第9話「キミがいるから」

 それが起こったのはたまたま俺が座席でセンパイのいるレーンを見ている時だった。


「いっくっよー! どりゃあああ――」


 ボールを振りかぶり、投げようとしたセンパイが一瞬にして俺の視界から消えた。


 目線を少し下に下げると、そこにはバランスを崩して倒れたセンパイがいた。


「――っ!!」


 頭で考えるより先に身体が動いていた。


「大丈夫ですか!? センパイ!!」


 センパイのもとに走って声をかけると、見たことのない苦しそうな表情に血の気が引いてしまった。


「――だいじょうぶ……。って言えたらよかったけど、ごめん、ちょっとムリかも……」


「どこか痛みますか!?」


「うぅ……。倒れた時に肩とか頭とか打った痛みがあるけど……一番ヤバそうなのはひねっちゃった足首かも……」


 倒れているセンパイは痛みの強い足首に手を伸ばして触ろうとしたが、痛みからか反射的に手を離してしまった。


 持っていたボールは幸い身体に当たることはなかったようだけど、足首をひねってバランスを崩したあたり、良くて捻挫、悪ければ骨折しているかもしれない……。


「と、とりあえず冷やさないと!」


 その声を聞いた部活の後輩が思いついたように自販機へ走り、冷たい缶コーヒーを二本買ってきてくれた。


 女子が数人で肩を貸して座席に座らせて、俺は買ってきてもらった缶コーヒーで患部を冷やし続けた。


 この間に他の面々もゲームを中断して集まりはじめた。店員へ相談しに行く人や、部活で使っているテーピングで応急処置をしてくれる人など、人数が多いとそれぞれができることをしてくれるだけで、ケガは充分と過ぎるくらいの処置が施された。


「いやぁ、みんなごめんよぉ。せっかく楽しんでたのに水挿しちゃってぇ。ちょっとふざけすぎちゃったかな……」


 センパイが頭をかきながら、普段通りを装った声で周りに謝罪をしている。


 周りのみんなは、気にしていない、大丈夫かと心配する声をかけている。


 俺は――どう声をかけていいのかわからなかった。


 センパイが俺の顔を見て微笑んできたが、無意識のうちに目線を逸らしてしまった……。

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