小柄な少女がいた。
「我の能力は説明するよりも、実際に試してみた方が早いじゃろう。そこの委員長よ。前に出て来るが良い。」
「君、なぜ私が委員長だと……分ったわ。」
「ここに一本のまち針があるのじゃ。委員長よ。これを我の腕に刺した場合、どうなると思う?」
「痛いでしょうね。注射でさされるくらいには。でも少し血が出るくらいで……。キャー。本当に刺さないでよ。」
「不正解じゃ。外皮も破らずに僅かに傷つけただけなので、少しチクリとしただけなのじゃ。」
「……子供が自分を傷つけてたら、ホラーだけどね。」
「うむ。それでは本題に入るのじゃ。」
少女は無言で委員長の腕に針を刺した。
「……イタッ。何すんのよ。」
「【流血】小。」
委員長の腕から大量の血が吹き出す。
「キャーーーー。」
「死ぬが良いっ。人の皮を被った邪なる者よ。勉強にうつつを抜かす『委員長』。その心は邪悪なり。我が名は引きこもりの聖女『ジャンヌダルク』学び舎という邪悪な場所に、我を――やめろっ離せっ。」
キュルキュルキュル
俺は咄嗟に委員長の前に飛び出した。既にラブリさんが少女を捕縛している。
「【
「いやっー。はぁはぁはぁ。」
「落ち着いて、夢乃さん。傷は治ったよ。もう血は止まった。」
「ぅあ~ん。達也くん。ありがとう。怖かったよー。子供怖い。」
「もう大丈夫だから。」
『 【
「離せっ。我は勇者の血を引く聖女で、あやつは邪なる者ぞ。しじょうさ――」
「黙れっ。学校嫌いの引きこもりが委員長に嫉妬しただけだろう。幼いとはいえ、これは立派な犯罪だぞ。」
「ワシはこれでも200歳なのじゃぞ。離せっー。」
ラブリさんは、容赦なく幼女の後頭部を殴打し気絶させるとどこかに連れて行った。
こうして、冒険者活動をしていない生徒達にとっては、恐怖となる授業が終わった。放課後、俺たちはまた璃音の席の前に集まっていた。
楓雅が言う。
「……最後だけ散々だったな。」
「うん。あの危険を見抜けなかったのも俺の落ち度だ。」
「でも勉強になったよ。達也の言ってた意味も分かった。」
「なあ。達也。結局、最高の可能性ってなんだったんだ?」
楓雅の質問の答えを考えていると龍之介もそれに同調した。
「それは俺も疑問。俺は馬鹿だから、あの授業で得たものなんて何もないぞ。委員長は分かるのか?」
「いろんな人のいろんな能力を見たわ。可能性として考えたら、私が想像していたのと違う解釈をしていた人がいたわね。世間一般の使い方と違うような。達也くん。ひょっとして、それのこと?」
どう答えれば良いのか悩んでいたのは、複数の回答があったからだ。順序立てて話さないと納得出来ないだろう。
「たしかに、それは重要な事だよ。大抵のスキルは解釈の仕方で別のスキルにも変わる。経験者で三段階までの使い方を見た事がある。だけど、俺の【学習】スキルが導き出した答えは、普通のスキルは、通常使用の他に四種の変化があるって事だ。」
「どういう事?」
「
「たしかに。……あの自称ジャンヌダルクの女の子。【流血】小だっけ。たかが針を刺しただけで、あの量の出血は、Eランクとは思えない強さだった。もし武器で傷つけられてたら出血死していてもおかしくない。あれがスキルを強化した別物だとしたら納得出来る。」
「これが、塔に挑む為の準備だったのか。ワクワクするぜ。」
「いや。違うよ。」
「どういう事だ。」
「【インベントリ】石喰い、付与。」×5
『【インベントリ】[亜空間収納/銀行/自動解体on/自動収拾on/合成/分解/錬金/収納物本人判定/石喰い/スキル合成/分解/貯蔵/付与]』
「……何?」
「さっき。スキルには4種の変化があるって言ったよね。それが適用されるのはスキル単体ではなく全てなんだ。スキルの数だけ【流血】大みたいに強化のスキルが増える。だから、スキルはより多い方が強い。」
俺は鑑定スキルを冒険者協会の仕様に寄せて学習した。だから、今の鑑定能力は冒険者協会のものと近い。
