その頃のニクス(その1)

 クロトがデナンの街を出た頃、ニクス達もまた街を出て森へとやって来ていた。


 しかしそこは、クロトが向かった場所とはまた別の方向にある森の中だ。


 彼らはここへはとある貴族の依頼を受けてやって来ていたのだが、その途中でニクス達4人は食事をとっていた。


「……不味いメシだ」


 その料理が口に合わなかったのか、ニクスは完食し、空になった金属製の食器を放り投げた。


「口に合わなかった……?ごめんね……」


 その料理を作ったサナが申し訳無さそうに食器を拾い上げていた。


「まったくひどい味のメシだ。おい、サラサお前も女ならもう少し美味いメシを作れ。クロトのほうがまだ美味いメシを作れていたぞ」


「く……、なら自分でやってみなさいよ……」


 マックスの心無い言葉にサナと同じく料理を作ったサラサは唇を噛み締めていた。


 なぜ料理を作ってやったのに、自分がそこまで言われないといけないのか……。


 彼女は怒りに身体を震わせながら呟くもその言葉はニクスとマックスには届くことは無かった。



 食事を終えたニクス達は森の中を進むと目的の場所へとたどり着く。


 彼らが貴族から受けた依頼はロックリザードの討伐。

 この近くには依頼した貴族が管理している家畜小屋があるらしく、最近ロックリザードによる被害が多発しているのだという。


 さらにその家畜小屋に貴族の娘二人と使用人がやって来ているため娘たちを保護してほしいというものだった。


「ロックリザードはどこだ……?」


 ニクスは周囲を見渡すが、この辺りは岩場が多く、ロックリザードは岩のような肌をしているため見分けがつきにくい。


「おい、サラサとサナの魔法で奴らの姿を見つけられないか?」


「はあっ!?私はハイプリーストよ……っ!?そんな魔法使えるわけないじゃない!そう言うのはウィザードであるサナの仕事でしょっ!?」


「あたしもそんな魔法使えないよ……。だってあたしはコウゲキ魔法専門だもん……」


 マックスはサラサとサナに問うも、彼女らは相手を見つける魔法は使えないようだ。


 それもそのはず、サラサは回復が専門のハイプリーストで、サナは攻撃魔法が専門のハイウィザード。


 こういう後方支援は以前ならクロトが行っていたのだが、クロトがいない彼らに岩に擬態したロックリザードを見つけることは困難だった。


「はあっ!?ウィザードが索敵サーチの魔法も使えないってどういう事っ!?」


「ご、ごめん……」


 しかし、そんな事もお構いなしとサラサはサナへと怒りをあらわにしながら詰め寄り、サナはただ俯いていた。


 索敵サーチ、それは敵の気配や居場所を初級魔法なのだが、このパーティーではクロトしか使えなかった。


 正確にはクロトが使えるので覚える必要がないとサナもサラサも覚える気がなかったのだ。


 それが今裏目に出ていた。


「ん……?いたぞ!ロックリザードだっ!!」


 しかし、流石と言うべきかニクスは目を凝らしてロックリザードを見つけると剣を抜いて斬りかかるっ!


「でや……っ!!」


 がしかし、ニクスの放った一撃は岩のように硬いロックリザードの皮膚を斬り裂く事が出来なかった。


「くそ……!剣が通らない……!前は簡単に倒せていたのに……っ!」


「ニクス!俺がやるっ!はあっ!!」


 次は剣聖のマックスがロックリザードへと剣を突き立てようとするもニクス同様その剣先が通ることはなかった。


「ど、どういう事だ……?」


 ニクスとマックスは困惑していた……。


 彼らは知らなかった、クロトが彼らに与えていた魔力護符アミュレットはなんの効力も発揮していないことに。


 そして、今まで難なく倒せてきていたのはこのアミュレットがあったからだということを彼らは知らなかった。


「ニクス、マックス退いて!あたしが魔法で倒すわっ!ファイヤーボールっ!!」


 サナの放ったファイヤーボールがロックリザードを襲う!


