地に落ちた勇者

 俺達はリリスが魔法で映し出したニクス達の後を追って野盗となったあいつらのアジトを目指していた。


 なんの罪もない村の人達を襲った後だと言うのにニクスやマックス達はまるで何かの依頼を達成したかのように楽しそうに雑談をしている。

 それを見るだけで俺はなんとも言えない腹立たしさを感じる。


 しかし、気になる点もある。サナとサラサの姿が見えないのだ。

 あの二人が一緒ならニクスとマックスを止めるはずだが……。

 それも行けばわかることか……。


「ね、ねえ……。クロト、さっき村でニクスとマックスって叫んでいたけど知り合いか何か……?」


 険しい顔をして野盗のアジトへと向かう俺にレイナが問う。


 そう言えばニクスとマックスの事は言ってなかったな。

 別にいう気も無かったのだが……。


「それはボクも気になるのだ。一体誰なのだ?」


「ニクスとマックスは俺の元仲間だった奴らだ」


「え……?それって前言っていたクロトを追い出したっていう勇者パーティーの……?」


「そうだ」


「ふん、勇者が野盗か……。勇者とやらも地に落ちたものだなっ!」


 それを聞いたリリスは鼻で嘲笑あざわらい、映し出されているニクス達を見下していた。


 しかし、俺もニクスとマックスがここまでのクズだとは思わなかった……。



 ◆◆◆



 ニクス達の後を付いていくと、集落のような所へとたどり着いた。


「ここがニクス達のアジトか……?」


「そのようだ。奴らの幻影もあの廃村のような所へと向かっている」


 リリスは幻影を消すと俺の問に答えた。

 リリスの言うようにそこは聚落と言うよりも、廃村に近く、場所は襲われた村から歩いて数時間くらいの距離だ。


 どうやらニクス達はあそこに残されていた建物に住み着いているらしい。


 俺は索敵サーチを唱えると、野野盗の人数は二十数人だということが分かった。

 だが、分かったのは人数くらいでニクス達がどこにいるのかまでは掴めていない。


「クロト、どうするの……?」


「もちろん仕掛ける……!」


「でも、結構多いなのだ……」


「ふん、ダークエルフはあの程度の人数で怖気づくのか?私にかかればほんの数秒で殲滅できる」


「そりゃ、魔族の魔法は半端じゃないからな……。それよりみんなに頼みがある……」


「どうしたの、クロト……?」


「ニクスとマックスは俺の手で殺させてほしい……!」


「いいだろう。ならまずは奴らをあぶり出すか……。ファイヤーボールっ!!」


 リリスはそう言うと一度に五つのファイヤーボールを生み出し野盗のアジトへと投げつけた!


 俺でもファイヤーボールは一つしか生み出せないのにリリスは五つ同時か……。

 やはり魔族の魔力量は半端じゃないらしい。



 ファイヤーボールを投げ込まれ、野盗達が何事かと建物から飛び出してくる……!


「よし、行くぞ……っ!!」


 俺達は飛び出すと浮足立っている野盗へと襲撃をかけたっ!



 野盗達を次々と倒していくみんなを横目に俺は一人ニクス達を探す……!

 途中ほかの野盗と出くわすが、俺は剣を抜きそれを斬り捨てる!


「邪魔だ!どけ……っ!ニクス!ニクス達はどこだ……っ!?」


「俺たちに何のようだ……?」


「久しぶりだな、クロト……!」


 二人を探していると、向こうから姿を現してきた!

 お陰で探す手間が省けた。


「俺達のアジトを襲撃するとはやってくれるじゃねえか……!」


「それに仲間は女揃いか。お前を殺してからゆっくり可愛がってやるよ……!」


 ニクスとマックスはイヤらしい目つきでレイナ達を見つめる。

 こんなゲスな奴らと一時期でもパーティーを組んでいたのかと思うと嫌気が差す。


「それよりサナとサラサはどうした……っ!?一緒じゃないのか……っ!?」


「あの二人なら奴隷にされたよ……。」


「ああ……、クロトお前のせいでな……っ!」


「どういう事だ……?」


 サナとサラサが奴隷にされた……?一体こいつらに何があったと言うんだ……?


「教えてやるよ……、二人が奴隷にされたのも俺たちが今こうなっているのも全ては貴様のせいなんだっ!!」


 ニクスとマックスは剣を抜き俺へと襲いかかる……っ! 

 が……。


「シャドウホールドっ!!」


「ぐ……!」

「なんだこれは……っ!?」


 俺は魔法を唱えると二人の影から幾つもの黒い腕が現れ二人を拘束する……!

 しかし、まだ殺さない。コイツラには聞きたいことがあるからだ。


「この先にある村を襲ったのはお前達か……!なぜあんな事をした……っ!?」


「ぐ……、だったら何だったんだ……?俺は勇者だ……!勇者は何をやっても許されるんだよっ!!分かったらさっさと死ね!これを解けっ!!そしてお前の仲間の女達を俺たちに捧げろっ!!」


「……ニクス、お前がクズで本当に良かったよ。これでなんの罪悪感もなく御前を殺せるからなっ!シャドウグレイブっ!!」


「がは……っ!?」


 シャドウグレイブを唱えると、ニクスの影から現れた幾つもの黒い槍が奴の身体を串刺しにし、ニクスは絶命した。


「次はお前の番だマックス……!」


「ま……、待て……っ!お前弱いんじゃ無かったのかよ……!」


「誰が弱いなんて言った?俺は最初から無鉄砲に突っ込んでいくお前たちを巻き込まないように戦っていただけだ。さて、覚悟は良いか?」


「ま、待て……!殺さないでくれ……っ!俺達は仲間だろ……っ!?本当は俺はお前を追い出すのを反対してたんだ、な、だから……!」


 マックスは命乞いをするかのように調子の良いことを並べ立てている。


「マックス……、お前は村の人達が同じ事を言った時に助けたか……?皆殺しにしていただろ……!やはり貴様もクズだっ!!」


 俺はそう言い剣を抜くとマックスの首を跳ね飛ばした。


 そして、シャドウホールドを解くと二人の死体は力なく倒れた……。


「クロト、こっちは終わったわ」


「こっちも片付いたところだ」


「クロト、その二人が勇者パーティーとやらか?」


「そうだ、勇者ニクスと剣聖のマックスだ」


「こんなのが勇者とはな……。人間とは敵対関係とは言え同情する」


 俺はリリスの言葉に何も言い返すことが出来ぬまま、ジュノールへと向かったのだった。

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