第4話 ガリ勉は野生を学ぶ

※前書きです。必要ない場合は読み飛ばして下さい。


ダンジョン編 登場人物

ギルド所属無し 名無しの固定パーティー

以下、冒険者協会 登録 冒険者情報(極秘)を含む

 

パーティーリーダー

木村春奈 22歳 女性 A型

元看護師

【C2】Cランク二類覚醒者

種類 スート 聖杯[♡]

治癒ヒーリング の手ハート 】回復

 

パーティーサブリーダー

田中正義 30歳 男性 O型

元土木作業員

【B1】Bランク一類覚醒者


パーティーメンバー

 

井上ラン  23歳 男性 AB型

元プロスケーター

【D2】Dランク二類覚醒者

種類 スート 剣[♠︎]

【スウィフト】 速度アップ


高橋朱美 21歳 女性 A型

元書道家

【D2】Dランク二類覚醒者

種類 スート 聖杯[♡]

【チャント】詠唱中仲間のスタミナup


竹内とう  48歳 男性 A型

 元スポーツ選手

【D2】Dランク二類覚醒者

種類 スート 剣[♠︎]

【チャージ】力を溜める


木内奈津子 23歳 女性 B型

元アウトドアのガイドスタッフ

【D2】Dランク二類覚醒者

種類 スート 剣[♠︎]

【アローショット】 弓での攻撃技


 山本奏多 24歳 男性 O型

 元サッカー選手

【D2】Dランク二類覚醒者

種類 スート 剣[♠︎]

【フットワーク】 華麗な足さばき


石田真由 25歳 女性 B型

元バレーボール選手

【D2】Dランク二類覚醒者

種類 スート 剣[♠︎]

遮断 ブロック】防御の型



専属運び屋

神楽 千尋 17歳 女性【E2】Eランク二類覚醒者

種類 スート 貨幣[♦︎]

物々交換 トレード

等価 イクウォル交換 トレード


――――




 

「達也さん。安心してください。絶対に私が守りますから!」


「でも、神楽さんも運び屋ですよね。」


「それは関係ありません。推しを守らないファンがどこにいますか!」

 

 この人、目がキラキラしている。


 人類の希望と世界中で持て囃されたものは、一夜にして覚醒者の汚点になった。


 それでも、たまにいるんだよな。


 世の中には悪役 ヒールの方が好きな人もいる。


 ヴィラン推し。脇役推し。


 俺の場合は落ちてしまった悲劇の主人公なのかな。


 

 ―― 3年前


 協会ではじめて鑑定をした後

 俺の情報は瞬く間に拡散した。


 そこには、世界中の未覚醒者達がFランクに覚醒するのを恐れていたという背景もある。

 

 Fランクスキル保有者は、そんな彼等にとってまさに奇跡だった。


 しかし、冒険者協会はすぐに俺を守る為に動いた。


「メディアの皆様にお願いします。

 これ以上、彼を追いかけ回すのは止めてください。

 彼のスキルは人類の持つ普通の能力と同じでした。

 運命に「さあ。引きなよ。こっちがスキルだよ。」と騙され

 無価値なババを引かされた可哀想な少年なのです。

 Sランクにそれ以上が分類されないのと同じように、Fランクにも、それ以下のランクがありません。

 彼は紛れもなく世界最弱の覚醒者です。」 ――


 それ以来


 自己紹介の時に、Fランク二類覚醒者ですと言ったら

 ゴミスキルを持ったあの最弱覚醒者だと、一発でバレるようになった。


 とはいえ、運び屋でも冒険者なら、自分のランクを隠す事は出来ない。


 最近は、銀狼傭兵団と契約を結んでいたが

 休日に別の所でお世話になると、ちょっとした騒ぎになる。


 

「なんで、運び屋がババなんだよ。はじめて見たぜ。」

「ぷぷっ。声が大きいぞ。」

「世界最強は誰も知らないけど、世界最弱を知らないやつはいないよな。」

「俺達が注意するとはいえ、自分の身も守れないんじゃないな。」


 こんな風に。

 

 木村さんが俺の肩を叩く。

 

「気にしないでくださいね。皆さん、はしゃいでるだけだと思いますから。キャンセル待ちって、非日常で、当たり外れとか気持ちが昂るでしょ。」


「春奈さん。それで言ったら、大当たりですよ。神は実在したんです!」


「千尋ちゃんの気持ちも分かるわ。私だって有名人にでも会った気分よ。」


「…………。」


「リーダー。着いたんだから、早く中に入ろうぜ。一類の俺には少し気分の悪い話だ。」


「自分を卑下しないでください。正義さんはその分Bランクだし、サブリーダーとして誰よりも頼りにしてますよ。」


「ダンジョンに入る前に、ちょっと良いですか。」


「どうしたの。井上君。」


「リーダーじゃなくて、このガキに一言、言いたいんですよ。」


 ?


