第3話「キミとの帰り道」
帰り道、自転車通学の俺とセンパイは自転車を押しながらゆっくりと並んで歩いている。
待ち合わせをして一緒に登校ができるほど時間に余裕はないけれど、下校ならいくらでもゆっくりできる。
――ちなみに登校時に余裕がないのは、センパイが時間にルーズで毎朝遅刻ギリギリだからだ。
二階の教室の窓からセンパイが走って昇降口へ向かう姿を毎朝眺めるのが、俺の日課となっている。
「そういえば、土曜日――っていうか明日は大丈夫そうなの? 部活あるかもって言ってたけど」
話しかけてきたセンパイの手元を見ると、しっかりというかちゃっかりというか、自転車を押す手には手袋がはめられていた。
「あぁそれなんですけど、休もうと思って顧問の先生に話に行ったら何か部活自体を休みにしてくれまして……」
「えぇ……。いや、確かにキミの部活の後輩くん達も参加予定って聞いてたから、部活自体が休みになるのは都合がいいのかもしれないけどさぁ。ノリがいい先生だねぇ」
「そういえば、センパイは得意なんですか? ボウリング」
明日は誰が言い出したのかボウリング大会をすることになっている。大体二十人くらいだろうか、部活や同じクラスの連中や、気づけば友達の友達まで集まって、いつのまにか俺やセンパイも参加することになってしまっていた。
「うーん、小学生の頃に町内会の行事で行った以来かなぁ。少なくともストライクは出したことない、スペアはある――気がする」
「じゃあ、俺も似たような感じですね」
「やったぁ、じゃあスコアで対戦する!?」
「そこは一緒にやろうじゃなくて対戦なんですね」
「いいじゃん、負けたほうが飲み物おごろうよ」
「別にいいですけど」
そんな会話をしていた矢先、ちょうどコンビニが目に入った。高校から最寄りのコンビニで、チェーン店の中でもあまりメジャーではないコンビニだ。
風の噂では『近くにコンビニってありますか?』って聞く罰ゲームをした輩がいたらしい。実にはた迷惑な話だ。
「明日の賞品の品定めでもしとくかい?」
「そうですね、明日センパイになにをご馳走してもらうか決めておかなきゃいけないですしね」
自転車を店先に置いて店内に入ると、センパイの眼鏡が少し曇った。
「うぐっ、ちくしょう」
少し頬を膨らませて不満顔をしている。眼鏡っ娘は大変だな。
「まぁいいや、一分以内に品物選んでレジに集合ね! よーい、ゴーッ!!」
センパイは意気揚々と早歩きで奥にある飲料コーナーへ消えていった。
まぁ、俺は最初から決まっているからいいんだけど……。
センパイがいつもオレンジジュースを買うように、俺はいつも紅茶を買っている。夏はパックでもいいけど、流石に冬はペットボトルの温かい紅茶だ。
だから明日もきっと、オレンジジュースと紅茶の戦いになるんだろう。
「センパーイ、先行きますねぇー」
レジのすぐ隣にあるホットドリンクコーナーからペットボトルの紅茶を取り、ササッと会計を済ませて店をあとにした。
「レジに集合って言ったじゃん!」
「他のお客さんの迷惑になるんで外にいますねー」
「あー! 待ってよぉー!」
自分の自転車まで戻ると、買ったばかりの紅茶を両手に持って暖をとった。温かい。
「まったくもぅ、キミはせっかちだなぁ。そんなに生き急いでどうするんだい?」
やれやれといった顔でセンパイが白い息を吐きながら店から出てきた。両手を後ろに回しているあたり、買ったばかりの飲み物でも隠しているのだろう。
「どうもしませんよ。それより、今日はどこのメーカーのオレンジジュース買ったんですか?」
「えー? 当ててみてよぉ」
この人が得意げに笑っているときは大体なにか企んでいる。ホント、すぐ顔に出るんだからなぁ、まったく。
「わかりませーん、えーんえーん、センパーイ、教えてくださーい」
面倒な人に面倒な対応をぶつけるのが一番だと、この人と付き合って最初に学んだことだ。
「キミ良くないよ、そういう面倒な対応。いい? アタシ以外にやっちゃダメだよ? まぁいいや、答えはねぇ……」
センパイはさっき買ったばかりの飲み物を後ろから取り出した。
「じゃーん、今日はオレンジジュースじゃなくてあったかい紅茶でしたぁー!」
「え、何で?」
「あったかいってのもあるけどさ、たまにはキミと同じがいいなって思ってサ」
「いやまぁ、俺は構わないですけど……」
「いぇーい! おそろー!!」
センパイが俺の持つペットボトルと乾杯し、キャップを開けて飲もうとする。
ただ――
「あっづううぅぅぅ!!!」
――やっぱりこの人、自分が猫舌だからいつも冷たい飲み物買ってたってこと忘れてるわ。ウケる。
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