ティタァヌス教

ツチノコのお口

信仰者

その1

 それとの出会いは母校の校則だった。そこの校則は、ありとあらゆる禁止事項を記してあったため、最早辞典なのではないかと思ってしまうほどの情報量を誇っている。

 そんな校則のひとつに当時の私は強く惹き付けらてしまった……。


【宗教による不都合は学校と要相談とする。また、ティタァヌス教の信仰は絶対に禁ずる】


 ティタァヌス教というものの存在を私は知らなかった。ティタァヌス……独特なその語感に気づけばわたしは夢中になってしまったのだ。


 帰宅後、私は何も考えずにパソコンの前へと腰を下ろす。ティタァヌス教の実態を確かめるためだ。

 しかし私の期待とは裏腹に、ヒットしたものは「ティタヌス」というクワガタのみ。ティタァヌス教が存在する気配すらもなかったのであった。

 時刻は19:00。ティタァヌス教について調べ始めてもう3時間も経過している。

 もう、調べるのは辞めようか……そんなことを考え始めたとき、たった1件のサイトが見つかった。


【ティタァヌス教会検索】


 そのサイトには全国各地のティタァヌス教会の場所が記されているサイト。ティタァヌス教の知名度と反比例して、1つの市にひとつやふたつは教会が置かれているようだ。

「明日は土曜日か……」

 驚くべきことに、私はもう教会へ足を運ぶことを当然のことのように思っていた。


「あなたはここに来るのは初めてですよね?ようこそティタァヌス教会へ!」

 目の前で歓迎してくれるその女性の言葉に少し微笑が零れてしまった。彼女が『教会』と自慢げに言ったここは、言われなければ宗教施設と気づけないほどシンプルな一軒家。

「あの、あまり分かってないのですけれど、ティタァヌス教って一体どんな宗教なんですか?」

「簡単ですよ!ティタァヌス様のご命令に従って生きるだけで、人間は幸せになれるんですよ!!!」

 どこか狂気じみた目、そしてどこかおかしいと直感した言葉選び。

 ご命令に従う……。普通、ご命令という言い方をするものなのだろうか?


 案内されたのは、普通の和風な家にあるような客間。そんな普通の場だが、「ティタァヌス様の仰せのままに」と書かれた巨大な掛け軸を見て、やはりここは宗教施設なのだと再認識する。

 座布団がポツリと置いてあり、ここに座ってくれと自分の存在をアピールしてくれる。

 私に信仰するか考える時間を与えないようにするためか、目の前に座った女が即座に説明を始めた。


「こちらのティタァヌス教、信じ方に2つありますので、説明させていただきます。ひとつは信者。教会もしくは修練所に1週間に5回ほど来ていただき、幸せになるための鍛錬を積んでいきます」


 目の前で説明する女は、妙に早口で、何かに追われているような、圧迫感を感じているかのような、そんな気味の悪さを感じた。


「ふたつめですが、信仰者。常にティタァヌス様のことを想う信じ方です。年に1回、教会へ足を運べばその度にご命令が追加されていきます」


 私は、この信仰者というものに興味を持ったのだ。先程から話に出てくる「ご命令」。その掴みがたい正体を知ることが出来る。

 それに、1年に1度教会へ足を運ぶだけ……。そう、思ってしまったのだ……。


「信仰者、少し興味あります」

「本当ですか!?でしたら」と小さな便箋からブレスレットのようなものを取り出し、私の方へと向けてきた。

「これの装着をお願いします」

 女から目の光が消える。

「これには妖術が込められています。これを腕に装着した状態で、ティタァヌス様のご命令に背けば、あなたの命は無いものとなります」

 私はこの時初めて察した。私が、全ての選択を間違えてしまったことに。

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