第15話 ババの少年は今も密かに狙われている

 一階は主にEランクダンジョンの素材が使われた装備品だった。雑魚のモンスター素材しか使われていない為安い。代わりに人類の科学力が盛り込まれているものも少なくなく、1万円から10万円くらいまでの商品が並んでいた。

 

「【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】【鑑定】」


 一階の商品を片っ端から鑑定したが目ぼしい商品は見つからなかった。


「【鑑定】……残念だけど、このフロアの物は、装備品としては使い物にならないな。だけど、インナーを選ばないか?」


 あとはモンスター素材が使われていないエリアしか残っていないので、装備の下に着る服を提案をした。

  

「それ良いわね。今まで中に着る服は動きやすい服を選んでたけど、戦闘用に決まったインナーも悪くない。三人でお揃いのが欲しいな。千尋は欲しくない?」

「うん。欲しいっ。」

 

「じゃあ決まりだね。どんなのが良い?」

「コンプレッションウェアとタイツなんてどうかしら?」

「賛成。カッコイイと思う。」

「千尋も!」

「千尋。分かるの?」

「分かんない。えへへ。」


 俺たちは、シャツなどが売っている一角に進んだ。

 

「あったわ。」

「男女で別れてるけど、同じデザインの物もあって、なかなか良さそうだね。どんなデザインが良いかな?」

「黒ベースで、差し色の色違いが良いなー。」

「となると、この辺かな。」

「うんうん。」


 陳列された商品を選んでいると、そこに新しいショーケースが運ばれてきた。

 黒と青、黒と赤、黒とピンク、黒と金、黒と銀。

 限定品。上下セットで30万円。

 セール価格になっている。


「【鑑定】ねえ美優。これって、インナーなのに防御力が50もあるよ。Dランク魔物繊維を化学の力で加工しているみたい。速乾性で伸縮性も抜群みたいだし。」

「ダーリンのスキルは防御力も分かるの? 攻撃力は測定出来ても防御力は簡単には測定出来ないのが常識。私の装備品でどれくらいなのかな?」

「防御力250から400。因みにこのフロアの装備や千尋の装備だと10前後だよ。2階の方がDランクダンジョンの素材だとして、俺の装備を参考にすると30から60くらいなんじゃないかな。この限定セール品。そのくらいの品質が装備の中に着れるって凄くない?」

「たしかに。今まで、防御力無しのインナーを着ていた事を考えると、もの凄い防御力ね。……でも、値段が。」

「掘り出し物を探しに付き合って貰ったんだし、値段は考えないでよ。もし買ったら嬉しいかな? 二人共、どう?」

「うん。嬉しい。」「千尋も嬉しい。」

「分かった。すみません、店員さん。」

「ショーケースの商品、サイズを揃えて買いたいのですが。」

「ありがとうございます。どちらの色でしょうか?」

「5種類を全部2着ずつください。」


 サイズを確認し、10セットを購入しようとした所で、レジ横に廃棄処分の棚を発見する。一点一万円。たくさんの処分品が並んでいる中、とても大きな黒い剣と盾のような分厚い物に目がいき持ち上げてみる。


「重いな。【鑑定】」

「達也くん?」

「……店員さん。ここの処分品、黒い剣1つと盾を3つ欲しいです。一緒にお会計をお願いします。」

「感激です。握手して下さい。黒いシリーズ。全部、買って頂けるのですね。Bランクのダンジョンから10人掛りで持ってきたらしいのですが、重すぎて誰にも扱えないんですよ。使えない物に値段のつけようもなく、処分品として扱っていた所です。こちら二階の割引券なのでお使い下さい。」

「ありがとうございます。」

 

 購入した物は全てインベントリにしまった。


「達也くん。本当に嬉しい。ありがとう。」「達也。ありがと。」

「喜んで貰えて良かったです。千尋の装備は二階で揃えようか? それでもなかったら、またさっきのフロアに戻れば良いよね?」

「うん。そうしましょう。」


 俺達はエレベーターで二階に向かった。

 二階のエレベーター前には、10人以上の店員さんが並んでいた。

「「「いらっしゃいませ。」」」


 なんだ。これは。美優を見るが、美優も首を振っている。

 

「お客様、専属のコンシェルジュはいらっしゃいますか?」

「コンシェルジュ? いいえ。はじめてです。」

「それでは、この中からコンシェルジュを一人お選びください。」

 

