第9話 ガリ勉は太陽に近づきたい

 ―― 冒険者になってから、ずっと力が欲しかった。


 はじめは弱者の希望としてもてはやされた

 

 冒険者協会は俺を守る為に記者会見で

「Fランク人類最弱の二類覚醒者はババです。」

 そう言われた後は地獄だった

  

 子供だった俺は

 人々の嘲笑が痛くて

 知らない大人の誹謗中傷がとても怖かった

 

 運び屋として働きはじめてからも

 子供のくせに とか 

 あの最弱のガキじゃねーか とか

 もっと酷い暴言を浴びせられたり

 たくさんの嫌がらせもされた

 弱者は虐げられ踏みにじられるものだと知った

 

 それとは別に 最弱の運び屋なので

 毎回 ダンジョンでは死にそうになった

 

 二年前 銀郎傭兵団と専属契約を結んだ時は

 地獄の生活がやっと終わるんだと期待した


 しかし地獄に終わりなど来なかった


 力が欲しい 

 強くなりたい

 

 その渇望は弱い俺がずっと抱いていた「幻想だった」

 夜空の月に手を伸ばして 掴もうと思っていた

 


 だけど 最近になって


 現実の中に「 英雄 ヒロインを見た」


 彼女はとても小さく

 いつも震えてる程に臆病なのに

 誰より強い意志と勇気を持ち

 優しくまっすぐ俺を照らしてくれた



 だから 今は


 誰かに認められたいとは思わない

 振りかざす為の力はちっぽけだと気づいた

 


 泥臭くても人を守る意志を貫き

 臆病でも勇敢に立ち向かえる心が欲しい

 思いやりで他人に勇気を与える人になりたい


 いつの日か、君と並んで堂々と歩けるよう

 

 俺は本物の「 英雄 ヒーローになりたい」

 

 

  ヒーローはいつだって ……




 ――

  


 

「達也くん……達也くん。」

 

「……美優…………ぅう……あ……。みんなは?」


 酷い頭痛だ。気持ちが悪い。よく見ると春奈さんの膝の上にいた。


「ありがとう。あなたのおかげで助かったの。それと。達也くんが寝ている間に、サブリーダーの正義さん達と合流もしたわ。」


 無反応の俺を覗き込む春奈さん。


 ゴツンッ


 思わず飛び起きてしまった。

 本当にモンスターよりもダメージを出す人だ。精神耐性が欲しいです。


「いたたたっ。」「すみませんっ。」「平気平気。」


 「……それじゃあ。」


「うん。後はこのダンジョンを攻略するだけよ。でもまだ顔色が悪いし、まずは体を休めましょう。」


「分かりました。」

 


 

「【ステータス】」

 

 『木元 達也

 種族:人 Lv10

 魔力:6

 職業 学習者ラナ

 

 ステータス 振り分け可能P 20

 HP69 MP51 SP46

 聖力500 筋力10 知力10 操作10 硬度10

 視力10 聴覚10 嗅覚10 触覚10 味覚10


 

 所持スキル

【学習】Ⅱ 【環境適応】【ステータス】【インベントリ】【鑑定】Ⅱ【優位 マウント】【追放 エグザイル

 【 斬撃スラッシュ 】【守護ディフェンス 】Ⅱ【治癒 ヒール 】Ⅱ

 【 招集する光シリウス 】 

 【鼓舞 インスピレーション】【 聖なるセイクリッド 障壁シールド 】【みんなを守るプロテクト

 【 瞬足クイック 歩行ウォーク

 【 光の矢 ライトアロー

 【毒無効】【猛毒無効】【麻痺無効】【幻覚無効】 』

 

 

 驚いたな。蜘蛛の数がやたら多いとは思ってたけどレベルが4つも上がる程だったのか。ただ今回はMP切れが引き起こした気絶だと思う。


 俺が最後に使っていたスキルは、間違いなく覚醒者最強と言われている三葉[♣︎]の魔法攻撃だった。


 しかし、蜘蛛の数があと少しでも多かったら全滅だってあり得た。それならポイントは全部MPに振っておこう。



 ……魔力も上がってるし魔法も使えるようになった。三葉[♣︎]のCランク上位くらいには上がったと期待も込めて。


「振り分けはこれで……? なんだこれ。」


『ステータス

 HP69 MP151 SP46

 聖力500 筋力10 知力10 操作10 硬度10

 視力10 聴覚10 嗅覚10 触覚10 味覚10


 ステータス[NEW]

 

 神聖力 振り分け可能P 1

 放出1 質力1 循環1 変質1 

 

