放って置くと面倒なやつをとさっさと片付けたい

 俺達は声のする方へと振り向くと、そこにはレイナの依頼主、ゲレンと槍を手にした多くの兵士達の姿があった。


「ゲレンさん……?」


「ゲレン!お前は一体何者だっ!?」


 状況がいまいち掴めず、ただ呆然としていたレイナに代わり、俺がゲレンへと問う。


「無礼だぞ貴様っ!このお方が誰か知らんのかっ!?このお方は国王の右腕、ゲレン大臣にあらせられるぞっ!!」


 大臣……?そうか、ゲレンが何者かと思っていたら大臣だっのか……。


 だから、依頼品の受け渡しが屋敷ではなく酒場で、馬車も簡単に用意できる……。

 つまり、それだけやましい事があると言うことだ。


「ええーー……っ!?ゲレンさんって大臣様だったんですか……っ!?」


 そして、案の定というか何と言うか、レイナはゲレンの正体に今の今まで気が付かなかったらしい。


 いや、今まで気にしようともしていなかったと思う。


「その大臣とやらがボク達になんの用なのだっ!?」


「私はその依頼品の魔導書を引き取りに来たのだ。痛い目を見たくなかったらおとなしくっこちらに渡してもらおうか」


 ゲレンがそう言うと大勢の兵士達が俺達を取り囲み、手にしていた槍をこちらへと突き付けてくる。


「おいお前!大人しくその手に持っている本を渡せっ!」


「分かった……」


 俺は瓶子に言われるがまま魔術書を兵士の一人へと手渡すと、その兵士は魔術書をそのままゲレンへと渡した。


 ここでこの兵士達を蹴散らすのは感嘆だが、そうなれば俺達は仲良くお縄を頂戴されてしまう。


 それが分かっているのかレイナもサリアも大人しくしていた。


「ゲレン一つだけ答えろ!その魔術書をどうする気だっ!?」


「ふふふ……、教えてやろうではないか。この魔術書は大地の魔獣ベヒーモスを召喚するための魔術書だ。だが、そのためには多くの魔力がいる。そして、その魔力として用いるのがこの宝珠オーブだ」


「それはあたしが持ち帰ったオーブ……っ!?」


 レイナの言う通り、ゲレンの左手にはオーブを手にしていた。


 まさか、あのオーブが魔獣召喚のアイテムだったとはな……っ!


「お前はその魔獣というのを使ってどうする気なのだっ!?」


「いいだろう、ここまで働いてくれた礼だ。冥土の土産に教えてやろう。私はベヒーモスを用いてこの国を……!いや、王族を討ち滅ぼすのだっ!!」


 ゲレンの言葉に周囲がざわつく……。


「お……、おい、聞いたか……?王族を討つだってよ……。お前知ってたか……?」


「いや、知るわけ無いだろ……?」


「おい、どうなってんだ……?なんでゲレン様が王族の方々を討つんだ……?」


 何か兵士達の様子が変だ……。もしかしたら、兵士達はゲレンからその目的を聞いていなかったのでは……?


「ゲレンさん!なんで王様達を倒そうとするんですかっ!?」


「お前達には私の苦悩など分かるまいっ!あのバカ王の考えた"勇者特権"のせいで一体どれだけの苦情が国民や鬼族から寄せられたことか……っ!しかも王はそれを無視して全て私へと押し付けたのだっ!!他にもまだある!貴族の領土争いの仲裁!王子や王女のワガママ!食料をもっと高く買い取ってほしいという生産者からの苦情に、食料の値段を下げろという消費者からの苦情……!それらを一手に押し付けられ板挟みとされていた私のこの苦悩を……っ!!」


 ゲレンの怒りに辺りは静まり返っていた……。


 と言うかこいつ、かなり苦労していたんだな……。


「お前、苦労していたんだな……」


「やかましいっ!私はこのベヒーモスを使い王族を討ち取り私がこの国をより良い方向へと導くのだっ!!」


 俺の言葉に逆上したのか、ゲレンは祭壇の奥に描かれていた魔法陣の中央へと走ると、左手に持ったオーブを上へとかざし、魔導書を開き書かれていた呪文を唱えたっ!


 しまった……!この場でベヒーモスを召喚する気か……っ!?


「ははははは……っ!はーははははははっ!!」


 魔法陣から頭に角が生えた黒く巨大な魔獣が姿を現し、ゲレンは高らかに笑い声をあげていた。


「クロト……」


 レオナとサリアは出現したベヒーモスに対し明らかに恐怖していた。


 それは兵士達も同様で驚き留まっていた。


「さあ行けベヒーモスよっ!まずは兵士もろともそいつらを片付けろっ!!」


「な……っ!?」


 ゲレンは薄ら笑いを浮かべながら俺達を指差す。


 こいつ正気か……っ!?俺達だけでなく自分の手下である兵士達さえも殺す気か……っ!?