 掌が指し示す方角から店員さん達を見渡すと、明らかに圧が強い視線があった。私を選んでと目が語っている。

「じゃあ。あの人で。」

 体をプルプルと震わせてから、その女性がやってきた。

「安藤弥生と申します。ご指名頂きありがとうございます。ご案内致します。こちらへどうぞ。」

 俺達はソファーに座らせられた。

「本日はどのような物をお探しでしょうか?」 

「実際に商品を見たいのですが、大丈夫ですか?」

「それはもちろんでございます。あらかじめ商品を教えて下されば、私の方でご案内致します。」


 なるほど。店頭に出してはいるけど商品が一階よりも高額になるから、案内兼警備係のコンシェルジュが付くという事だな。

 

「この子と僕の装備一式を探してます。それに片手剣と、この子が装備するこの苦無クナイみたいな武器を20本くらい用意出来るもの。最後はアクセサリー装備の場所に案内してください。美優はどうする?」

「千尋の衣装は美玲に頼まれたから、ダーリンの審査が通った物があれば教えて欲しいかな。コンシェルジュさん。もし二階になかったら上階の商品も持って来れるのかしら?」

「もちろんです。その場合お申し付け頂ければ、こちらの端末をお渡しします。」

 

「では、安藤さん。先に千尋の装備品から案内して頂けますか?」


―― 女性用、魔導師装備の売り場。大至急1ランク上の装備をこのフロアの値段でいくつか用意しなさい。 ――

 

「かしこまりました。」


安藤さんは、千尋の装備を確認すると、女性用装備の場所まで案内してくれた。俺はその中で千尋に合いそうな衣装を片っ端から鑑定する。


 ―― 【鑑定】【鑑定】【鑑定】...... ――


 結果二階は大当たりだった。

 防御力300以上のローブのセットを六つ確認し、商品を取り出した。

「この六点なら、どれを選んでも大丈夫。(全部防御力300以上だよ)」最後の部分は美優にだけ耳打ちした。


「……信じられない。その品質で全部100万円以下だわ。千尋、合わせてみましょう。」


「安藤さん。黒いバックルで、左右にポケットが付いているもの。もしくはバックルに付けるポケットとかはありますか? 今千尋が付けているような、武器を収納したいんです。」

「かしこまりました。お持ち致しますので、少々お待ちください。」


 あれ? 行っちゃったけど、警備は関係ないのかな。


「達也くん。千尋と一緒に装備品は決めたわ。帽子も付いてるし、このセットアップ可愛いくない?」

「とても似合いそうだね。」

「うん。」


「お待たせしました。バックルはこちらから、どれでも。ポケットと差し込む武器も20セット用意出来る物をお持ち致しました。」

 

 ――【鑑定】――


 商品はとても上質で値段もセール品になっていた。ツイてる完璧だ。

 

「では、このバックルとポケット2つ。この武器とこの武器を20個ずつください。先にお会計をお願いします。その後に俺の装備も案内をお願いします。」


 結果、千尋の装備品で、俺が支払ったのは180万円くらいだった。消費税込みの値段なので、先程と合わせても約485万円。


 手持ちにはかなりの余裕がある。それなら先に剣を選んだ方が良いな。


「やっぱり先に剣を選びたいのですが。」

「かしこまりました。」


 ―― 大至急剣を……間に合わないですって。仕方ありませんね。予定通り男性向け剣士用軽装備の用意をお願いします。 ――


 俺達は剣が陳列している棚に行く。

 

―― 【鑑定】 ――


 無難な所だろう。

 片手剣の値段は約100万円前後

 攻撃力は130から190くらいまで。

 

 俺の持つ毒鬼 小剣 ソードは攻撃力が175あるので、そんなには変わらない。

 だが、インベントリの統合スキル【錬金】はインゴットやアイテムを作るだけでなく

 一度だけ・・・・武器と素材、武器と武器を組み合わせる事が出来る。毒鬼 小剣 ソードは【錬金】済みの武器なので、最初から攻撃力190の武器は、絶対に手に入れるべきだ。


 アレを手に入れた以上、本当は値段の上限までの物を選びたいくらいだ。


「すみません。剣を買いたいのですが、自分の武器を下取りに出す事は可能ですか? コレなんですけど。」


 安藤さんに毒鬼 小剣 ソードを渡して、説明する。

 