 力量 パワー  振り分け可能P 1

 瞬間火力1 速度力1 持久力1 柔軟性1 』



 新たに振り分け可能なステータスが増えている。


 このダンジョンの危険性はよく分かった。下手したら銀狼傭兵団でも苦戦するレベルかもしれない。


 攻略する上で重要な要素だとしたら慎重に選ばないといけない。


それなら


『ステータス

 HP69 MP151 SP46

 

 神聖力

 放出1 質力2 循環1 変質1

 力量 パワー

 瞬間火力1 速度力2 持久力1 柔軟性1

 

 知力10 操作10 硬度10

 視力10 聴覚10 嗅覚10 触覚10 味覚10 』


 聖力と筋力がなくなり新たなステータスに変わった。


 起きてから少し具合が悪いが、ポイントを振り終わると吐き気もした。それだけ強大な力なのかもしれない。


 


「春奈さん。体調はもう回復したので、みんなが平気なら行きましょう。」


「うん。……達也くん……二度とあんな悲しそうな顔は見たくない。さっきみたいな無茶はもうしないで欲しい。……だから考えたの。達也くんにリーダーを任せたい。私達を頼れだなんて偉そうな事は言えないけど、達也くんのやれる事の一部に私達も含めて欲しいの。」


「あんな事があったのに、春奈さんは強いですね。やっぱり大人の女性にはかなわないや。」

 

「え? 達也くんが子供なだけで、私だって十分若いんですけど! それでリーダーの交代は受けてくれるの?」

「すみません。交代は構わないですけど、逆に一番年下の俺で良いんですか?」

 

「みんなも了承済みの話よ。冒険者に年齢は関係ないわ。……ていうか、その発言には腹が立つわ。私だってみんなより若いの分かってるわよね? さっきも言ったよね? ねー。ねー。達也くんの馬鹿ぁっー! 」

「それは……知ってます!! すみません。子供に……という意味でして……」


 春奈さんは納得がいかないらしく平手でパシパシと俺の頬を叩いたり、つねったりしている。正直、20歳以上の年の差を、俺から見てよく分からなかった。綺麗なお姉さんなんだから良いじゃないか。

 

「イチャついてる所をすまない。」

「井上さん。……怒られているようにしか見えないと思いますが。」


 何かの冗談かと思ったら、井上さんは目の前で土下座をした。

 

「……達也くん……今日一日。最初から。本当に失礼な事を言ってすまなかった。まだ子供なのに、俺たちの為にあんなにも辛そうに……戦って……全て俺の責任なのに……全部君だけが背負って…………見てぃて……胸が張り裂けそうなほど……きつい戦いを……たったひとりで…………ほんどうに……ぅう……ごべんな……さい。………………………………ぅ……………………。自分が……情けない。」

 

井上さんは涙を堪えながら、ゆっくりと話している。なんだかこちらも申し訳なく思い、何も言えなかった。

 

「……。」

 

「人から聞いた情報を鵜呑みにして……俺は本当の君を見ようともしていなかった。現実を受け入れられず、偏見だけで気分を悪くして暴言を吐いた。申し訳ありません。……達也くん本当にありがとう。君のおかげでみんなが助かった。何度謝っても、何度感謝しても足りないと思う。俺はどうしたら良い? どうすれば君に――」


 この人は最初から良い人だった。ただ誤解させてしまっただけだ。

 

「――井上さん、誤解させたのは俺が悪かったです。すみません。さっきの戦いの事はもう大丈夫です。あの時に誰も死なないでくれて本当に良かった。生きていてくれてありがとうございます。」

「なんて器の広い……ですが、それでは。」

 

「それなら、みんなで生きて帰りましょう。そのための力を貸してください。春奈さんにも注意されました。もしまた危険が起きたら、ここからは皆さんを頼ります。」

 

「達也の兄貴、分かりました。この井上。命をかけてでも兄貴やみんなの為に全力を尽くします。」

 

「やめてくださいっ! ……年上の人に畏まられたら、逆に怖いです。それに俺には最愛の妹しかいませんし、同じにされると妹のイメージが……。お願いします。それだけは。」

 

「分かった。けど、どんな形でも達也くんは俺の永遠の 英雄ヒーロー だ。達也くんに言われたら、いつでもなんだってするし、今後は君の力になりたい。その気持ちはダンジョンが終わっても永遠に続く。それを忘れないで欲しい。」


 ……そうなりたかった。でも、実際は最低だった。気持ちだけはありがたく頂いておこう。

 

「井上さん。ありがとうございます。とても頼もしいです。」


 

 続いて


 新たに加わった竹内さんと田中さんが来た。

 全てメンバーが揃ったという事は、ここにいないメンバーの死もあると悟った。気を使って言わないでくれたのだろう。

 

