第10話 暗殺を恐れた臆病者の叫び
―― 山本 奏多
8年前 俺が17歳の時
世界中で図書館戦争が始まった
18歳
俺はプロのサッカー選手になった
だがその頃
冒険者協会が立ち上がったばかりで
ごく稀にモンスターが街にやってくる
世間は試合どころではなかった
一度も試合に出る事なく18歳で覚醒した
俺の夢は終わった
冒険者に元スポーツ選手が多いのは
覚醒したら試合に出る事が出来ないからだ
身体能力が一般人とは大きく違う
俺は冒険者となりギルドにも所属した
冒険者には夢がある
給料制ではなく報酬制
ダンジョン産の資源は現実世界では高値がつく
一年前 俺と仲の良い運び屋の二人を除き
ギルドメンバー全員が殺された
『 死戒連盟 』というテロリストの手によって
その日から俺は臆病になった
そして 昨日 その運び屋も殺された
代わりの運び屋は木元達也だった
ダンジョンに入って少し時間が経った頃
俺は木元が猿小鬼に殺されるのを見た
それなのに数時間後 彼は生き返っていた
その後の戦いぶりを見て俺はようやく理解した
死戒連盟は 殺人の前に死を警告するらしい
木元こそ『 死戒連盟 』だと確信した
次は俺の番なのだ
殺られる前に殺るしかないのか?
頭の中を殺意がぐるぐると回っていた
――
広大な大広間に、叫び声と足音が響き渡る。
俺たちは息を切らしながら、
高橋さんの足がもつれ転倒する。影狼は影から抜け出し高橋さんの前に出現した。
「こっちよ!」春奈さんが叫ぶ。
声が途切れる前に、影狼は彼女に進路を変え目の前に出現する。春奈さんは咄嗟に身を翻すが、影狼の爪が彼女の肩をかすめる。
「春奈!」石田さんが叫び、盾を構えて駆け寄る。
影狼はすでに消えていた。
俺は春奈さんの所まで走った。
「【
キリがない。なんとか攻撃を当てないと。
大広間の柱の影から影へと、影狼は驚異的な速さで移動する。ここまでなんとか耐えられたのは、奏多さんと井上さんが、素早い連携で影狼の動きを誘導しているからだ。
突然、影狼が天井から飛び降りてくる。「上だ!」井上さんが注意するが遅すぎた。影狼の鋭い爪が石田さんの背中を引っ掻く。彼女の悲鳴が広間に響き渡った。
「くそっ!」俺は何度も剣を振るうが、手応えがある時に限ってそれは分身だった。本体は影を移りすでに別の場所に移動している。
石田さんの傷を癒す。
「【
「春奈!」井上さんと奏多さんが慌てて駆け寄ると、そこに影狼の
「【
三人の所へ走り込み防御スキルを発動すると間一髪、間に合った。
「あの攻撃が一番厄介です。三人以上固まらないで!」
「「はいっ」」
大広間は混沌と化していた。
影狼の姿が至る所に現れては消え、俺たちは翻弄されていく。これで一人も死なないのは、石田さんの盾の役割も大きい。井上さん達が誘導する影狼の位置を把握し攻撃されそうな人の前で庇っている。盾の衝突する音が何度も鳴るが、その度に疲労が蓄積している。
「……もたない。」石田さんが呟いた。彼女の顔が青ざめている。俺は急いで範囲応援と回復スキルをかけた。
「 【
いくつかの法則が分かった。俺の近い場所には分身を出し、遠い場所から仲間を狙う。影狼はそれを狙ってやっている。
かといって、近場の影狼を無視するわけにもいかない。
そう思いながら、竹内さんを見ると広間の中央で、眉間にしわを寄せて【チャージ】を集中していた。その体から放たれる光が徐々に強くなっていく。
「そうか。それだっ……【
薄暗い大広間。俺は天井に向かって、魔法の星を顕現させる。影狼は影の中から飛び出してきた。
「やっぱりな。お前、影が無くなれば、移動も分身も出来ないだろ。ただ早いだけの犬だなっ!【
俺は
「【
二連撃で影狼は体勢を崩す。
「 【
……………………【 聖光の
影狼が起き上がろうとした瞬間に、ギリギリまで溜めた光の魔法を射出した。影狼は叫び声を上げながら、苦しんでいる。
「全員今だっーーー! 「 【
……………………【 聖光の
この合図は一人を除いて伝えていた。あのスキルに対策するには最後の集合は絶対必要だった。予定通り全員がもう俺の所に走っていた。
「みんな悪く思うなよ。さよならだ。【
「「「「 っ!! 」」」」
影狼の命を奪いながら肥大していくエネルギー。
キュルキュルキュル
「【
大広間の半分を吹き飛ばすような強烈な爆発魔法だった。シールドスキルを破壊しながら衝撃が伝わってくる。
「【
思った通りの展開だった。
リーダーを任され、戦闘の様子を直接見ていなかったからこそ、俺は田中正義を【鑑定】した。敵のいないボスまでのルートを案内され、まるで事前に用意されたみたいな違和感だった。
『
【
そして、この大広間。
ここは、俺が一度スキルの全てを失って死んだとされた場所。
「糞ガキ。邪魔しやがって。このウジ虫がぁっ!」
向かってくる田中を奏多さんが蹴り飛ばした。
「違う違う違う。そんなのこれまでの事を見ていれば分かるだろ。――田中! 場を弁えろっ!! 彼は糞ガキなんかじゃないっ! 子供なのに誰より一生懸命で、俺たちみんなを救ってくれたっ!! 彼は本物の
「邪魔すんな。奏多っ。」
俺は奏多さんを斬りかかる田中から剣を払う。春奈さんが田中の腕を捻り後ろで固定した。他のメンバー達も田中さんを取り押さえている。
「二類……田中正義。あなた私達をずっと騙してたの。そして、なぜ殺そうとしたの?」
「……。」
田中は何も答えない。俺は奥の扉に向かって言った。
「いい加減出て来なよ。いるんでしょ? 闇の魔女ミレナアトラス。…………いいや…………神楽千尋。」
扉が開くと闇の魔女が現れ、彼女はその仮面を外す。みんながザワついていた。
「……正解です。気づいてくれたのですね。達也さん。」
神楽千尋はにっこりと笑う。その笑顔は狂気に満ちていた。
「この部屋に入ってから、ずっと考えていましたから。その声と最初の約束も思い出しましたよ。で、神楽千尋さん。俺たちはこのダンジョンをずっと繰り返しているのですか? 俺がここに来たのは、これで何度目なんです。
また、この次もあるのか?」
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