第2話「キミと昇降口で」
昇降口に着き、俺が二年生の下駄箱で靴を履きかえていると、外には高校指定の紺のダッフルコートを着たセンパイが既に待っていた。
「靴履き勝負はアタシの勝ちだねッ!」
両手を挙げて勝ち誇った顔のセンパイが、こちらに向かって大きい声をあげる。
「いつの間に開催されてたんですか、それ」
「アタシが先に昇降口を出た瞬間に開催されたんだよ、勝ち確ってやつだね! いやぁ、熱い戦いだった……」
腕組みをしてうんうんと唸っているセンパイをよそに、ようやく俺は靴を履き替えて昇降口から出た。
「次から開催条件もうちょっと緩くしません? せめて温かいくらいの温度の戦いに」
「なんだい? キミは闘争本能に欠けるなぁ。それでも狩猟民族の末裔かい?」
「俺は多分、農耕民族の末裔なんですよ」
なにに呆れているのか分からないセンパイに近づいていくと、センパイもトテトテと俺の方に向かってきた。
「そんなことより、暗くなる前に早く帰ろうよ」
勢いよく握ってきたセンパイの手は少しだけ冷たかった。
「ヒヒヒッ、冷たいでしょ? いやぁ、キミの手は温かくて助かるよぉ」
「手が冷えるなら手袋したほうがいいじゃないですか?」
その言葉を聞くと、センパイは両手で俺の手を握ってきた。冷たい。
「だって、アタシの手が温かくなっちゃったら、キミで暖を取れなくなっちゃうじゃん?」
両手で掴まれたその手はそのままセンパイの頬に寄せられた。冷たい。
「へへへ、あったかいや」
八重歯を出し、白い息を吐きながらえへらえへらと笑う顔を見て、思わずこちらも頬が緩んでしまった。
「そんなずっと暖を取られると、今度は俺の手が冷えてきちゃうんですけど」
「そしたら、今度は反対の手を使うからダイジョーブ!」
「じゃあ、そっちも冷たくなったら?」
「それまでに今握ってる方を温かくしておいてよネ!」
ホント、ワガママなお姫さまだこと。
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