お持ち帰りにされるのを避けたい

 森の街道を歩くこと数時間、日が沈みかけた頃にようやく森を抜けると、すぐ目の前に高さが5メートル程はありそうな壁が姿を現した。


 何だこりゃ……?


 最初こそ何かわからなかったが、それが城壁なのだと言うことに気が付くのに少し時間がかかった。


 自慢ではないが、田舎町出身の俺はこんな城壁と言うものを見たことがなかった。

 そして、城壁があるこの街はどれほどの都会なのだろうと興味もまた湧いてくる。



 城壁に設けられている門をくぐり、街へと入ると、そこは日が沈みかけているにも関わらず、そこら中に人間やエルフ、獣人にドワーフなど、様々な人の姿があった。


 さらに、ここからで遠くではっきりとは見えないが、街の中心部の辺りに何か大きな建物が見える。

 見た所も城のようにも見えるが……、何だあれは?


 それにしても、ここがレイナが言っていたアドラの街と言うことだろうか……?前にいたデナンも大きいと思っていたが、ここはそれ以上だ……。


「クロトはキョロキョロして何してるの?」


 物珍しそうに辺りを見渡している俺にレイナは呆れたような顔をして俺を見ていた。


 いや、物珍しいそうなというか、実際に物珍しいのだ。


「いや、すごい人の数だなと思って……、それに建物も多い……。前にいたデナンの街と大違いだ……。」


「それゃそうでしょ、だってここアドラの街はザンガリア王国の首都だもん。」


「……は?首都?」


 首都……?え?ここってこの国の首都なの……?


「え……?何?クロトはここが首都だって知らなかったの?」


「はい……、知りませんでした。すみません、田舎者で……。」


 首都……、首都か。どーりで人が多いわけだよなっ!!ちくしょうっ!

 じゃあ、あの遠くに見える城みたい大きな建物は本当に城だという訳かっ!


 どうせ俺はここが首都だなんて知らなかった田舎者だっ!さあ!笑えばいいさっ!


 はーははははは……っ!!


「あーはははははは……っ!クロトって旅をしてるのにこの国の首都も知らなかったのっ!?あーははははは……っ!!」


「笑うなーーっ!!」


「あが……っ!」


 俺は指をさして笑い飛ばしていたレイナの顔面をグーで殴った!


 確かに笑えとは言ったさ……!だが笑い飛ばせとは言ってないっ!!


 え……?違いがわからん?細かいことは気にするなっ!


「イタタ……!もう、女の子の顔をグーで殴るなんて最低っ!」


「俺は男女平等なんだ!それより、この街のどこに行くんだ?」


「とんだ男女平等ね……。それより、場所はこっちよ。付いてきて。」


 レイナが街の中へとすすむ。俺も彼女の後を付いて歩こうとしたのだが……。


「……はぐれたな。」


 人混みに消えてしまったレイナを俺は完全に見失っていた。

 くそ!これだから都会ってやつは……っ!



 しかし、闇雲に探しても道に迷うだけだ。こういう時は魔法を使うとするか……。


索敵サーチ……!」


 サーチ、これは闇魔法ではないが、魔力を用いて自分の周囲を探る魔法で、本来の目的は自分へと迫ってきている敵を探る魔法だ。


 しかし、今回は目的が違いサーチを使ってレイナの気配を探る。

 彼女の気配なら今日した模擬戦で掴んでいる。

 もっとも、模擬戦をしていなくても、昨日何度もレイナを抱いたのでどっちにしろ分かるのだが……。


(レイナの気配はっと……。ん……?)


 レイナを探していると、誰かが意図的に俺の方へと近づいてきている気配があった。


 いくら都会とは言え、人が突っ立っていたら邪魔だから避けるり何なりするだろう……。


 しかし、コイツは避ける素振りすら見せず、ただ真っ直ぐに俺の方へと迫ってきていた。


 コイツ……、まさかスリか……?


 俺はいつでも動けるように気取られぬように身構えていると、そいつは俺のマジックポーチへと手を伸ばしてきたっ!


