ホッとするキミと二人で【ボイスドラマ】

ガエイ

第1話「キミと教室で」

「――くん、――くん? おーきーろー! おーはーよー!!」


 身体を揺さぶられる感覚で目が覚める。


 教室の窓際の席で机に突っ伏し、腕を枕に寝てしまっていた。幸いヨダレは垂れていない。


 窓の外を見ると日が落ち始めた寒空の中、運動部がグラウンドをグルグルと走っている姿が見える。


 そして、目線を百八十度回すと、そこには【センパイ】がいた。


 一つ年上のセンパイで、眼鏡に少し広めのおでこ、髪を後ろで結んでいるのが特徴だ。


 共通の友人をキッカケに知り合って、グループで遊ぶうちに仲良くなって、お互いに明確な区切りはないまま、ただただ仲良くなり続けている、そんな関係だ。


「もぅ、どこにいるのかと思って来てみれば、今日はアタシと一緒に帰る約束だったでしょ?」


 寝ぼけ眼で携帯電話を確認すると、何件も着信履歴やメッセージが届いていた。


「あぁ、すみません……。うわっ、寝汗ヤバ……」


 俺は不快感で目線を下げるとシャツが若干透けるくらいの汗をかいていた。


「ほら、お姉さんがハンカチ貸してあげるから、顔の汗くらい拭きなよ」


「あぁいや、自分のがあるから大丈夫です」


 慌ててポケットからハンカチを出して額の汗を拭う。こういう人に対する温かさというか、気遣いをすぐにできるのがセンパイのスゴいところだ。


「なんか嫌な夢でも見たのかい? こんな真冬に汗かいてたら風邪ひくよ?」


「ええっと、よく覚えてないけど、なんか俺とセンパイが死ぬ夢を見てたような……? とりあえず悪夢の類でした」


「うっわ、ひどっ! 夢の中と言っても勝手に殺さないでよね!」


「いや、別に俺が殺したわけじゃないですし……」


 ぷんぷんと怒る顔も、実に子供っぽくて見ていて面白い。年相応という言葉はセンパイから一番遠い場所にある言葉だろう。


「だーめ! アタシが死ぬのは百歩譲って良いとしても、キミが死ぬのは絶対に許さないからね!」


 こういうことをスラスラと言えるのが、この人の罪深いところだと思う……。


「その言葉、そっくりそのまま返しますよ」


 一瞬だけ驚いた様子をした先輩だったが、すぐに満面の笑みを浮かべた。


 先輩は俺の手首をグイッと掴むと、力強く引っ張り――


「ほらっ、一緒に帰るよ!」


 と言い、そのまま二人で教室をあとにした。

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