第22話 圧倒的な強さを前に僕は笑うしかない②
会長に塔の攻略を指示された後、改めてギルドマスターの美玲さんからも指示を貰った。
「達也。あなたに全てを背負わせるのはお姉ちゃん心配なのだけど言うわ。Fクラスの中から、信頼出来る人達とパーティーを組みなさい。そして、会長が言ったように塔を攻略するの。私は別の仕事があるのだけれど、その為に全力でサポートする。主にアイテムとかアイテムとかね。」
「……アイテム推しだね。」
「達也、分かってくれたのね。アイテム推しなの。」
「はあ。」
「でも、仲間を作る事も大切だわ。それはこの国の未来を変える程、重要になる。」
――仲間か。
俺は新宿冒険者学園大学附属第一高校で強者達を体験した。その上で思った事は、彼等より自分が遥かに格下だという事実。
彼等の全員がAランクだとして、塔のランクもAランクが最低基準になる。
自分も含めて、Fクラスの仲間達とでは、とても塔を攻略する為の戦力にはならない。クラスメイト達のランクはBからCが多く、俺がなんとしても友達になりたい璃音に至ってはスキル持ちの最弱とも言われるEランクだ。
楓雅と龍之介にもお願いしたいが、生死に関わるような危険な申し出を受け入れてくれるかどうか。
――考えた結果、俺は美優と千尋を連れて、Bランクのダンジョンに行った。
自分のレベル上げと共に、仲間を守りながら戦う事に慣れようと思ったのだ。しかし、その俺の思惑は根底から大間違いだった。
考えればすぐに分かるはずだったのだが、美優と千尋は、俺よりも遥かに強い特別だった。特に千尋は……否、戦闘時は闇の魔女ミレナアトラスと言おう。彼女は規格外の強さだった。
ミレナアトラスがモンスターの前に、両方の拳を付き出して笑っている。
「キャハハハ。どっちの手にあるでしょう?」
「グォォォッ。」
「外れ。コッチでした。」
ブシュー
千尋が右手を広げると大きな魔石が出現する。モンスターは胸の中央から貫かれたように、大量の血を吹き出しながら倒れた。
「はい。達也、魔石だよ。」
「あはは。変身後の千尋の物々交換。制限もなくて凄まじいな。ただの空気とモンスターの核である魔石を交換するなんて、もはや物々交換とは言えないし、無敵じゃないか。魔女というより、手品師、奇術師みたいだ。」
「うんとねー。強い魔物だと核を奪うのは無理だと思うよー。だから、この武器が必要なの。外側から抉る用の武器。」
そう言うと千尋は、この前デパートで買った棒型
「格下扱いのここはBランクダンジョンなんだけどな。スキルを移動したりキメラを作るとか、記憶を失うような攻撃はしないでくれよ。……あと、一応そいつがボスみたいだから無理すんな。」
歩きながら入ったボスのフロアでは、どこか神秘的な魔族が不敵に笑っていた。
「私は知恵を持つ魔物。そして、特別な力を持つ。私のスキルは、私にとって最適の未来を教えてくれるのだ。【
ブシュー
「うん。分かったぁ。はい。魔石。」
「返事は攻略前にしてくれよっ。問題なかったみたいだから良いんだけど。」
という流れで、Bランクダンジョンをサクサク攻略し、現在はAランクのダンジョンにいる。
それも図書館ではなく、未知の洞窟タイプのダンジョンだ。
異世界侵略の第二章
現在美玲さ……お姉ちゃんが一人で対応しているのがこのダンジョン。ボーナス有りで目立っていた塔型のダンジョンの裏側で、これはこれでとても問題になっていた。
四大ギルドは塔の攻略をするので、国内ではお姉ちゃんしか対応出来ないらしい。
冒険者協会では中型ギルドが複数集まる連盟が検討され、新型ダンジョンの今後は強者が集まりパーティーの上の大規模レイドとして未知のダンジョンに挑む予定らしい。ボーナスステージという塔型以外は、一度に何人いても挑戦出来るみたいだ。それに見合った報酬もある。
「あはは。ここって未知のダンジョンだよね。」
「きゃはは。こっちでした。」 ブシュー
「【槍術】トラスト」 ドサッ
二人が競い合って敵を倒すので、俺と美優&千尋の差はますます広がるばかりだ。二人の成長は俺が新たに覚えたスキルのせいでもある。
ダンジョンに行く前に、インベントリ機能にあったスキル合成を使った。合成したのは、ステータスを母体に【感情共有】と【
俺のステータスの効果をパーティー効果のある鼓舞と他人と共有出来る感情共有と組み合わせたらどうなるのだろう、という安直な考えだったのだが、俺の想像と見事にハマった。
【ステータス】+【感情共有】+【
【ステータス】[ステータス効果 パーティー共有 on/off 追加効果 意思疎通・スタミナ微回復 ]
この先、俺がパーティーを組んだ時、パーティーメンバーはモンスター討伐での経験値を俺と同じく獲得出来る。獲得経験値はパーティーメンバーが倒したもの全てとなり、俺は半分貰えて残りは人数割り。
普通なら俺の成長のが早いはずだが、二人はLv1スタートだったので、運動能力や魔力など俺の成長率とは比較にならない。
「【超音域】音遮断……からの爆音 わっ!『ズゴゴォッーン』 【槍術】一閃。」
