ショートショート集

えいじ

鹿政治

 この日、歴史的な一ページを刻んだ。鹿が大統領候補になったのだ。


 Fは『なんてことになったのだ』と考えた。人権がない。


 ましては霊長類でもない。鹿が立候補したのだ。


 Fは政見放送を聞いた。


 そこには第三候補の新緑の党なるところが演説をしていた。その党首は高らかに

宣言をする。


「我が国では、人による統治では限界が来ている。人という統治には限界がある。我々は鹿を国家元首として、人民による人民のための政治をお約束しましょう!」


 Fは自分の正気を疑った。自分が持っている飲み物に酒は入っていないか、

覚せい剤ははいっていないか。だが、周りの人に聞いても同じ内容を聞いていると

言われた。


 数日たち、マスコミはこの珍事件に大盛り上がりだ。それを見てFはつぶやいた。


「これだけ宣伝できればもういいだろう。人の噂もなんとやらだ。」


 それから数日がたち、一挙に町色が変わった。それまで民党が1番だったのに、

新緑の党が第一候補になった。当然だ。民党は、度重なる汚職によって一挙に民意が傾いた。


 Fは頭で考えた。


「このままのやつらでもいけないが、鹿になるのか。いや、どれもだめだろう。

どれを選んでも地獄だ。」


 Fはそう考えながら期日前投票にいく。Fの脳裏にあの鹿で埋め尽くしていた。


 Fは心の中で何回も言った。



 鹿でいいのか?

 鹿がいいのか?

 鹿にするのか?


 数日後、新緑の党の鹿が大統領になった。各国はそれを一斉に報道をした。Fの国は赤っ恥と今後の不安と一粒の希望がまかれた。


 新緑の党の党首は党員を呼んでささやかなパーティーを開いた。党首は言った。


「世の中、鹿か人かもわからない人が多い。だれがなろうが構うものか。この際鹿

だろうが猿だろうがいい。問題なのは、民がなにをアイドルにしたいかだ。政策や

方向性などだれにも持っていない。わが広告塔に乾杯!」

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