第11話 王都襲撃 その4
私はグリム様の命に従い、王都の東を目指しておりました。
しかし、私は走りながら憤慨しておりました。
なぜ、グリム様はご兄弟をお庇いになったのでしょうか。ご兄弟が幼い頃グリム様にどのような仕打ちをしてきたのか、私はお師匠から聞かされていました。到底許せるようなものではありません。あんな人間の皮を被った悪鬼、首の一つや二つや三つや四つ切り落としてしまえばよいのです。
しかしグリム様のお言葉は絶対です。さて、そんなことを考えながら走っているうちに王都の東が見えて参りました。建物の多くが倒壊し、炎に包まれています。
「やめろッ! 止まれぇ! この化け物が!」
一人の男が、転がるようにして瓦礫の間を走っていくのが見えました。特に気にする理由もないので私は先を急ぎます。
「デューク隊長! どこに行かれるのですか!? 指揮を! 隊の指揮を執ってください!」
前言撤回です。私はあの人にとても興味があります。
デューク、というのは確かグリム様のお父様のお名前。ということは、あの人こそグリム様に睡眠薬の入ったビスケットを食させ、暗い森の中に一人置き去りにしたという諸悪の権化、デューク・シャレルさんなのでしょうか。
しかしなにやら、お仲間から非難の声を浴びているご様子。
「隊長! 一人で逃げるのですか!? まだ部隊は前線で戦っているのですよ!?」
「やかましい!! あんな使えないカスどもの命など知ったことか!! それより俺の家と妻の方が大切に決まっているだろう!! そんなこともわからんのか貴様は!」
「な……!? 部隊にだって家庭を持つ者は大勢います! 全員家族の元へ駆けつけたい思いを押し殺して、自分の役割をまっとうしているのですよ! それを隊長のあなたが――」
「黙れぇ!! クズどもの家族などなんの価値があるというのだ!? 俺はシャレル家の人間だぞ!! そこらの平民とはすべてにおいて価値が違うんだ!!」
デュークさんは唾を撒き散らしながらそのように吠えておられました。お仲間らしき青年は、呆然とした表情で立ち尽くしています。傍から聞いていた身としましても、デュークさんの発言はなかなかに暴論。人間の本性は土壇場でこそ現れると言いますが、デュークさんの本性はやはりドクズと言わざるを得ないでしょう。
「止まれ! 止まらんかぁ!」
デュークさんは何やら空へ向かって叫びながら走っていきます。私はその方向を見上げてみました。
何やら巨大な影が上空を飛んでいるのが見えました。それはさながら首の長いコンドルという鳥に酷似していましたが、より邪悪な姿をしていました。
デュークさんに気がついたその化け物は面倒くさそうに一瞥すると、その口から炎の塊を吐き出しました。塊はデュークさんのすぐ目の前に着弾し爆音をあげて炸裂します。
「ぎゃあああああああああ!!?」
デュークさんは爆風によって宙を舞い、瓦礫の一片に衝突して地面を転がりました。その体は火だるまになっております。
私個人としてはこのまま焼け死んでいただいても猫の爪先ほども困ることはありませんが、グリム様の命令は『人々を守れ』です。なので私は渋々デュークさんの元に駆け寄り、服に付いた火を手で叩いて消して差し上げました。やや火傷を負ったようですが、命に別状はないでしょう。
その間にも化け物は口から炎を吐き、眼下の家々を片っ端から黒炭へと変えていきます。
おそらく、あれも『
このままでは、あの合成魔獣にグリム様の実家までこんがりと焼かれてしまいます。そうなっては困るので、私は腰の刀を抜きました。地面を蹴り跳躍し、半壊していた家の屋根を駆け、更にそこから合成魔獣めがけて飛び上がりました。
「――そこまでです。化け物さん」
縦斬り一閃。が、合成魔獣は私の斬撃を皮一枚で回避しました。
恐るべき反応速度とあの巨体からは考えられない俊敏さです。手応えはありましたが、どうやら掠めた程度。羽を切り落とすには至りませんでした。
地面に着地した私を合成魔獣はその真っ赤な瞳でぎろりと睨みつけてきます。
「なぁにぃ? アンタ、私の邪魔をするっていうの?」
どうやらこちらの合成魔獣も人語が話せる様子。
「それは違います。あなたが私の邪魔をしているのです。グリム様の命令に応えるという最も大切なことの邪魔を」
私は合成魔獣の翼へと目を向けました。先ほどの攻撃によって右翼にはわずかな傷がついています。
「あなたはどうやら、再生能力は持たされていないようですね」
「再生能力? ああ。あの木偶の坊は持たされてたわね、そんな力」
木偶の坊、とは先程グリム様に葬られた合成魔獣のことでしょうか。
「私には必要ないのよ、そんな不細工な力。再生能力なんて攻撃を貰わなければ不要でしょ? 私のスピードの前にはどんな攻撃だって当たらないんだから」
その合成魔獣はそう言って、ばさばさと羽を羽ばたかせてみせました。
私は腰に吊っていた刀の柄を握って腰を落としました。居合切りの構えをとり、そのまま敵を見据えて告げます。
「なら――私の勝ちです」
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