「……喧嘩なら止めて頂――」


「――リーダー。ダンジョンに入ってからだと、こじ れた分は、命に関わる危険性もありますよ? 言いたい事があるなら早くしろラン 。」


 木村さんの言葉を遮り、サブリーダーの正義さんが答えた。木村さんも頷く。


「銀狼傭兵団の話、小耳に挟んだぞ。散々お世話になって恩を仇で返すような奴だってな。野良でキャンセル待ちして、次は俺達の邪魔しようってんじゃねーよな。」


 もう知っているのか。

 下手な言い訳は出来ないな。正直に言おう。


「嫌だな。追放されたのは俺の方ですよ。ただ猫田さんは、最後に積立てていた給料を全額返してくれましたけどね。」

 

「糞ガキ。聞いてた話より、闇が深そうだな。何か企みがあるんじゃねーよな?」


 インベントリがあれば、これからはダンジョンの石もたくさん手に入るし、機会があればモンスターを倒せるかもしれない。


 けど、相手からしたら関係ないし、そもそも俺は運び屋だ。なるべく迷惑をかけないようにしなきゃ。


「俺はただの運び屋です。仕事がしたいだけです。ですが、余計な心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません。」


 あの時は仕方なかったとはいえ

 このパーティーには余計な心配をさせてしまった。

 

「ちっ。見張ってるぞ。変な事をしたら俺が殺してやんよ。」


「はい。すみません。」

 



 図書館の入口。その前に転移魔法陣が青く輝いている。



「今回の探索は、予定通り 青い転移魔法陣Eランクダンジョン です。簡単な攻略になると思いますが、油断せずに気を引き締めて行きましょう。」


「「「「はい。」」」」


 パーティー11人は、次々と転移魔法陣に移動していく。


 運び屋の神楽さんもそれに続いた。


「達也さん。大丈夫ですからね。私が味方です。グッ!」

 

 なんか良い人だな。


 神楽さんが消えて、俺の転移もはじまった。



 景色の移り変わりと共に、アナウンスが流れる。


 

『 危険です 毒屋敷の迷い森にランダム転移しました 』

 


――非常にまずい展開だった。


 

 第一に

 このダンジョンは危険度は魔物以外で跳ね上がっている事を予感した。


 ダンジョンでの「毒」は最も危険な要素であるにも関わらず、その影響でランクが上がる事はない。

 

 第二に

 転移場所がランダムで個別に分かれた。

 

 所謂、運び屋殺しだ。

 このタイプは、最終地点にしか転移魔法陣がない事が多い。

 

 第三に

 転移時の危険警告はレイドボスがいる証。


 

 つまり本来のランクよりも危険である事を警告されたのに、ランダムタイプの魔法陣では現実世界に引き返せない。

 





 足が震える。圧倒的な緊張感。


 奇しくも、俺だけチャンスでもある。

 

 昨日までの俺なら、震えは恐怖による物だったろう。



「【ステータス】」


『木元 達也 16歳 男

 種族:人 Lv1 魔力:1

 職業 学習者ラナ

 

 HP3 MP1 SP1

 聖力1 筋力1 知力1 操作1 硬度1

 視力1 聴覚1 嗅覚1 触覚1 味覚1

 

 所持スキル

 【学習】Ⅱ【環境適応】Ⅰ

 【ステータス】【インベントリ】

 【鑑定】【優位 マウント

 【追放 エグザイル

 【 斬撃スラッシュ

 【守護ディフェンス

 【治癒 ヒール 】 』

 

 このステータスは、自分だけの概念だろう。

 瑠衣に【鑑定】を使ってみた時になんとなく理解していた。


 

 『木元 瑠衣 12歳

 所持スキル

【石喰い】

 石を食べる事で寿命を1日伸ばす。

【レベルアップ】

 敵を倒すと経験値を獲得する。 』


 多分、瑠衣がレベルアップのスキルを獲得したのは、あのゲーム由来だ。効果が俺のステータスのものと似ている。


 

 今日、確かめたいのは

 俺のステータスの数値が上がると、俺の肉体は強化されるのか、ということ。


 今まで瑠衣はダンジョンの石で延命をしていたが

 レベルが上がり、瑠衣が健康体になれる可能性を感じた。


「冒険者達とはぐれたのは、逆にチャンスかもな。」


 俺は覚悟を決める。


 「【インベントリ】」


 昨日用意した、ナイフのうち一つを選ぶ。


 何かの殺気を感じた。

 


 前方一面に美しい花が広がっている。


「こうやって、景色を楽しむのは久しぶりだな。今まではそんな余裕がなかったからな。でも、もう少しだけ。今はこの殺気の主を……。」


 俺は目標を定めて、足を踏み出した。


 途中から泥濘に足が取られる。


 気にせずに、殺気の方へ進んでいく。


「うぇっ。」


 突然、目眩と吐き気がする。


 

