第23話 ガリ勉は友情を利用し謀る①

「みんな。俺のせいで本当にごめん。」


 委員長の夢乃雫さんからSクラス襲撃の話を聞いた俺は、迷惑をかけてしまった、璃音、楓雅、龍之介、夢乃雫さんと久保田花恋さん、海老原里桜さんに謝罪をしていた。


 緊迫した雰囲気を最初に和らげたのは楓雅だった。


「顔をあげなよ。達也が謝る事じゃない。学校にはどうしようもないヒエラルキーがあるんだ。仕方ないよ。」


 夢乃さんも楓雅の意見に賛成した。

 

「そうね。この学校は意図的に覚醒者のランクに応じたクラス分けをしている。私達Fクラスは社会に出ても冒険者としては底辺よ。遅かれ早かれ虐げられのは、時間の問題だった。」


 どこの世界も俺が感じていた生きづらさと似ていると思っていると、龍之介が叫んだ。

 

「ちくしょー。悔しいよな。二年になりここの半数が退学したら、統合したクラスでの差別はもっと酷いらしいぜ。だから……うまく言えねー。璃音、言いたい事あんだろ?」


「うん。達也が謝るのは間違ってる。あの日あの時、周りに気付かずに暴走した僕の方が悪い。ごめんなさい。でも、今、話すべきはみんなの問題なんだ。あいつらの理不尽で最低な行為が、僕たちの未来で当たり前のルールになるかもしれない。だから全力で否定するよ。僕は戦いたい。きっとこの中で僕が一番弱い。足手まといかもしれないけど、友達が傷つけられて、やられっぱなしは嫌だ。」


 龍之介が璃音の話を聞いて、満足そうに肩を組んだ。

 

「やっぱり璃音に振って正解だった。最高だぜっ。言語化サンキューな。俺たちも同じ気持ちだ。な? 楓雅。」


「……え、うん。」


 楓雅の言葉にいつものキレがない。夢乃さんは、それを見てから龍之介の話に意見した。


「あのさー男子。例えば、立場が逆転したら同じことをしないって言い切れるの?」


「そんなのは当たり前だ。かっこ悪い事はしねー。委員長、達也を見てみろよ。強いのにこれだけ謙虚なんだぞ。」


「じゃあ。そのかっこいい達也くんは、これからどうするの。璃音くんの言ったように戦う? それだって暴力に変わらないわよ。」


 夢乃さんの言葉を受けて俺は考えた。正直、この前までの俺だったら龍之介達の意見を全面的に肯定したと思う。辛い立場は共感出来るし、美優がしてくれたように、誰かの為に行動したかった。


「俺はこれまで冒険者から誹謗中傷や暴力をたくさん受けた。辛い気持ちもよく分かるよ。けど同時に俺もモンスターと本気で命のやり取りをしてきた。ひょっとしたら、大切な人が次の瞬間に死ぬかもしれないと考えた。大きな問題を抱えると、小さな問題を軽く考えてしまう。それが今の俺だよ。仕返しをしたいとか、誰が悪いとかにはあまり興味はないんだ。」


「ほらね。」

 

「夢乃さん違うんだ。長くなるけど最後まで話を聞いて欲しい。戦う意味を感じるかどうかで今の俺に動機を求められても分からない。俺はその時のリアルを見ていないから。Sクラスの暴挙は聞けば分かる。その場にいたら、それぞれが感じ取った真実、璃音や龍之介の悔しい気持ちにもっも寄り添えたと思う。」


 ごめん。今の考えはやっぱり違うんだ。


「それじ……ごめん、続けて。」

 

「俺は自分が見て、自分で考えた事を信じるって決めたんだ。客観的に冷たい表現になってしまうんだけど、全て自分で判断するなら他人のせいには出来ないでしょ。……なんでも信じて素直に流されるのが今までの俺だった。だけどそれが自分の目を曇らせてきたんだって、やっと気づけたんだ。……自分の素直さのせいで、俺の大切な人の……ごめん話が逸れちゃったね。」