「攻撃力はこのフロアにあるものとあまり変わりません。しかし、斬った相手には毒と猛毒の二種類が付与されます。毒の耐性が低い場合には、かなりの継続ダメージが期待出来ます。」


「かなり手入れをされた武器ですね。少々お待ちください。」


 しばらく待つと安藤さんが戻ってきた。

 

「お待たせ致しました。こちらの測定器のカートリッジを斬って頂けますか? そのような武器は私たちには判別が難しいので、ダメージや状態異常まで測定出来る魔道具があるのですよ。」


 安藤さんが剣を返そうとしたので、両手を出して断った。

 

「安藤さんがやって頂けますか?」

 

「構わないですが、魔力依存の武器は、一般人が使用しても効果あり……え? …………信じられない。なぜ魔物素材のカートリッジが損傷するの。それに異常なほど高い毒が検出されています。これは一体どういう事なのですか? これは誰が作成したものなのですか?」

 

 思った通りだ。俺の魔力、最初は1だった。その俺がスキルで作ったこれは少なくとも継続ダメージに関して魔力とは関係のない方法で作動するのではないかと考えていた。

 

 仮に聖気というものが武器を通して魔物にダメージを与えたとしても、魔物素材の毒が聖気に反応するとは思えなかった。


 例えば、鍔に装着して取り外しも出来るこの魔石が出力の原因ではないか。最初は剣と魔石を【錬金】したせいかとも思ったが、帰ってきてから武器と別の素材を【錬金】しても同じく鍔に魔石装着用の窪みが空いた。


 それを安藤さんに検証させてもらった。

 

「俺がスキルで作りました。ここに魔石をセットしてありますよね。効果が切れたら、新しい魔石に付け替えると良いんです。」


 安藤さんが目を潤ませながら、俺の手を握った。

 

「やはり、私の目に狂いはありませんでした。これは覚醒者でない者が魔力を使わずにモンスターに対抗出来る手段になります。これは世紀の大発明品です。値段など付くでしょうか。……いや。まさか。これを量産出来るのですか?」

 

「そんなつもりはありませんでしたけど、素材さえあれば作れなくもないです。スキルで作るので量は限られますけどね。」


 何かを決意したように名刺を取り出す。

 

「木元達也様。もう一度名乗らせてください。私、冒険者総合デパート『Yayoi』の社長を任せられております安藤弥生と申します。こちらは私の名刺になります。是非とも、我社と契約を結んで頂けないでしょうか?」

 

「安藤さん……社長さんだったのですね。なぜ、俺に近づいたのですか?」

 

「ご自身の価値を分かってらっしゃらないのですね。今でも達也様は冒険者を目指す未覚醒者の希望なのですよ。当然、私もずっとずっ〜とお慕い申しております。」


 目の圧が痛い。俺に期待してくれていたにしても、このフロアに偶然社長が居合わせ、流れるように指名されるのって不可能だよな。

 

「いや。でも、偶然にしては……」

 

「デパート内でお見かけした瞬間から、それはもう、ありとあらゆる手段を用いて全力で接点を持ちました。私が社長になったのも、きっとこの瞬間のためだと気づいてしまったのです。憧れの達也様とお話したいという欲求は、社長の業務をも超え…………すみません。取り乱しました。」


 それで最初の店員さんは、安藤さんを勧めている感じだったのか。いや、それ以前にも一階のレジの店員さんも安藤さんみたいな顔だった気がする。……そういえば、三階の時、きっと兄妹だって願っていたのは女性の声だったような。今思えば、全部安藤さんだったのか。

 

「……今日は二人と買い物中なので、また後で来ますね。その時にお話をしましょう。……そうだ。出来れば廃棄品が良いのですが、元々の攻撃力が高くて処分する武器などはありませんか? 俺は剣マニアなので、強かったけど、お役御免になった武器を部屋に飾るのが趣味なんです。お売りして頂けたらありがたいです。」

 

「もちろん。冒険者武器は一般人が処分する事は出来ません。そして『Yayoi』は日本一の冒険者専用デパートです。購入時に廃棄処分を希望される数も日本一かと。こちらの武器、下取り価格を、現金で二億。それと廃棄処分のSランク片手剣とAランク片手剣を一本ずつ付けるという事でどうでしょう? もし、下取りした剣が想定以上の高値で売れた場合は、追加でお支払い致します。」

