その2

 帰り際、私は彼女から薄い便箋を受け取った。

「こちら、ティタァヌス様からのです。今、この場でご確認をお願いします」

 彼女の顔からは感情の全てが失われており、この宗教の狂気が現れている。

 便箋の中に入っていたのはたった1枚の紙だけ。そこには、達筆な文体でこう書かれていた。


【ティタァヌス教の存在を周りに知らせるべからず】


 私は安堵の思いでいっぱいになった。ご命令といっても、このような簡単なものばかりなのだろう、と感じたからだ。

 しかし、やはりこの宗教の気味悪さは増すばかり。基本、宗教は信者を増やそうとするものだ。武力行使や、争いなどをして無理やり……という教えも存在する。


 それに対してこれはどうだろう?布教を禁止する宗教?そんなもの見たことも聞いたこともない。

 私はこの宗教と関わるのを、今すぐにでも辞めたいと本気で考えた。それでも、今から「辞める」と言ってしまって先の命を私は想像することが出来なかった……。


 翌日、私はネットでも何でもいいから、どこかの誰かにこの話を共有したいという気持ちでいっぱいになった。それでも、私はご命令に従わねばならない。

 この腕輪に込められた妖術とやらが絶対に嘘だと言うことも出来ぬ手前、ご命令には従うのが吉だろう。命大事に。


 しかしまぁ、私の他に誰かが同じ惨劇を踏まないようにしたい。ティタァヌス教と出会っても、関わって欲しくない。私のそんな思いは膨れ上がり、そして決意した。

 私に課せられるご命令を1年に1度、日記ならぬとして記そう。私の死後、誰かが見つけてくれることを願おう。そして、今に至る。

 それでは、また1年後、2年目に会おう。


~~2年目~~


 正直、ティタァヌス教の存在を忘れかけていた。ふと目にとまった1年目の年記で、ようやっと私はこれを付けようと誓ったところまでを鮮明に思い出した。

 当たり前だが、今の所ご命令には従っている。そもそも、言われなくても友には布教をしなかっただろう。それほどまでに、私はこれを信仰したことを後悔している。


 今更後戻りなど出来ない。あれからちょうど1年が経った。私は教会へ行く覚悟を決めた。

 「お久しぶりです」やはり私を出迎えてくれたのは彼女だった。軽く頭を下げながら、教会の中へと入る。


 今回は何事も無く、ただ新たなご命令を貰ったことしか特筆することは無かった。


【助けを求めるべからず】


 やはりご命令の気味の悪さは1級品である。今までに出されたご命令は、教典というより、誘拐犯の脅しに近いように感じる。

 怖い。じっとりと頬に汗が滲む。

 しかし、まだこの程度なら耐えられる……。いける。いける!

 来年の年記は、もしかしたら書けないかもしれない。メンタルが保たれていたら、また会おう。

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