レイナはそれを眺めていたい

 レイナの家に泊まってから四日目の朝……、俺は力尽きていた……。


 まさか獣人族の発情期があそこまで激しいとは思ってもみなかった……。

 時折食事等の休憩こそ挟んでいたが、ほぼノンストップで三日三晩俺がレイナに犯されていた……。


 最初こそ良かったが、最後の方はほぼ拷問に近い感じだった。

 うん、もう発情中の獣人族には近づかないようにしよう!



 一方のレイナはと言うと、発情期が終わったものの今度は"あの日"が来たとかで腹が痛いと言って自分のベッドで休んでいた。

 女というのは大変だな。


 取り敢えず、俺も寝る……。おやすみ……。



 ◆◆◆



 翌朝、俺は借りている部屋で盗賊から巻き上げた値打ちのない宝石を並べていた。


 値打ちのない宝石と言っても種類は様々で、傷が入っていたり、輝きが鈍かったりと様々だ。


「ねえ、クロト宝石を広げて何をしてるの?」


 宝石を広げている俺を、普段着だろうか、ノースリーブの服に短パンを履いたレイナが興味津々に見つめていた。

 どうやら今日は腹の具合はいいようだ。


「今からこれらに魔力を込めて魔力護符アミュレットにするんだ」


「アミュレット……?」


「そうだ。アミュレットにして武器や鎧に付けると防御力が上がったり、攻撃力が上がったりする」


 俺は試しに一つの宝石を手にとって防御力を上げる魔法を込める……!


 すると、宝石が一瞬光り輝いたと思ったら宝石の中に込められた魔力の光が灯っていた。


「きれい……」


 レイナは興味深そうに目を輝かせて魔力の光が灯った宝石を眺めていた。


「ねえ、クロト。これ普通の宝石でやったらダメなの……?」


「別にダメと言う訳じゃない。普通の宝石でも出来るが、効果は変わらん。寧ろ何もせずに売ったほうが高い。値打ちのない宝石はアミュレットにすればマジックショップでそれなりに売れるからな」


「ふ〜ん……。ねえ、コレあたしにくれないかな?」


「欲しいのか?」


「うん!」


「まあいいが……。それで、どんなアミュレットがいいんだ?まあ、剣は攻撃強化だろうが……」


 俺はレイナに赤く光っている攻撃強化の魔力護符アミュレットを見せた。


「そうだね……、鎧はスピードが早くなる奴がいいかな……?」


「防御強化じゃなくていいのか?」


「うん。狼獣人のあたしはスピードのほうが大事だから!こう見えてあたしは猫獣人より早いんだよっ!?……短距離では負けるけど」


「ほう……」


 狼獣人が猫獣人よりも速いとは驚いた。

 猫獣人はすばしっこく脚が速い事で有名だが、狼獣人はそれ以上とは驚いたな。


 しかし、短距離ではやはり猫獣人のほうが速いのか、なるほど……。


「そう言う事ならこれをやろう」


 今度はレイナに白く輝くスピード強化の魔力護符アミュレットを取り出した。

 あとはこれらのアミュレットを装備に埋め込めば効果を得られるのだが……。


「わあ〜、クロトありがとうっ!……ところで、コレどうやって付けるの?」


 まあ、問題はそこだ。


 アミュレットを埋め込まれるような何かがあれば簡単なのだが、なければ埋め込めるようにしなければならない。


「取り敢えずレイナの装備を持って来てみろ」


「分かった」



「これは……」


 レイナの剣と鎧を見て俺は言葉を失った……。


 アミュレットを埋め込めるようなものが何も無い……。


 多分これらは普通に武器屋かどこかで買ったのだろう。

 量販店の装備はクセがなく扱いやすいのが特徴だが、アミュレットを埋め込んだりする、いわゆる"カスタム"仕様にするには向かない。


 簡単に言うと量販店の装備は"特徴がないのが特徴"なのだ。


「どう……かな……?」


「このままでは無理だな……」


 不安げに見つめるレイナに俺はハッキリと言った。


 さすがの俺もこのままこれらの装備にアミュレットを埋め込んだりするのは無理なので、そこは鍛冶屋に頼むしかない。


「クロトがくれたこの宝石を使いたかったのに……。」


 レイナは俺の上げた魔力護符アミュレットを手に持って見るからにしょげていた……。

 それはもう頭の耳や尻尾が項垂れるている程に……。


 それはそれで可愛いような気もするが、その様子は少し可哀想な気にもなってくる。


「なら、これを使うか?」


 俺はマジックポーチから二つの銀色の腕輪を取り出した。


「なにこれ……?」


「見ての通り腕輪だ。以前アミュレットを埋め込めるように鍛冶屋で作ってもらったものの、使わずじまいで仕舞っていたヤツだ。これにさっき渡したアミュレットを埋め込んでやるからそれを使え」