 

「ににに……二億っ! 是非よろしくお願いします!! それではこの剣もお願いします。契約の件も前向きに検討しますね。」

 

「ありがとうございます。準備をして参りますのでらしばらくお待ちください。」


 あまりの高額に放心していると、横から強い視線があった。

 

「美優さん。もしかして、美優さんの装備買えるかな?」

「いらない。別の機会にしましょ。」


 分からない。何かやらかしてしまったか。

 

「……なんか怒ってない?」

「……別にっ。達也くんには怒ってないもん。ふん。」


 恭弥……早速、助けてください。

 

『デート中に相手の機嫌が悪くなったらどうすれば良い?』

『場合にもよるが、くれぐれも論理的な意見で解決をしようとするなよ。ほとぼりがさめるまで待つ場合も、黙り込むんじゃなくて、ちゃんと考えてるって思わせなきゃいけない。軽度の怒りなら、怒った顔や態度を褒めろ。言葉だけじゃ足りない部分はアクションで補わないと、本音だと信じて貰えない可能性もあるぞ。嘘だとバレたら逆効果だ。』

『ふざけんな。馬鹿。難し過ぎるだろ。もっと簡単な方法求む。』

『真剣な忠告を無駄にすんなバーカ。お前が馬鹿。無理なら自分で何とかして、堕ちるとこまで堕ちやがれ。そんときゃ慰めてやる。』


「達也くん。確認だけど鼻の下伸ばしてないよね?」

「え。何が?」

「そっかー。ふーん。別に良いんだよ。」

「なんか勘違いをしているような。」

「勘違い? そうかな。今度二人っきりで会うんだよね。あの美人で達也くんに好意的な社長さん。」


「……美優……俺にとっての美優は完全無欠のヒロインで最高なんだ。それだけ見れば浮世離れしているし憧れだ。だから実際は、その英雄を動かす心の方に感動したんだと思う。優しく気遣いに満ちていて、繊細で怖がりなの美優だけの大きな勇気を持っている所にときめいた。いつか君だけを守れるような強い男になりたいって思えたんだ。

 そしてごめんね。今の君に対して、この感情は凄く不謹慎かもしれない。怒った一面が可愛くて目が離せないんだよ。これから美優の隣で、そういういろんな表情を見ていきたい。怒ってくれてありがとう。大好きだよ。」

「……ごめんダーリン。そんな風に思ってくれてるなんて。ちょっと嫉妬してた。自分でも嫌になるくらい醜くいのに、褒めてくれるんだね。もう変な事は言わない。信じる。私だって大好きだよ。」

「千尋も二人が大好きだよ。【物々交換 トレード】」


 

 『 防具制作の知識を獲得しました

 インベントリに統合された【錬金】が【錬金】Ⅱにランクアップしました 』

 

 

 ありがとう恭弥。俺は本当の事を言っただけだけど、お前はやっぱり悪友だよ。凄く怖い。ホント怖い。敵に回さなくて良かった。

 

『サンクス悪魔野郎。助かったぞ。』

『グレイト童貞野郎。もっと感謝しろ。』


 

 キュルキュルキュル



 『【交渉】を獲得しました

 【感情共有】を獲得しました 』


 安藤さんがバックヤードの方から戻って来た。


「お待たせしました。こちらが商品と現金の二億円になります。それと先程、防具制作のスキル職人が達也さんの武器制作について、どんな材料を揃えれば良いのかを閃いたようでして。次に御来店頂くまでに、武器の素材を用意しておきますね。」


 なるほど。さっきの千尋のスキルはそういう交換だったのかな。今の千尋は記憶が極端に少ない。今回は結果良い方向に流れたけど判断を謝るとまずいので、後でその点も話し合わなきゃ。


 

 俺は自分の装備品を選んで支払いを済ませてから、二人には商品を待って貰い、アクセサリー売り場に向かった。

 本当は一緒に選んでも良かったのだが、冒険者用のアクセサリーを買うかどうかは鑑定結果次第なので、サプライズにさせて貰う。


 すぐに安藤さんに商品を渡して、お会計を済ませた。


 安藤さんとの良い出会いもあったし、美優が勧めるだけあって、良いお店だったので大満足だった。

 手持ちの金額が10倍以上になっているし、後で使い道を考えなければいけないな。

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