第6話「キミとの待ち合わせ」

 土曜日は生憎の天気だった。


 待ち合わせ場所だった駅の改札口には、珍しく既にセンパイがいた。壁にもたれて片手で携帯電話を見ている。


 休日だけどセンパイは学校指定の紺色のダッフルコートを着ていた。


 一瞬通学時と変わらなく見えてしまうが、下はスカートではなくてジーパンだから、中身は私服なんだろうけど……。


 センパイの私服は少しだぶついた上着が多いから、体勢によっては目のやり場に困ることがあるうえに、逆に俺が他人の目のやり場を気にしてしまうこともある。


「よっ、ハロハロ〜」


「珍しく早いですね」


 手をヒラヒラと振って俺を呼び寄せるセンパイ。遅刻しなかったのは初めて一緒に遊びに行った以来ではないだろうか。


「キミに言われたとおり、今日は知らない人もたくさん来るから、流石に遅れちゃマズいかなと思ってさ」


「そう思うなら俺との約束もいつも遅れずに来てくださいよ」


「あはははは……前処します……」


 目線を逸らすセンパイを尻目に、サッサと歩みを進めようとすると、特に示し合わせたわけでもなくセンパイもすぐ隣を歩み始めた。


「うーん、雨降ってるねぇ」


「小雨とは言え、傘なしだと結構濡れる程度には降ってますね」


 俺がコンビニで売っている透明のビニール傘を差すと、センパイはカバンから水色の折り畳み傘を取り出して差した。


「ボウリング場までは近いんだっけ?」


「一応、駅から歩いて十分くらいとは聞いてます」


「ふーん、じゃあ相合傘する?」


「しないです」


「なんで!? っていうか、即答すんな!」


「いや、なんでって……。どう考えても二人入れるサイズの傘じゃないですよ、お互い」


「大丈夫だって、キミがちょっと濡れるぐらい」


「あぁ、もう俺がはみ出る側で決まってたんですね」


「キミはいちいち細かいなぁ、そんなんじゃモテないぞぅ」


「別にセンパイにだけモテてればそれでいいですよ」


「――っ! キ、キミは時々そういう恥ずかしいことをいうよなぁ……。じょ、常套句だよ、常套句! まぁ、確かに他の娘にモテちゃ困るのは事実だけどさ……」


「………………」


「………………」


 一分くらいの沈黙だっただろうか、体感ではもっと十倍はあるのではないかと思うくらい、センパイとの沈黙は恥ずかしく感じてしまう。


「じゃあ、ちょっとだけならいいですよ……」


「えっと……じゃあ、お邪魔します……」


 自分の傘を畳んで俺の傘に入って来るセンパイはいつもより小柄で、どこか優しさを感じた。


 俺が傘をこっそりセンパイの方へ向けると、すぐさま無言で傘の持ち手を押し返してきた。


 本当にこの人は面倒な性格をしているなぁ……。


「仕方ないですね、じゃあこれで」


 俺はセンパイに密着するまで近づき、傘をちょうど真ん中の位置までもってくると、センパイは少し驚きながらも満面の笑みを浮かべた。


「うん! これが一番スキかも……!」


 分厚いコート越しだから伝わるわけがないし、お互いに肩が濡れているけど、どこかセンパイの温かさを感じた。

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