第21話 つわものどもが夢の調べ②
――
なにやら機嫌の悪かった達也くんはすぐに早退した。
僕はというと彼のせいで休み時間毎に、クラスメイト達が話しかけてくる。この学校に入学して以来の最大のピンチだ。
陰キャの僕に誤解を解くような会話スキルはない。今は昼休みバンドマンという、陽キャの代表みたいな葛西
もちろん、彼の相方である佐竹龍之介も一緒だ。一心不乱にご飯を食べていので、会話は実質二人だ。
「璃音。この学校の勢力図は知っているか?」
「う、うん。」
意思表示のうんが、どもってううんになった。案の定
「三年生最強『無敵超重』
今日の朝、『氷神』雷神 宗介のいる『
「へぇ。」
「凄いだろ。元ランキング1位のギルドだぞ。そして、同時刻。『
「……はい。」
「一年最強の藤堂我胡は
「はい。」
「こうなってくると学内第二派閥『魔人』野崎
三大ギルドに入る事がそんなに重要だろうか。元々、彼らは自分のギルドを立ち上げるという前提で、派閥の人員を獲得していたはず。むしろ、有利なのは野崎先輩に思える。
「……なぜです?」
「璃音。ひょっとして、昨日の会見見をてないのか? 都内に出現した四つの搭は全て四大ギルドが抑えているんだぞ。」
「三大ギルドではなかったでしたっけ?」
「塔に関する会見で、うちの理事長『戦女神』と生徒会長『
「理事長の能力が三大ギルドより上位に位置するのは知っていましたが、たった二人だけで最上位ギルドになるなんて。生徒会長の力は強いんですね。」
「いや。きっと理事長の力だろうな。生徒会長も強いけど、相性次第ではどうにもならない事もあるらしい。だから、決闘を避けてるって話だ。会長と副会長が二人でいる時なら話は別だよ。」
副会長の話が俺には地雷だ。誰も知らないだろうけどね。
「……話を戻しますけど、塔に参加出来ない野崎先輩がなぜ不利になるんです?」
「それも知らないんだな。ちょっと、待ってな。Hey Mother 世界に出現した塔のダンジョンに関するを検索をし要約して。」
『 複数のウェブサイトから情報を検索しました
日本語に変換します
≪ 製作者からの言葉 ≫
現在の覚醒者達の強さでは人類は必ず滅亡します。
そこで私は平等にチャンスを与える事にしました。
塔の攻略は人類に用意されたボーナスステージです。
人類滅亡を回避する為の最重要の課題となります。
塔で獲得可能なアイテムは魔物の素材だけではありません。
覚醒者の能力を高める報酬がふんだんに用意されております。
たった1階層の攻略が、今までのダンジョン攻略で得られた利益より何倍も価値があるのです。
≪ ダンジョン『 搭 』のルール ≫
①全100階層のダンジョンを登っていく
②1階層クリア毎に上階に繋がる扉が開き破格の報酬が貰える
③初回攻略階層は報酬が更に豪華になる
④最大10人での参加が可能
⑤敵はAランク以上で階層が上がる毎に強くなる
⑥塔での活躍は国内ランキングに反映される
⑦階層の敵を倒せば魔法陣が出現し途中離脱も可能
⑧一度離脱したら1階層からの挑戦に戻る
⑨ 攻略途中での途中参加不可
⑩三ヶ月以内に100階まで到達しなければダンジョンブレイクが発生する。
※クリア以降も1年周期での攻略が必要
≪ クリア報酬 ≫
史上に出回らない程に強力な武器や防具・身体能力強化・魔力増加・新スキル獲得の秘薬など
※ 注意喚起 ※
初回攻略のタイムリミットは三か月です。
塔タイプのダンジョンブレイクの危険度はこれまでのダンジョンとは比較になりません。
一匹の魔物の強さはAからSランクです。
塔の一階層から百階層までの全ての魔物が一斉に解き放たれます。 』
「……ぅ。」
「どうだ。凄いだろ。塔のダンジョンは夢がいっぱい詰まってる。」
「それなっ。……モグモグ。俺も四大ギルドに入れるなら志願するぜ。」
やはりFクラスだから、こんな馬鹿しかいないんだな。
