哲学者の政治

 とある哲学者は新聞を読んでいた。そこには、腐敗と汚職のニュースが所狭しと

並んでいた。そこにいた人たちは口々にいう。


「あ~。またか。これで何度目か。」


 哲学者は言う。


「君たちが行動をすればいいのだ。それで解決する。」


 人々は答えた。


「いや、それほどの時間はない。あなたと違って、私たちには労働がある。気安く

言わないでほしいな。」


 哲学者は言う。


「私にだって時間がない。有り余る時間で哲学をしている。」

「それが暇だというんだよ。僕たちは仕事があるんだ。むかつきはするが、僕の仕事の邪魔はしない。それだけで今はいい。」


 哲学者はこう思った。


「やれやれ、民衆とは退廃的だな。今だけが良いのではない。今後の未来を少しで

考えればおのずと結果は変わってくるであろうに。」


 哲学者は歩きながら考えた。そうしていると、一人の青年と肩がぶつかる。哲学者はよろめいて、その場に倒れてしまった。


 青年は言う。


「大丈夫ですか?お怪我は?」

「おお、大丈夫だ。青年よ。心優しいな。」

「いえ、それほどでも。私が悪いのです。」

「いや、私が悪い。考え事をしていた。それで前を見ずにぶつかった。ところで、

青年よ。君は新聞を読むのか?」

「え?ええ。コラム欄程度は。」

「コラムか。まぁ、読まないよりかはいい。最近の政治はいかん。私利私欲に走る。人間であるからに欲に従うがそれでも目に余る。人々が自身で考えて行動すれば。」

「そうですか。そこまで考えるということはあなたの職業は?」

「職業はない。ただの哲学者じゃ。」

「哲学者ですか。人に言う前にご自身で行動なされてはどうですか?私の先生も人に言うのであれば自分から行動しろとよく言っています。」


 哲学者は青年のことを「この青二才が」と憤った。しかし、ふと我に返るとその

一案も悪くないと思えてきた。


「青年よ、よく言った。私が間違えていたのかもしれない。そうだ、哲学者が政治をすればいいのだ。」


 哲学者は知り合いの哲学者に手紙を送った。哲学者は今まで培った哲学においての論理展開と説得を巧みに使い、彼らと結社ができないかを考えた。


 その一篇でとある哲学者は言う。


「君の言うことは正しい。だが、民衆というのは正しい言葉遣いなど求めていない。求めているのは、自分に都合のいい言葉だ。君の理論は机上の空論もいいところだ。」


 哲学者はひるまなかった。


「私たちの理屈と、私たちが正しいということを受け入れ、なおかつ我々を疑える

ことにこそ意義がある。時々正解を与え、常に疑問を与えるのが我々の仕事だ。」


 この手紙を契機に、哲学者は結社した。それから政治参加を呼びかけ、政治に

対して常に疑問を抱き、そして答えを持つように努力した。


 これらの行動によって、政治を整えていった。その姿勢が外の国からも尊敬の

眼差しを向けられた。


 だが、哲学者も老年になり、日々の命が蝕まれていると感じた。


 これはいけない。死ぬ。そこに錬金術師と名乗る者が現れる。


「そこの老年よ。なんとも嘆かわしい。」

「ああ、嘆かわしいともよ。とっとと消え後ろ。」

「まあまあ。あなたはよく生きました。ですが、これからはもっとよりよく生きて

もらわないと。」

「何が言いたい。」

「あなたに命を与えましょう。永遠の命というものです。その代わりにあなたには

ずっと政治の中心であってください。この国とあなたの命は一蓮托生。」


 錬金術師は手から薬を与えた。哲学者はのどの渇きを潤すように薬を飲みほした。


 哲学者は永遠の命をもらい、政治の座に復帰した。それからも哲学を進めた。

だが、自分で考えて出した答えが100年前に出した答えと同じであることに気が

付くと、答えを出すのをやめた。


 その代わりに神託と称して疑問を出す側にまわった。


 有限な命を持った民はその問いに答えた。そのどれもが自分が100年、200年考えても出せない答えだった。


 哲学者は一人つぶやく。


「やれやれ、あれやこれやと不老不死となり、政治をつかさどったところであれや

これやと有限な命で考えつくことなどたかがしれいる。かといって、不老不死を

言ったとて、考えるに余りある。さて、次はどのような問題を出すか。」

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ショートショート集 えいじ @eiji-4435

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