第8話「キミもセンパイ」
ゲームが始まった。
結局、俺はセンパイとは別のチームで対戦をしている。
なんというか、仲の良い人同士で同じレーンで遊んでも問題はないのだろうけど、それはそれで知らない人達との空気に差が生まれてしまうと思ったからだ。
実際、知り合いは部活の後輩が一人いるだけで、あとは全く話したことのない人達だ。これを機会にと思い、色々と話して親交を深めている。
「うおらあああああぁぁぁぁぁ!!」
隣のレーンからセンパイの雄叫びが聞こえてくる。ボールに音声認識システムはない。
センパイは相変わらず明るく振る舞って話題の中心となっている。
あの人も本当は初対面の人と話をするのが苦手なはずなのに……。本人には口が裂けても言わないけれど、こういうところは本当に尊敬している。
そんな事を思いながら隣のレーンを眺めていると、部活の後輩が俺の順番であることを教えてくれた。
不慣れながらも少しだけ真っ直ぐ投げるコツを掴んできて、結果的にこの順番では七本倒すことができた。
「へぇー、後輩くんたちからしたらキミもセンパイか、しっかり先輩してるんだねぇ。」
自分の席に戻ると座席を乗り越えてセンパイが話しかけてきた。何のために別のレーンでゲームをやっていると思っているんだ。
しかも場内がうるさいから結構顔が近い、みんながいる前では少し恥ずかしいくらいの距離だ。
「そう思うとアタシはあんまりしっかりキミの先輩はできてないかなぁ……」
センパイの目線の先には隣のレーンのモニターがあった。
センパイのスコアはなかなか酷いもので、毎回良くて数本、基本的にはガターという感じだ。
「別に今日はスコア競うわけではないですし、そこは気にしなくてもいいんじゃないですか?」
「いやぁ……そうは言っても全員の中でも最下位レベルだからやっぱり気にはしちゃうよねぇ……。キミは結構上手い方みたいだから羨ましいよぉ」
……なるほど、あの空回りなくらいのテンションの高さはふざけているのではなく、単に誤魔化しているだけか。
ホント、たまには真正面から弱音を吐いてくれればいいのに。
俺は自分の頭をセンパイのおでこにコツンと打ち付けた。
「少なくともこの中で一番みんなを盛り上げているのはセンパイですよ、スコアで言うならトップです。悔しいことに俺なんかよりもずっと先輩してます」
センパイは少しだけキョトンとした顔をして、次の瞬間にはにやけた顔をしてそのままおでこで何度も頭突きをしてきた。
「だよね、だよね! だよね!!」
「痛い痛い、ばか」
「よし! 栄養補給した、お姉さん頑張っちゃうからね!!」
満面の笑みで――温かみがあって、眩しくて、誰よりも優しいその笑顔が羨ましかった。
「俺とダブルスコア――にはもうとっくになってるか……。トリプルスコアにならないくらいには頑張ってください」
「おうよっ!!」
右腕をぐるぐると回してレーンへ向かうセンパイの背中は、さっき以上に頼りがいのある姿だった。
ホント、真似できないや。
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