「おっと……!残念だったな!」


 俺はスリの手を手噛むと、そいつは黒い髪のダークエルフの女みたいだったが、一瞬驚いたような顔をすると、俺の顔を睨みつけ手を振りほどくと、すぐに人混みの中へと走り去っていった。


「ちょ……っ!」


 捕まえて役人にでもつき出そうかと思ったが、すぐに居なくなってしまった……。


 まあいいか、何も盗まれているわけでもないし……。


「あー!クロトこんな所にいたっ!もう、迷子にならないでよね……っ!!」


 スリが去った方向へと目をやっているとレイナが戻ってきた。

 そういえば俺、迷子になったんだったな……。


「すまない、人混みの多さに慣れなくてな……。」


「もう、ちゃんと付いてきてよね……。」


俺はレイナに手を握られ、彼女の目的の場所へと連れて行かれたのだった。




「ゲレンさん、こちらが頼まれていた宝珠オーブです。」


 街を歩くこと十数分、レイナは一軒の酒場へと入ると、ゲレンという男に盗賊達のアジトから手に入れたオーブを手渡していた。


 あの男がレイナの依頼人なのだろう。レイナは何か話しているようだが、俺はその男の見た目がやたらと気になっていた。


 本人は隠しているつもりかもしれないが、服装からして貴族かもしくはそれ以上の立場の者。


 年齢は60前後くらいだろうか?やけに立派すぎる髭が目に付く。


 さらに言えば無駄に太った体は少なくとも冒険者や街の人とも違うようだ。

 何にしろ、胡散臭いことこの上ない。


 レイナはよくあんな男から依頼を受けたな……。俺だったら即断るがな……。


「クロト、お待たせ!」


 ゲレンという男との話が終わったのか、レイナが戻ってきた。


「それで、次はどうするんだ?」


「次は何か魔導書がいるんだって。」


「魔導書……?なんの魔導書だ?」


 一口に魔導書なんて言ってもいくらでもある。あの男がなんの魔導書を探しているのかは知らないが、手当たり次第に集めると言われても流石に困る。


「なんか、この街を出て北に二日ほど進んだ所にある、切り立った崖の中に埋め込まれた神殿の中に収められている魔導書がいるって言ってた。」


 崖の中に埋め込まれた神殿ねえ〜……。


 俺はレイナの話を聞きながら横目で周囲を見渡すと先程の男の姿は既に無かった。


 しかし、それとは別の気配を感じた。気配からして先程のスリのダークエルフの女のようだが……、その女もすぐにその場を去ったため特に気にすることはしなかった。


「ところで、ゲレンという男は何者だ?見た所普通の街の人とは思えんが……。」


 ゲレンの姿が見えなくなったので俺は思い切ってレイナに問うてみた。


「さあ、あたしも名前は知らないんだけど、何か困ってたから依頼を引き受けたのよ。」


「……は?待ってくれ、今相手の名前を知らないと聞こえたが、聞き間違えじゃないよな?」


 俺は恐る恐るレイナに聞き返してみる。


 頼む……!聞き間違いであってくれ……っ!


「だから、相手の名前は知らないの。なんか困ってた感じだったから話を聞いたら、オーブが必要だっていってたから……。」


「……冒険者ギルドを通してって訳じゃなさそうだな。だが、直で受けるのなら尚更相手の素性を確認することが大事だろう?」


「まあそうなんだけど、困ってたから。」


 ……頭が痛くなってきた。

 困ってたから素性も知らない人の依頼を受けました?アホかっ!!


「お前、頼まれたら断れないタイプだろ?」


「えっ!?何で分かったのっ!?」


「分かるわそのくらいっ!!それに、騙されやすいとも言われるだろ?」


「ええ……っ!?何で分かるの……っ!?」


 ……やっぱりか。

 多分コイツは頼まれたら断れない底抜けのお人好しなのだろう……。

 よくそんな奴が冒険者なんて出来るな……。下手したら騙されて奴隷行きだぞ……。


 おまけにレイナは女で見た目には十分可愛い部類に入ると思う。そんな奴が奴隷商人になんか捕まったらあっという間に性奴隷にされてしまうだろう。


 なんか別の意味でコイツから目が離せなくなってきたな……。


「はあ……。それで、その神殿にはいつ行くんだ?さすがに今日はもうすぐ日が暮れるぞ……。」


「それくらい分かってるわよ。だから明日以降にしようかなと思ってるわ。」


「分かった、なら明日またここで落ち合おう。」


「え?何で?」


「いや、何でって俺は旅人だ。この街に家なんてないから宿を探してそこで寝泊まりをする。」


「え……?あたしの家があるよ?」


「いや、確かにそうかもなしれないが、俺は男だ。お前も女ならいきなり男を家に上げて平気なのか?」


「うん。だって、クロトとはもうしちゃったし、あたしの旅に付き合ってくれるんでしょ?ならあたしの家に泊まっても何ら不思議じゃないよ。」


 レイナは何を当たり前のことをと言わんばかりな目で俺を見つめていた。

 その視線に思わず俺が間違っているのではないかという不安にかられる。


 ……俺間違ってないよな?