 しかし、それはロックリザードの皮膚を少し焦がす程度でたいしたダメージは与えられてはいなかった。


「ウソ……」


 自身の魔法が効かなかったことにサナは動揺を隠せずにいた。


 彼女の魔法もまたクロトのアミュレットで増幅されていたのだが、その効力はもうない。



 ニクス達の攻撃が通用しないと分かったのか、ロックリザード達が一斉に襲い掛かってくる……!


「サナ!なんでもいい!コイツらを吹っ飛ばせ……っ!」


「わ、分かった……!エクスプロージョンっ!!」


 サナはロックリザード達へとエクスプロージョンを唱えたっ!


 サナは大爆発を予想していたが、巻き起こったのはただの小爆発だった……。


 本来ならサナは、まとめてロックリザード達を吹っ飛ばす予定だったが結果的には一体しか倒すことができなかった。


「サナ!どうなってるんだっ!?」


「あたしに聞かれても知らないわよ……っ!」


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁーーーーー……っ!!」


 ニクスとサナが言い合いをしている後ろでサラサの悲鳴が聞こえる!

 なんとサラサは一体のロックリザードに襲われていた!


 ロックリザードは彼女を押し倒し、その鋭い牙で食らいつこうとしていた。


 サラサは必死に食われたいともがくも、ロックリザードの鋭い牙が容赦なく彼女を襲う!


「くそ……!サラサを離せっ!!」


 ニクスとマックスでどうにかサラサを助けることが出来たが、彼女は左手を失い、右腕は失ってこそいないものの、一部を食いちぎられてしまっていた。


「逃げるぞ……っ!」


 ニクス達は重傷を負ったサラサを抱きかかえて逃げ出すっ!


 当然ロックリザードは追いかけてきたのだが、ニクス達は意図せずに敵を家畜小屋へと誘導してしまい、ロックリザード達は家畜小屋へと襲いかかることでニクス達は難を逃れた……。



 ◆◆◆



「……以上が討伐失敗の報告です」


「う……!うぅ……!痛い……!痛いよぉ〜……っ!」


 重傷を負ったサラサと共にニクス達は依頼主の貴族の元へと依頼の失敗報告へとやって来ていた。


「何が失敗しましただっ!ふざけるなっ!!」


 依頼主の男性はニクスの報告に怒り、手に持っていたワイングラスをニクスへと投げつける!


「そうは言われますが、ロックリザードの皮膚は硬く、剣も魔法を効かないのです……」


「黙れっ!ロックリザードなど簡単に倒せると言ったのは貴様たちだろっ!!」


「すみませんでした……」


 貴族に責められ、ニクスはただうつむくしかなかった。


 そんな彼の心のなかにはなぜ以前は簡単に倒せていたロックリザードが倒せなかったのか、そしてなぜ俺はこんなヤツに謝らないと行かないのかと内心憤りを感じていた。


「何がすみませんだっ!!あそこには私の娘二人と使用人がいると言っただろっ!!娘たちはどうしたっ!?」


「……すみません」


「貴様……っ!まさか娘たちを見殺しにしてきたのかっ!?」


「そんな……、私の可愛い娘たちが……」


 娘たちがロックリザードに襲われて死んだ……。


 そのショックで依頼主の妻は卒倒し、気を失ってしまっていた。


「貴様らのせいで私の娘たちは殺された……っ!この責任をどう取るつもりだ……っ!?」


「……すみません」


「ぐぅ……っ!もういいっ!貴様らの顔など二度と見たくないっ!とっとと消え去れっ!!」


 依頼を失敗したニクス達は後に多額の慰謝料を請求され、貴族たちの信用を失い、街の人から後ろ指を刺されながら重傷を負い精神的なショックで魔法が使えなくなったサラサを連れて街を去ったのだった……。

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