「おい。兄ちゃん。運び屋じゃなくリーダーやるんだってな。楽しみにしてるぜぇっ。がははは。俺のスキルは【チャージ】。攻撃の威力をどこまでも溜められる力を持つ。上手く使ってくれ。」

 

 ―― 【鑑定】 ――


 

「それなら、30秒溜めて、攻撃をして貰えますか?」

「良いだろう! 絶対死ぬなよ。【チャージ】………………………斬鉄剣っ!!」

 


 お腹で受ける。


 

 素晴らしい「パンチ」だ。たった30秒でモンスターの攻撃と同等の力を感じる。


 春奈さんはモンスターを討伐出来るアタッカーがパーティーに二人いると言っていた。竹内さんとその後ろにいるサブリーダーの田中さんだろう。

 


 キュルキュルキュル

 


「凄い攻撃でした。やはりアタッカーの攻撃力は違いますね。それ無しでパーティーが成り立たない意味が分かりました。」

「がはははっ。兄ちゃん良いこと言うなー。そうだろそうだろ。」


 

 

『 【 溜聖チャージ 】を獲得しました

 【 瞬足クイック 突進ダッシュ 】を獲得しました

 【 ヘビー 斬撃スラッシュ 】を獲得しました

 【 聖光の ホーリーアロー】を獲得しました 』



 最後にサブリーダーの田中さんが来た。

 


「達也くん。君、本当は強いんだってね。ボスのいる屋敷を発見した。君は臨時のリーダーになったわけだけど、屋敷までは俺が案内しても良いかな?」

 

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 

 

 

――【鑑定】――



 …………おかしい。


 


 それから俺たちは、田中さんに案内され、一度もモンスターに遭わず・・・ に、森の中にある古びた屋敷に到着した。


 扉を開け中に入ると、荒廃した外観とは違い綺麗な内装があった。この暗くて雰囲気あるイメージはどこかで見た覚えがある。


 建物に敵はなく、通路は突き当たりの大広間まで一本道で繋がっていた。


 



 ―― 怪しい。なんだこの違和感は。 ――



 大広間の扉の前、俺はみんなに指示を出すことにした。

 


「おそらく、この先にいる敵の全力攻撃を喰らって、耐えられるのは、僕と田中さんだけです。中に入ったら僕が左で田中さんが右に分かれましょう。お互い奥に引き付けながら戦います。部屋の左手前には盾を持つ石田さんを先頭に女性と竹内さん。ですが後列の攻撃は控えてください。」


「了解。」「攻撃を控えるとは、なぜですか?」


「ボスのヘイトを奪ったらおしまいだからです。聖杯[♡]スキルは臨機応変に現場を見て行動。俺たち以外の攻撃行動は指示があるまで、しないでください。竹内さんは【チャージ】で溜め続けてください。」


「「「「はい。」」」」


「井上さんと奏多さんは、速度が強みなので、広い中央から右にかけてお互いに少し離れて配置についてください。攻撃は無しの待機のみです。スキルはなるべく使わずピンチにのみ使用です。合図をするかもしれないので、俺の指示を聞き逃さず、スタミナがなくなったら無理しないですぐに女性陣と合流して回復しましょう。」


「「はい。」」

 

「その他、いつでも臨機応変に。不測の事態には、第二指示を春奈さんにお願いします。最終確認です。突撃しても大丈夫ですか?」


「「「「「「「はいっ」」」」」」」



 

 

ボス部屋


 

 ―― 【鑑定】 ――

 『 影狼シャドーウルフ 炎蛇尾ブレイズスネーク

 影に隠れ影を移動する素早い動きが特徴の狼モンスター。捕らえる事が非常に難しい。尻尾の蛇は魔法攻撃も使い、牙には麻痺毒がある。

 

 所持スキル

 【高速】

 【影移動】

 【影分身】

 【影縫い】

 【灼熱地獄】 』



 

 サバイバルゲームかよ

 

 

 ……このダンジョンは

 


 どうしてこうも


 

 つくづく嫌になる

 


 けど だからって俺は二度と仲間を諦めない

 

 

「まずいです。仲間と一定の距離をとってください。敵はこの部屋全体をフィールドにして動き回りながら戦う可能性がある。最初は作戦通りの形で行きましょう。もし僕の考察が正しかった場合、みんなバラバラに独自の判断で、一つの場所にはかたまらないでっ! 絶対に生き残りましょう。」


 


 誰一人死なせはしない

 


 

 ―― ヒーローはいつだって 人のために ――


 

 

「【みんなを守るプロテクト】」

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