第038話 ただ死にたかっただけなのに……
もう最悪な気分。
折角死ねて良い気分だったのに、今の通知でテンションが急降下。
この2つの称号はなんとなく名前と状況から察することができる。多分『死の支配者』と『死に神』の上位互換。
だからこそ気持ちが萎えたんだけど……私が死ねるかどうかに大きくかかわる称号だし、説明を見ないわけにもいかないよね……。
「はぁ……」
私は今日何度目か分からないため息を吐いて、称号の説明を読む。
『死の創造主』から。
『死亡回数が500万回を初めて突破したプレイヤーに送られる称号(リアリティ設定が最大の場合5万回)。死亡すればするほど全能力が強化される(死の支配者よりもさらに強化率が上昇)。スキルのレベルアップと取得条件が緩和される(1/10)。あなたこそがこの世界の死を生み出していると言っても過言ではありません。しかし、私たちはこれ以上あなたが死ぬことは望みません。これ以上の称号はありません。もう死ぬ必要はないので、ぜひゲームをお楽しみください』
いや、"もう死ぬ必要はない"じゃないんだよねぇ。
そもそも私は称号を取りたくて死んでるわけじゃない。ただただ死にたいだけ。こんな称号放棄できるのなら、放棄してしまいたい。
こんなものがあるせいで私は耐性を一瞬で得てしまい、すぐにその死に方をできなくなってしまうんだから。
それに、この称号のせいで私が思っている以上に強くなっている節がある。人よりもちょっと死亡回数が多いので、レベルが1まで下がってもそれ以上に能力が強化されてそうなんだよね。
そうじゃなきゃ、耐性のない魔法が全然効かない、なんてことはないはず。ゴブリンなんて軽く殴っただけで弾け飛ぶし。それがさらに強化されてしまったら、私は今後ほぼ魔法で死ぬことはできないと思う。
はぁ……何してくれちゃってんだろ……。
次に『死(概念)』。
『リアリティ設定が最大の状態で死亡回数が5万回を初めて超えたプレイヤーに送られる称号。全ての精神攻撃を反射し、魔法攻撃も確率で反射する。どうやらあなたこそが"死"そのものだったようですね。これ以上何も言うことはありません』
いやいや、死ぬのは私だけでいいんだよ。他の人はいいの。なんで巻き込んでくれちゃうの? もう勘弁してください。
もうホントいっつもいっつもITOの運営は邪魔ばかり。イベントが終わったら、恨みの7部作が待ってるから覚悟しておいてほしい。
私が運営への怨念をドロドロに煮詰めていると、通知が鳴った。
『残り時間がわずかとなりました。全プレイヤーの位置を共有します』
その通知によってマップが表示され、他のプレイヤーさんの位置が表示される。
「ん?」
ただ、そのマップを見ると、不思議なことが。それは他のプレイヤーさんのほとんどが一カ所に集まっていること。
そこは荒野エリアだ。
もうほとんど死ねる可能性はないけど、それだけのプレイヤーさんが集まっているのなら行ってみる価値はあるかも。
私は一縷の望みをかけてその場所に向かった。
「~~!!」
「~~!!」
荒野にたどり着くと、数えられないくらい沢山のプレイヤーさんが集まっていた。
彼らの少し前にいたプレイヤーさん数人が、こっちを見ながら何かを叫んだあと、集団の中に戻っていく。
集団が隊列を整えるのが見えた。
もしかして私に報復するために集まってくれたのかな? それならぜひ殺してもらわないと。
私はゆっくり彼らの許に歩いていく。
「あっ!!」
数秒後、まるで小さな太陽みたいな火の玉が空に浮かび上がる。
あの火の玉は魔法使いさんが使っていたビックバンよりも遥かに強力な力を感じた。でも、私には炎熱耐性があるので効かない可能性が高いかも……。
ただ、あれだけ強そうな魔法なら炎熱耐性を突き抜ける可能性がないとも言えないし、反射さえされなければ死ねるかもしれない。
私はほんの少しだけ期待しながら彼らに近づいていった。
「~~っ!!」
キラキラした人が何かを叫ぶと、その炎の球が飛んできた。
私は手を広げて結果を待つ。
――キンッ
甲高い音が鳴ったと思ったら、炎の球は跳ね返って飛んでいった。しかも、どんどんどんどんその勢いと大きさを増していく。
そして、炎の球は集まっていたプレイヤーさんたちを直撃。
――ドォオオオオオオオオオンッ
ひときわ大きな爆発を引き起こし、キノコ雲が立ち上った。突風が吹いてきて私のローブがバサバサと激しい音を立てる。
キノコ雲が消えると、プレイヤーさんは誰一人いない。
淡い期待は脆くも崩れ去り、予想通りの結果がそこにはあった。
寒々とした風が吹く。
「はぁ……」
やっぱり、今回もダメだった……。
私は落胆しながら澄み切った青い空を見上げて呟いた。
「誰か私を殺して……」
当たり前だけど、その声に応える人は誰もいない。
――ビーッ
代わりにクラクションのような音と一緒に通知が応えた。
『制限時間となりました。第1回バトルロイヤル大会はこれにて終了となります』
初めてのイベントの終幕。結局、私は自分で死ぬことしかできず、非常にモヤモヤしたままだった。
視界が光に包まれると、一瞬にしてはじまりの街へと変わる。
フィーが、イベントが始まった時と同じように姿を現して話し始めた。
『さっきぶりなの!! フィーなの!! 今回のイベントはどうだったの? 楽しめたの? うんうん、それならよかったの!! それじゃあ、今回の上位三人のプレイヤーを発表するの!! 第三位…………クレア!! 第二位…………クラスト!! 第一位……え、これホントなの!? コホンッ、他のプレイヤーたちに圧倒的大差をつけてこの栄えある第1回バトルロイヤル大会の優勝に輝いたのは………………メイ!! なの!!』
「は?」
そして、衝撃の事実。
私が優勝? 意味が分からない。
ただ死にたかっただけなのに、いったいどうしてこうなった……。
意図しない結果に、私は呆然となるのであった。
◆ ◆ ◆
一方、イベント終了後の開発ルームでは、蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
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Infinite Tales Online~運営さん、ただ死にたいだけなのにシステムが全力で私の邪魔をしてくるんですが~ ミポリオン @miporion
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