美優の前にいた三匹のゴブリンエリートが、動きを止めると鼓膜から血を流して耳を塞いだ。その瞬間に、美優は三匹の胴体を斬り裂いていた。
「美優さん。Aランクダンジョンの魔物を雑魚扱いなんですね。怖いので、これからは敬語でも宜しいでしょうか?」
「馬鹿な事を言わないでよね。私はサポートに適しているスキル構成だったの。だから、これはダーリンの力のせい。たった半日で、単独で格上に通用する攻撃力ってどうなの。それどころか【超音域】【槍術】【瞬足】全て別次元のスキルに変わったわ。」
「でも、Aランクのダンジョンまで、俺の出番無しって辛すぎるよ。二人を守るって意気込んでいた自分が情けない。」
「それもダーリンのせいよ。今までは自分に自信を持てなかった。それなのに、今は全てが一人で完結する程の圧倒的な力を持った。こんなにも楽しいバトルは、生まれてはじめてよ。」
「クスッ。楽しいなら良かったよ。俺も嬉しい。千尋は惨めな俺に代わってくれるかい?」
「やだっ。僕も楽しい。」
「達也、ありがとう。でも、そういう事だから、ボスまで待っててね。」
それは侵食前ただの洞窟だったもの。それが空間ごと異世界に変容した。
図書館戦争とは違い、転移ではなく、ここも現実のうち。その広大な
「約束覚えてるよね? 最後くらいは俺が。」
「はーい。」
扉を開けると、世にも美しい魔族がいた。進むと自動で扉が閉まる。
「【鑑定】」
『 ×◽︎g◇r〇 ma■a△i
魔王軍四天王複製体 ラブマーリン
スキru
【〇魔×】
【 複製 】
【N△軍】
【偽〇n■由】』
俺は戦慄を覚えた。
「やばいっ。やばいやばいっ。二人とも下がって。鑑定でエラーが表示されるのなんて、これがはじめてだ。」
「ゔっ。ヴぁああぁぁぁっー。」
「どうした千尋っ!? 精神攻撃か? 美優、千尋の事を頼んだっ! 扉は開くか? 最悪の場合は逃げてくれ。」
「無理、開かないわ。」
これまで圧倒的な強さを見せた千尋が、戦闘不能になった事で俺は冷静さを失った。今までの生死を賭けた戦いが、迷わず本気で挑むことを判断させた。
「【
「【 複製 】【
とてつもない威圧感を感じながら、距離を詰める。
「【
「【 複製 】【
異様な力を感じる。先行しなければ勝ち目はない。だがなんだなんだ。あのスキル――
「【
「【 複製 】【
まさかコピーし――
思考より前に発動してしまった。選択肢を間違えた事に気付く。
キュルキュルキュル
……詰んだ。
咄嗟にそう思った。
強大な敵が俺の能力を複製し、全力で返してくるのだとしたら、いくら、味方との距離を離しても、俺の最強の全体魔法が相手の全体魔法とぶつかったとしたら。
相手の反撃が強大であればあるほどに、範囲はこの部屋全体に及ぶかもしれない。
ズドドドドドドッ――――ン
なぜ俺はここで範囲魔法を選んだんだ。……本能が他にも敵がいるように感じたんだ。
『【
爆風が散ると、目の前には何もない。あの異質な力の輪郭すら失われていた。
『Ka×◇〇a ■◽︎n×m△ 魔王軍四天王の複製体を討伐しました。経験値を獲得します。木元達也がレベルアップしました。木元千尋がレベルアップしました。九条美優がレベルアップしました。九条美優がLv20となり、レベル限界に到達しました。』
後ろを振り返ると、美優達がいる。
なんだったんだ。コピーしただけ? 手応えがない敵。
……あれは本当に敵だったのか。
まるで……
杞憂だな。現に千尋は何らかの攻撃を受けていた。
「美優……千尋は?」
「大丈夫よ。ただ眠りながらとっても悲しそうに泣いているの。起こしてあげるべきかしら?」
「【鑑定】……何も異常はない。俺が抱いて帰るよ。今は寝かせてあげよう。」
ボスのいた場所に『龍と生命の杖』が落ちていた。
自動収集されないアイテムもあるのか。
「ダーリン。これ見てっ。ダンジョンクリアの報酬じゃない? なにか不気味なものが。」
「うん。鑑定するのから、ちょっと待ってて。【鑑定】」
『 k〇×◽︎△༅※□§の卵 』
「何かの卵みたいだ。」
ダンジョンクリアの報酬は、先程のボスと同様に、得体の知れない何かの黒い卵だった。
「持って帰っても大丈夫なのかな? 魔物が出てきたりするんじゃない。さっきの綺麗な魔物みたいな。」
「……そうだね。これは置いて行こう。鑑定が効かない以上、俺たちが判断していい代物じゃない。」
「うん。」
死ぬ思いだった。それよりも大切な人達を死なせてしまう可能性の方が恐ろしかった。その後で臆病になっていたのかもしれない。
二人を早く安全な場所に連れて行きたいという気持ちだった。
だから俺はその時その選択肢を思いつかなかったんだ。
ここで卵を破壊しなかった事が、俺達のその後の運命を大きく変えることになるというのに。
――――――――――
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いつも感謝しております。<m(__)m>
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