「そうしたらクロトがくれたこの宝石が使えるの?」


「ああ、勿論だ」


 俺は二つの腕輪にそれぞれ攻撃強化とスピード強化のアミュレットを埋め込むとそれらをレイナへと手渡した。


「ありがとう、クロトっ!」


 腕輪を受け取ったレイナは、パァっと顔が明るくなったかとおもうと、俺の腕へと抱きつき尻尾をブンブンと振っていた。


 狼の獣人と言うことで、レイナの感情をあの尻尾が表しているのだろう、そう考えるとあの尻尾は本当に分かりやすい……。


 それはいいのだが、腕にレイナの二つの柔らかな膨らみの感触が……。


「ねえねえ、クロト!まだそのアミュレットっていうの作るのっ!?」


「そうだな。このクズ宝石をアミュレットに加工する。旅をする上で金は余分にあるに越したことはない」


「じゃあさ、クロトが宝石に魔法を込めているところを眺めていていい?」


「それは構わないが……、見ていて面白いものでもないぞ?」


「あたしが見ていたいの」


「……好きにしろ」


 レイナは俺の背中へと移動すると、そのまましがみつき彼女の胸が俺の背中に押し当てられる。


 俺は背中にレイナの胸の感触を感じながら価値のない宝石に魔力を込めて次々とアミュレットへと変えていった。


 そんな事より、背中にレイナの胸が押し当てられてるし、変に見つめられてるしで、思ったよりやりにくいなこりゃ……。



 ◆◆◆



「おい、お前レイナと共に歩いているが何者だ?」


 値打ちのない宝石を魔力護符アミュレットへと変えた俺はレイナと共にマジックショップへと向かおうとしていたら一人の男に呼び止められた。


 その男は見た目にして四十代前後だろうか?鎧こそ着ていないが、体格のいい体をしていることから冒険者かなにかなのだろうということだけは分かる。


「もしかして、俺のことを言っているのか?」


「他に誰がいる?」


 惚けて誤魔化そうとしてみたが、その男は鋭い目つきで俺を睨みつけていた。

 もしかしてレイナの知り合い、もしくは父親か……?


「ゴラルさん!待ってください!この人は私の依頼を手伝ってくれている人ですっ!」


「レイナ、そうは言うがお前また騙されているんじゃないのか……?」


「違ういますよっ!それにこのクロトは野盗に襲われていた私を助けてくれたんですよっ!?」


 訝しげな表情で俺を見ていたゴラルと言う男を、レイナはムキになって文句を言っていた。


「本当か……?」


「それなら本当だ。ここに来る途中に野盗に襲われていたコイツを助けた。そして……コイツに騙されて昨日まで発情中の相手をさせられたんだ……」


「……それは大変だったな」


 俺が答えると、ゴラルは哀れみの目で俺を見ていた。

 どうやら発情中のレイナの激しさは誰もが知るところなのかもしれない……。


「クロト!失礼よっ!!あたしは騙してなんかいないわよっ!!」


 騙してというのは多少言いすぎかもしれないが、理由を並び立てては俺を持ち帰って襲ってき事には変わりないだろ……。


「何にしろ、レイナを騙してないのなら良かった。完全ではないが、少しはお前のことを信用してやろう」


 今の会話のどこに信用してもらえる要素があったのか分からないが、まあ信用してくれるというのであればそれに越したことはない。


「ゴラルさん、なんかその言い方だとあたしがいつも騙されてるように聞こえるんですけど……!」


「いや、実際お前は騙されてるだろっ!言葉巧みな奴に使えもしないガラクタを高額で買わされそうになったり、困ってるからって高難易度の依頼を銅貨一枚で引き受けさせられそうになったり……!」


 そ、そんな事があったのか……。

 いや、騙されやすいタイプだろうなとは思ったがそこまでとは思わなかった……。


「そ……、そんな事もあったかもしれませんけど、全部あたしは見抜いていましたっ!!」


「それは俺たちが必死で止めたからだろっ!?止めなかったら今頃お前は奴隷行きだぞっ!!」


 デスヨネ〜……。

 流石にレイナの知り合いだけあって彼女のことをよく分かっているようだ。


 そんな彼もまたレイナ程ではないにしろ人がいいのだろう。


「奴隷行きって……!あたしはそこまで間抜けじゃないですよっ!?」


「いや、俺はレイナはそこまでの間抜けだと思っているぞ?」


「クロト酷い……っ!」


「クロトだったか、コイツは度を越したお人好しでかなり抜けたヤツだ。コイツと共に行動をしているのなら変なのに騙されないように気をつけてやってくれ」


「あ、ああ……。分かった……」


 ゴラルはそう言い、俺の肩へと太い両手を置いた。

 だが言えない……。レイナはもう既に怪しげな依頼を受けている途中だなんて……。


 その後ゴラルと別れた俺とレイナはマジックショップへと作ったアミュレットを少しだけ残して売ったのだった。

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