 しかし、ベヒーモスは動く様子もなくただ佇んでいた。


 どういう事だ……?


「おい!行けっ!私がお前を召喚したんだ!私がお前の主だ!私の言うことを聞けっ!!」


 ゲレンが怒鳴り散らすと、突如ベヒーモスは突如彼の方へと振り向くと、おもむろにその大きな脚を上げた。


「ん……?何をしている!敵は向こうだ!私ではないっ!止めろ……っ!やめ……っ!!」


 ゲレンが言い終わる前にベヒーモスは召喚者であるゲレンをその脚で踏み潰した!


 ゲレンは自ら召喚したものにあっけなく殺された……。


 多分、ゲレンはベヒーモスを完全にコントロール出来てはいなかっただろう、小悪党の最期というのはなんと惨めなものなのだろう……。


 だが、コイツをこのまま放置しておくわけにはいかないっ!



 召喚術者のコントロールから完全に離れたベヒーモスは轟音のような雄叫びを上げると兵士達は震えながら我先にと逃げ出す。



「あ……、ああぁぁ……」


「く……クロト……」


 レイナとサリアもまた恐怖で足がすくみ動けないでいるようだ。


 ならここは俺がやるしかないようだ……っ!


「いいかレオナ、サリア……。俺が今から使う魔法を誰にも言うなよ……っ!?」


 俺は二人に釘を刺すと魔法を唱え始めた……!


「アキシオンインパクトっ!!」


 俺は両手を合わせて魔法を発動すると目の前に大きな闇の魔法陣が現れ、強大な闇の破壊エネルギーが放たれるっ!


 そしてそれがベヒーモスへと命中すると漆黒の闇がそれを飲み込みそのまま爆発するかと思いきや漆黒の闇は縮小しベヒーモスを飲み込んだまま消滅した。



 ブラックホールが広域の範囲魔法だとするとアキシオンインパクトは単体を目標とした闇属性の最強クラスの魔法の一つ。勿論これも禁忌レベルの魔法だ。 


「終ったの……?」


「ああ、終ったぞ」


 ベヒーモスが消え、静まり返った神殿の中できょとんとしているレイナの頭の上に俺は手をポンとおいた。


 それはいいが、今のアキシオンインパクトでベヒーモスを召喚した魔法陣どころかオーブも魔導書も消滅したしたな……。まあいいけど……。


「く、クロト……!お前は一体何者なのだ……っ!?リビングメイルの時と言い、今と言い、なんであんな魔法が使えるのだ……っ!?」


 アキシオンインパクトでえぐられた地面を指さしながらサリアは明らかな敵意を向けて俺を見つめてきた。


「何って、ただの闇魔法が得意な魔道士だ」


「そんな訳ないのだっ!ただの人間があんな魔法を使える訳がないのだっ!お前はまさか……、魔王軍の幹部か何かなのだ……っ!?」


 俺が魔王軍の幹部だって……?冗談じゃない。

 そんな面倒くさい事こちらから願い下げだ。


「残念だが俺は魔王軍でも、ましてやその幹部でもない。俺は面倒事が嫌いなただの人間さ。行くぞ、レイナ」


「え……?あ、うん!」


「待つのだっ!まだ話は終わってないのだっ!!」


 俺はわめき散らすサリアを無視し、レイナと共にこの神殿を後にしたのだった……。



 余談だが、その後聞いた話では、今回のゲレンの件は兵士から王へと報告があげられ、騒動の発端となった"勇者特権"は廃止となった。


 それによってニクス達が苦労するのだが、それは俺の預かり知らぬところだ。


 めでたし、めでたし!



 ◆◆◆



「……で?二人はいつまで俺についてくるんだ?」


 アドラの街を出た俺の後ろをレイナとサリアの二人がついて来る。


「まあまあ、いいじゃないの。旅は道連れって言うでしょ?」


「ボクはまだクロトの秘密を聞いていないのだ!それをあばくまでどこまでもついて行くのだっ!!」


「……好きにしろ。」

 

 レイナは家を引き払い俺の旅へと付いてきていた。


 わざわざ家を売らなくてもと思うが、よくよく考えればコイツを変に一人にしておくとまた騙される危険があるため、俺のそばにおいておいたほうがまだ安全かもしれない。


 一方のサリアは俺が何か秘密を隠していると思い込んでいるらしく、それをあばくんだと息巻いているが、まあ好きにさせておくか……。


 そんなことを思いながら俺は二人を連れて気の向くままに旅をするのだった。

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