次の目的地
ゲレンの一件から数ヶ月経った頃、俺達はとある町の宿屋の一階にあるメシ屋へとやって来ていた。それはいいのだが……。
「……レイナもう少しシャキッとしたらどうだ?」
「はぁ〜……、涼しい〜……」
外はうだるような夏の日差しが照りつける炎天下。
氷結魔法をアレンジして程よく冷やされた店内で、しかも冷たい飲み物を飲みながら俺の隣でレイナはリラックスしているのか、耳と尻尾は垂れ下がり、顔はだらしなくすっかり緩みきっていた。
お前は女としてその顔はいいのか……?
まあ、外は暑いから分からなくもないのだが……。
「なあ、レイナそろそろ別の街に行きたいのだが……?」
「やだ、ここから出たくない。外はあちゅい〜……!」
レイナは駄々っ子のようにテーブルにしがみついていた。
子供かっ!
レイナの言うことも確かに分かる。
特に彼女はライトアーマーとは言え、鎧を着ているから熱がこもってなおさら暑いのだろう……。
しかし、この町に来てもう一週間以上が経つ。なぜこの町に俺たちが足止めを食っているのかというと理由は二つある。
まず1つは今のように暑いとレイナが駄々をこねるから。
そして、もう一つはレイナの発情期と"あの日"が来たからだ。
そのせいで今回も俺はヘトヘトにされたのだが、それももう終わっている。
まあ、急ぐ理由もないのだが、いつまでもここにいる理由もまたない。
「仕方ないな、夏だからな」
「そうなのだ。夏は暑いと決まっているのだ」
そんな中俺とサリアは涼し気な顔をしていた。
最もそれには秘密があるわけなのだが……。
「何で、二人共そんなに涼し気ななの……?暑いのあたしだけ……?サリアは薄着だし所々肌が露出しているから涼しいというのはわかるけど、クロトはマントまで羽織って暑くないの……?」
「ん?勿論俺も外は暑いぞ?」
「そうは見えないんですけど〜……」
「もちろん秘密があるからな。それはこの
ジト目で俺へと詰め寄ってくるレイナに対し俺は首から下げたアミュレットを見せる。
「何これ……?」
「これは氷結の魔力を込めたアミュレットだ。コレをつければ夏でも涼しく歩ける。ちなみにサリアは自身の身体にアレンジした氷結魔法をまとわせて涼んでいたぞ。」
「ほう、よくボクが魔法を使っていたってわかったのだ。」
曲がりなりにも魔道士だしそれくらいはわかって当然だ。
「え……?あたしが暑い暑いと言っている間に二人共そういう便利なものを使っていたのっ!?」
「ま、まあ……、結果的にはそうなるかな……?」
「クロトひどいーーっ!ついこの前までまであんなに愛し合ったのにあたしに意地悪するなんてひどいーーっ!!」
いや……、お前はそのついこの前まで発情期だっただろ……。
お陰でこっちはヘトヘトだ……。
「まあそう言うな、ほら。レイナにもさっき作ったこの氷結のアミュレットをやるから……」
俺は服のポケットから今朝作ったばかりのペンダントへと加工した氷結のアミュレットを手渡す。
「ありがとう!クロトーーっ!!これであたしも夏の暑さからおさらば出来るよーー……っ!!」
レイナはそれを受け取ると俺へと抱きついてくる。
その瞬間彼女の髪からふわっと女特有の甘い香りが漂ってくる……。
「こ、コラ……!レイナ離れろ……暑苦しい上に人が見てるだろ……っ!?」
「え……っ!?あ、ご、ごめん……っ!!」
顔を赤くしたが弾かれるように離れたレイナに対し、俺はただ頬を掻いていた。
「あ〜……、ここだけ
そんな俺達をサリアは冷ややかな目で見ていた。
さらに周囲からも何か視線を感じるので見渡してみると他の客やスタッフからどこか生暖かい視線を向けられていた。
恥ずかしい!なんか恥ずかしい……っ!!
それはレイナも同様なのか、顔を赤くしながら俯いていた。
「と……ところでさ、こんなに暑いんだからどこか涼しい所に行きたいよね……っ!?」
「そ、そうだな……っ!」
レイナは誤魔化すように話題を振って来たので、俺もそれに乗っかることにした。
ナイスだレイナっ!
「……暑いのなら海にでも行けばいいのだ。」
海か……。それもいいかもしれないな。
「お客さん達海に行くんですか?」
サリアが海の話をしだしたのと同時に女性スタッフが注文した食事を持ってやって来た。
「そのつもりなのだが、どこかいいところ知らないか?」
「そうですね、それでしたらこの町から南に行くとジュノールという街が有名ですね。」
なるほど、ならそこに行ってみるか……。
次の目的地を決め、俺達はメシ屋で食事を済ませるとジュノールという海辺の街を目指すことにしたのだった。
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