 なんだこれは。


 気持ち悪い、手足が痺れる。

 

 …………浅い毒沼。


 随分綺麗な花だと思ったら、罠だったのか。


 だから、あの猿は、あそこから動かないのか。



 まずい。

 

 ただでさえ、はじめての魔物退治なのに

 戦闘の前に、俺が弱っていくぞ。


 大急ぎで毒沼から脱出した。


 猿が勢いよく向かってくる。


「【治癒 ヒール 】」


『 MPが不足しています 』

 

「クソッ。【優位 マウント】【鑑定】」


モンキー 小鬼 ゴブリンLv1

 弱点属性:木元達也 』


  モンキー 小鬼 ゴブリンが、俺に向かって飛びかかってきた。

 

「ヤレるっ。しねっ。」


 俺は モンキー 小鬼 ゴブリンのこめかみに向かって、ナイフを突き刺した。





 だが



 突き刺さるハズのナイフは




 猿の魔力で呆気なく粉砕した。



「キキー。」


「ぐあっー。」


 

 殴り合いになった。

 


 【優位 マウント】スキルで モンキー 小鬼 ゴブリンの弱点が俺になったのに……


 絶対優位は揺るぎなく猿の方だ。

 

 殺される。


 腕力が違う。魔力が違う。


 生きるという意志は圧倒的に野生が強い。


 俺は殴り合いのつもりでも、猿の方は殺し合いだ。


 凄まじい迫力。


 首筋を噛まれる。


 振り払うと今度は腕を噛まれる。


 視界がおかしい。目に血が入った。


 恐怖だけが加速していく。


「ひっひっー。」


 戦場から必死に逃げ出した。


 簡単に考え過ぎていた。

 今まで運び屋として戦闘は鑑賞するだけのものだった。


 今は目と目を合わせ、命のやり取りをしている。

 俺が殺そうとする以上に、相手が俺を殺そうとしている。

 

 逃げ出した先にあったのは、さっきの毒花だった。


 あまりの恐怖でそんな事も忘れていた。


 血の味を覚えた猿も毒沼を忘れ、俺に覆い被さる。


 

 猿は俺の肩にかぶりついた。

 

 死んだ


 終わった


 考えが甘すぎた。

 


―― 妹の声が聞こえる。

 

「お兄ちゃんが痛い思いをするなら、自分が死んだ方がマシなんだからね。」


「いっつも自分だけ傷ついて、そんなの見てられないよ。」



 美憂の声が聞こえた。


「私はあなたと一緒に成長したいの。ダンジョンで勝手に死んだら絶対に許さないからね。」


 だから、怒られたのか。


 妹の為とか、美憂と釣り合うようになりたいとか。考えてみたら全部自分視点だ。――


 後悔しかないじゃないか。


 家に帰って、瑠衣の声を聞きたい。

 

 自分だけじゃなく、美憂の物語を知らないと始まりもしない。


 彼女達が何を考えていて一緒に何が出来るのかをもっとちゃんと話し合いたい。

 


「……死ん……でぇっ……たまるかっー!!」


 俺は猿の首を掴み、毒沼に押し付ける。


 猿は痙攣し、力が抜けていく。


 動かない。やっと静かになった。


 だがそれは俺も一緒だった。


「ちく……しょう……相打ち……か……よ。」


 毒が全身をまわっている。


『【環境適応】Ⅰが 毒に適応しました。【猛毒耐性】を獲得しました。【毒無効】を獲得しました。』


 今更そんなもの取ったって……動けない。


 嫌だ。瑠衣と美優の顔が、頭に浮かぶ。


「ハァハァ……ハァハァ。」


モンキー 小鬼 ゴブリンを討伐しました。経験値を獲得します。レベルアップしました。』


 

 ガバッ


 アナウンスを聞き、俺は起き上がった。


 

 毒沼を抜ける。



 やっぱり。レベルが上がると、HPが


 バタンッ


 そんな……わけない……か。

 

 意識を失った。


 どれくらいが、経過しただろう。


 

『【猛毒無効】を獲得しました。』


 

 脳内アナウンスで目が覚める。

 

「……レベルアップでHPは回復しないのかよ。でも、その思い込みのおかげで助かったかも。」


 

 ステータスが表示される。

 

 

『ポイント5を振り分けられます。

 HP2/9 MP6/6 SP6/6

 聖力11 筋力2 知力2 操作2 硬度2

 視力2 聴覚2 嗅覚2 触覚2 味覚2 』


 

「……今日の情けない勝利を俺は絶対に忘れない。生命の意地と強さを俺はもっと尊敬するべきだ。」

 


 ステータスの向こう側を見て、俺は拳を握りしめた。

 

 毒性を持つ花びらが風に舞っている。地に落ちるまでの一瞬が儚くてとても綺麗だった。


 

 

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