 自分の中に生まれたとてつもない悲しみと自分への怒りで、たまに暴走しそうになる。怒りに身を任せたら、このモヤモヤを誰かにぶつけてしまいそうで。自分が怖いんだ。


「……。」


 でも、今は二度と大切なものを失わないように、俺だけは冷静でいなきゃならない。

 

「相手とは模擬戦の約束をしたんでしょ。未来にはもっと大きな被害を受けるかもしれない。俺がダンジョンで学んだ一番大きなこと。それは想定も出来ないような悲劇だよ。敵は命懸けで挑んでくる。そんな相手に俺たちは全力で立ち向かう前に、ある程度の危険を予測しないといけない。誰かが死んでからじゃ遅いんだ。だから戦う為の動機ではなく、守るために備えたい。」

 

「達也くん、ごめん。そんなに悲しい顔をしないで。」「僕こそ、頭に血がのぼっていたよ。冷静さも必要だね。考えがあるなら達也の話を聞きたい。」「よく分からんが深いな。さすが達也だぜ。」


 涙が出そうだ。こんなに苦しくて、自分の意見を押し付けたのに、みんなはそれを受け入れてくれた。それなのに俺は、これから、自分の目的の為に君たちを利用する。

 

「ありがとう。こんな事になってから言うのは卑怯かもしれないけど、強くなるために俺からみんなに提案がしたい。」


「さっきは意地悪なことを言ったけど、私もみんなの本音が知りたかっただけなの。私はこの目で見たから判断出来る。Fクラスの委員長として、Sクラスの横暴は許せない。その提案、乗りたいから是非話してちょうだい。」「俺も達也の提案なら喜んで。」「私も達也くんと一緒に頑張る。」「やっぱり達也は頼りになるよ。」


 恐れ、迷い、何が正しいのかなんて分からなかった。みんなはまだ出会ったばかりなのに、俺を素直に受け入れてくれる。たった今傍観者の立場で物を言ったばかりの俺を。


 まるで、昔からの友達のように。


 だから、申し訳ないけど、これは俺の心からの想いになる。

 

「ありがとう。俺はこのメンバーを信頼する仲間として選びたい。だから、俺と一緒に塔の攻略をしてくれないか?」


 やっぱり、これは虫のいい話だ。出会ったばかりで巻き込むなんてね。このために短期間であらゆる計画を重ねた。それでも、伝わらない。伝わるわけがない。


 だって、まだ、俺たちは。

 

 海老原さん以外が盛大にコケている。


 

 龍之介が起き上がり、俺の腕を掴んだ。

 

「ばばば……馬鹿なことを。そりゃ。今、塔の攻略は覚醒者全員の憧れだよ。俺には願ったり叶ったりの話だけど、そんなのって四大ギルドにしか許されていないんだぞ。」


 あれ? 辛辣な意見を言ったくせに、勝手に選んで勝手に巻き込んだ事に呆れているんじゃないの?


 続いて、楓雅が口を開く。

 

「達也……ごめん。そんなにも思い詰めてたんだな。けど、それはあまりにも無謀すぎるよ。まさかそんなにも自分を責めて。俺たちに一緒に犯罪を犯そうだなんて。」


「うんうん。正規に登録した人しかダンジョンには入れないんだよ。しかも、塔に至ってはまだ四大ギルドにしか許されていない。勝手に入ったら重罪だよ。ごめん達也。もう男子批判なんてしない。だから、現実に戻ってきて。」


 なるほど。そういうことか。

 

 たしかに、順序立てて話さないと、意味が分からないだろう。あまりにも当たり前のように命令されたから、俺も当たり前の事としてお願いしてしまった。

 

「……ごめん。勘違いさせちゃったね。まずは安心して欲しい。俺は国内第一位ギルド『影の シャドウゲート 』のメンバーなんだ。ここだけの話だけど、冒険者協会の会長高杉直人とギルドマスターの九条美玲から、とある依頼を受けている。信頼出来る仲間を作り、塔を攻略せよ。それが俺に与えられた使命で、俺は今日話を聞いて君達を選びたいと思っている。」