ただし、その後でお姉ちゃんに渡された電子機器と統合したり、スキル自体もランクアップをした。今や冒険者協会を上回る情報と新たな認識が生まれた。
三葉[♣︎]× 杖[♣︎]〇
まず公式見解の三葉は杖だった。
各スートの特徴も冒険者協会が鑑定したものと全く違う。
剣[♠︎]体内で循環させた魔気攻撃
丹田に魔気を集め出力する強い攻撃
杖[♣︎]体内で循環させた魔力攻撃
魔力回路に魔力を集め出力する強い魔法
貨幣[♢]体外魔気効果
ルーン文字を作成し魔気を流し殺生能力は低いがより複雑な効果を得たスキル
聖杯[♡]体外魔法効果
魔法陣を作成し魔力を流し、殺生能力は低いがより複雑な効果を得た魔法
覚醒値の基準は魔気と魔力に分かれ、体内で直接練った時に、爆発的な力を発揮する。体外に流した場合は、攻撃力は減少するがより複雑で不思議な力を生み出す。前者は黒で後者は赤になる。
まだ言えないけど、みんなにあえて四種を使いこなして貰うのにもちゃんと理由がある。
所謂、裏返り覚醒。全てを凌駕する五類覚醒者だ。
[♤][♧][♦︎][♥]
裏返りは全ての力を意図して使いこなせた者の二次もしくは最終覚醒。全能力を有した力は身体能力に魔気と魔力の全てが飛躍的に向上する。
それだけでなくスキルや魔法にしても、体内で練った魔気や魔力を、より高度で複雑な術式にして発動させる。何の制約もなく最大効率でそれが出来るのが、五類覚醒者だ。
ランクに関係なく、友が最強にもなれる可能性を摸索した結果、それが仲間と塔を登るために練った俺の最終目標になった。
楓雅が俺の話を考えた末に、いきついた疑問を言葉にした。
「考察は理解出来る。……でも、それと俺たちは関係ないと思うんだけど。」
「関係大ありだよ。さっきのEランクの中から俺のスキルで最適なものを選び、みんなに付与した。覚醒値は変わらずとも、鍛えれば一ランク上のスキルが複数使えるようになったと思って良い。元のスキル数によっても多少バラツキはあるけどね。」
「「「「「えっ〜!!」」」」」
一同が一斉に驚いている。
「みんな、どうしたの? 怖いよ。」
……そうか。普通勝手にスキルを付けられたらびっくりするよな。自分で選びたかったに違いない。この前のダンジョンで獲得したスキル【
「達也っ。怖いのはこっちだよ。常識的に考えてよ。スキルを増やすスキルなんて、ありえないからね。僕は今、奇跡の瞬間に立ち会った衝撃だったんだよ。」
美優と会った時から俺の能力は急激に加速した。常識から離れはじめているんだ。
「……そういえばそうだね。最近は不思議な事が続きすぎて忘れていたよ。でも、付与だと同じ相手に一度しか使えないから、忘れてくれるとありがたい。付与出来るのはEランクだけだし。」
楓雅達男子が目に涙を溜め嬉しそうな顔をしている。どうやらギリギリで間違ってはいなかったようだ。
「ありがとう達也。この恩は一生忘れないからな。」
「俺泣いても良いかな。感謝しかない。忘れるのは絶対に無理だけど。」
「やっぱり男子はお気楽ね。私は頭が痛いわ。『付与だと~一度』という表現に、二回以上使える付与以外の選択肢が透けて見える。達也くん。本当の所はどうなの?」
「見透かされてるな。その通りだよ。リスクさえなければ制限なくスキルを渡す事も出来ると思う。」
「リスクか。それならまだ安心ね。覚醒しただけで景色が変わるのに、ホイホイと自由気ままにスキルを与えられる人がいたら、世界の在り方が変わってしまうわ。」
夢乃さんは鋭い。また驚かれるのも嫌だし、気取られないように先にやっておくか。
「【インベントリ】分解。」
「何? 何か言った?」
「ううん。ただの独り言だよ。」
「達也くん。ポッ。」
「達也はやっぱり凄いよ。弱くて駄目な僕には、もったいないくらいの友達だ。」
「璃音。自分を卑下することない。俺の方が君と仲良くなりたかったんだからね。」
「……ありがとう。」
【
――――――――――
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