体が小刻みに震える。こんな情報なんて見なければ良かった。
だから一人が良かったんだ。
ダンジョンや魔物のAランクは人間のAランクとはわけが違うんだぞ。Bランクのダンジョンでさえ三大ギルドにしか対応不可能だった。
吐き気がする。とてつもない死の臭いがする。
「どうしたんだよ。なんで震えてんだ璃音。……そっか『無敵超重』と『魔人』の戦いに突っ込んだお前だ。武者震いなんだろ。」
「すげーな璃音。俺なんて親に止められてダンジョンにも潜った事ないんだぜ。学校を卒業するのが先だって、ここに入れられたんだからな。」
人が死ぬのを実際に見た事がないんだな。
この人達はまだ平和ボケしている。
あれだけたくさんの人が死んだのに、まだ死を意識出来ていない。
「……もう……勘弁して下さい。あなたたち迷惑なんですよ。昨日まではずっと無視していたじゃないですか。何で今更、僕なんかに構うんです。……僕は一人が好きなんです。」
僕は教室を後にした。トイレに走る。
僕は死の臭いが苦手だ。
耐えられない痛みだ。
けど今回は、痛みだけでなく何かがおかしい。
製作者ってどこの誰なんだ。
何でみんな、危険や疑問より特典の方に注目しているの。
みんな危機感が足りないんじゃないか。
とっても腹が立つ。
誰かが死んじゃうかもしれないんだぞ。
これも全部、達也くんに巻き込まれたせいだ。
一人でいればこんな嫌な気分にならなかった。
……。
これって、何かと似ていないか。
僕だ。
「……はははっ。笑える。」
意図的に目を逸らしていた分だけみんなよりも酷い。
見る必要はなかった。見えないだけで安心だから。
僕はずっと一人でいる事に逃げていた。
だけど、自分の平和を脅かされただけで、こんなにも怒っている。
僕はみんなが普通に出来る事さえ避け続けて来た。
そんな僕が、死を予測した瞬間に発見者の顔して、彼等を蔑むのか。
今まで見えていなかったのは自分も一緒なのに。
滑稽だな。
気付いても、陰キャに変わる勇気はない。
それに。
「あれだけ、酷い事を言ったんだ。チャンスはもう失われた。」
久しぶりに友達と話せて、悪い気はしなかった。
死の恐怖に直面するまで、心地良いと感じていた。
顔を洗い頭を上げると、鏡越しに楓雅くんがいた。
「璃音っ。今まで無視していて、ごめん。いつも下を向いてるから話しかけにくかったんだ。でも朝の達也を見て、自分の愚かさを知ったよ。あいつは、まだ二日目なのに璃音の事を気にかけ追いかけた。だから璃音が本当は臆病だって知ってる。あの場に居合わせた事も本当は偶然なんだろ。俺達は璃音の事を知らなすぎる。だから話の種にしたかっただけなんだ。」
龍之介くんが楓雅くんの肩を叩き、話を続けた。
「俺もごめん。璃音はずっと一人だったから、ちょくちょくは見ていたんだぜ。休み時間はいつも寝ているように見えて、ずっとタイミングが合わなかった。俺達、友達になれねーか? 一人が好きなら、それも優先するからさ。話したい時に話すだけでまずは十分だ。」
あれだけ酷い事を言ったのに、二人は僕に頭を下げた。
陽キ……友達の勇気が
僕が勇気を出すまでの距離を縮めてくれた。
僕はまだ誰かといる事が怖い。
自分が誰かを傷つけてしまいそうで。
だから一歩だけ進んでも良いかな?
「楓雅くん。龍之介くん。さっきは酷い事を言ってごめんなさい。許されるのなら、僕も友達になりたいです。」
「くんはいらないよ。もう友達なんだろ。」
「璃音の事が少しだけ分かったぜ。お前はいい奴だ。」
二人共背が高くて、上を向くのは久しぶりだった。
明日は達也くんに声をかけてみよう。
達也くんは僕に手を差し伸べてくれようとした。
今思えば、僕はそれを直感的に拒絶した。
「ありがとう。」
彼は僕よりも深く傷つき、誰よりも死の臭いがしていたから。
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