 説明の仕方がまずかったのか。より一層みんなに変な目で見られている。みんな黒目を小さくさせて引いているようだ。

 

「キャー。」夢乃さんが久保田さんの頬っぺたを抓る。


「ごめんっ花恋。痛かったのね。夢じゃないか。」「雫の馬鹿っ。そういうのは、自分の頬っぺでやるの!」

 

「委員長の気持ちも分かるぜ。俺も狐に抓まれたみたいだ。」

「俄には信じ難い話だけど、達也が言うと現実味がある。」

「私は達也くんを信じるよ。」

「やっぱり、達也くんは、私の王子さま。」


 良かった。受け入れてくれたみたいだ。これからは言い方にも注意を払わないと。……まだみたいだ。璃音の表情だけがまだ険しい。

 

「うおぇっ。ごめん達也。それが本当だとしても、強烈な死の匂いがする。」


 そうだよな。俺も最初にそのリスクを考えた。だからこそ、今はハッキリと言える。

 

「璃音。絶対とは言えないけど、何があっても仲間を守る気持ちがある。余裕を持って限界を見極め時には撤退もする。今の世の中危険じゃない場所なんてどこにもない。今、準備を万端にして挑めば、危険を犯すだけの見返りもあるんだ。それこそ、もっと大きな危機に瀕した時に強さは絶対の武器になる。」


「……うん。そうだね。分かった。」


 やっとスタートラインに立てたところだ。一同の不安はまだまだ拭えていない。唐突に言われても信じられないのは当たり前だ。これを乗り切る為の計画はまだ俺の頭の中にしか存在しない。困惑しながら龍之介が質問した。

 

「なあ。準備をどうやったら、俺たちだけで最低Aランクのダンジョンに潜れるんだ。委員長以外はBからEランクだぞ。」


「それは次の授業にかかってるかな。確信するまで、ちょっとだけ時間が欲しい。俺はクラスメイトの力を既に把握済なんだ。だから最高の可能性を用意してあるよ。」



 

――こうして、授業が始まる。

 

 

 石井先生が教壇に立つ。


 今回の授業でいつもと違う所は、警備主任のコードネーム:ラブリさんが、教室の入り口に控えている事だ。

 

「この学校の授業では、正答が複数あるオープンエンド問題を多く取り入れている。また、生徒達がチームで問題を考え、その解決を別のチームが導くというプロジェクト型の学習も同等だ。この学校の生徒なら、なぜそのような取り組みに力を入れているのか、理解しているだろう。夢乃くん答えなさい。」


石井先生の言葉を受け、夢乃さんが立ち上がり答える。

 

「はい。私たちが常に疑問を持ち、いつ如何なる時も正解が一つとは考えず最適な答えを探し導くためです。また疑問を持つという行為は、深く考えて一つ一つの仕組みを理解することにも繋がります。問題提起をする癖をつければ、私たちは最適の未来を望んで掴む事も出来るはずです。」


 耳が痛いな。さっき偉そうに彼らに言った事も、彼らは既に考えていた事かもしれない。俺は美優に出逢うまで、出逢ってからも、誠も嘘も真綿のように吸収し、あらゆる当たり前を信じきっていた。


 この学校にもう少し早く通えていたら、あの人達の優しい嘘やその計画に気づけていたのかもしれない。


「素晴らしい答えだ。他にも理由はたくさんあるが、君たち自身でその本質に迫りなさい。では本題に入る。今回私は理事長からの指示でとても特殊な授業を託された。この授業がなぜ必要で君たちに何をもたらすのか。よく考えて、真に身のある授業にするよう心がけなさい。」


「「「はいっ。」」」


 石井先生は教室の入り口を睨んだ。


「体罰暴力女……間違えました。新入り ・・・のラブリ先生。よろしくお願いします。」


 ラブリさんがお返しだとばかりに、石井先生を睨む。


「気をつけろ、この変態好色女。私は先生ではなく警備主任だ。フンッ。あなた達、入りなさい。」


 この二人は仲が悪いらしい。これからは刺激しないよう十分に注意しよう。





――――――――――

 

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