「それに、宿って言ってもクロトこの街の事何も知らないよね?それに宿屋だとお金がかかるよ。そんなの勿体ないよ!」


「いや、そうは言うがいきなり俺が行くと、流石にレイナの家族に迷惑になるだろうし……。」


「大丈夫!あたし一人暮らしっ!」


「なおさら悪いわっ!!」


「え?そうかなぁ……。」


 いかん……、このままではレイナの家に俺がお待ち帰りされてしまう。


 いや、俺としては悪くはないのだが、流石に男が若い未婚の一人暮らしの女の家にズカズカと上がり込むのも気が引ける……。


 と言うか、コイツは世間一般の常識というものが通用しないのだろうか……?


「だ、だがな……、流石に一人暮らしの女の家に男を家に上げて身の危険とか感じないのか……?」


「大丈夫!あたしクロトのこと信用してるしっ!」


 こいつは、何を持って昨日会ったばかりの男を信用すると言っているのだろうか……?


 くそ……!それよりも断る理由は他にないか……っ!?


「そもそもお前は俺の何を知っているんだっ!?」


「何って……、昨日優しくしてくれたし……。それに、女の子の一人暮らしってやっぱり少しは怖いんだよ?だから男の人がいてくれたら安心かなって……。ダメ……、かな……?」


 レイナは顔を赤くしながらも上目遣いで俺を見てくる。

 女のその視線は実際反則だと思う……。


「……分かったよ!好きにしろっ!!」


 俺は頭をガシガシと掻くと、レイナの案を了承した。


 こいつわざとか……?わざとやっているのか……っ!?


 こうして俺はレイナの家にまんまとお持ち帰りされてしまった……。



 ◆◆◆



 その日の夜、貸してもらっているベッドで休んでいると、どう言う訳か俺は下着姿のレイナにベッドへと押し倒されていた。


 なぜこうなったのか……、思い返してみるとレイナの家にお邪魔させてもらった時は特に変わらなかった。


 彼女お手製の食事を食べるときも変わらなかった……。(味の方は美味かったが。)


 おかしいと思ったのは俺が風呂から上がった時だろうか……?やけに顔が赤くなり息遣いも少し荒かったような気がする……。


 そして今、俺を押し倒しているレイナはさらに顔が赤くなり、息遣いもかなり荒くなっていた。


「あの……、レイナさん……?」


「ごめんね、クロト……。あたし、急に発情期が来ちゃって……っ!本当はもう少し後だと思ってたんだけど、昨日クロトとヤッてから早まったみたい……っ!」


 発情期……、動物に発情期があるように、獣人族の女性にも発情期が訪れると言う話を聞いたことがある。


 発情期となった獣人族の女性は男を捕まえると発情期が収まるまでの間、夜通し行為に及ぶという噂を聞いたことがある。


 しかし、俺がその獣人族の女の相手をさせられる日が来るとは思わなかったが……。


「一応聞くが、まさか発情期が近いから執拗に俺を連れ込もうとしていた訳じゃないだろうな……?」


「な……、ななななな……、ナンノコトカナ……?」


 俺の問にレイナの目は完全に泳いでいた。どうやら図星のようだ……。


 つまり俺はレイナの相手としてまんまと連れ込まれたわけだ……。

 こいつ、思ったよりもあざといらしい……。


「はあ……、変な男に手を出して後で大変なことになるよりは俺が相手をしてやるよ……。」


「ごめんね、クロト……。」


 俺達はお互いにキスを交わし、俺はレイナに避妊魔法をかけた。


 そしてお互いに着ているものを脱ぐと、俺たちはそのまま行為へと至ったのだった。


 しかし、この時の俺は知らなかった……、レイナの発情期が三日ほど続き、三日三晩も絶えず相手をさせられるということをっ!!

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