第037話 冥様、狂気を見せつける

「はぁ……」


 しばらくすると、私の体は完全に回復してしまった。


『不死王のロンググローブが破損しました』

『不死王のブーツが破損しました』

『不死王のタイツが破損しました』


 だけど、手足に装備していた不死王のロンググローブとブーツ、そしてタイツが破損してしまっている。


 装備から外れ、アイテムボックスに入っていた。この辺りはゲームっぽい。


 後でノラに修理できるか聞いてみないと。


「体が軽い……」


 装備した時はあまり気にならなかったけど、呪いの効果はそれなりにあったみたい。


 セット装備の効果とブーツの『疲労』の状態異常がなくなっただけなのに、体中に着けていた重りを外したような気分。


 でも、せっかく弱体化していたのに、これで効果が半減してしまった。


 装備してても殺して貰えなかったのに……まさか自分がこんなに強くなってるなんて思わなかった。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」


 死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない死ねない――


 私はただ死にたいだけなのに、なんで邪魔するの!?


 運営への怒りが振りきれた私は、イベント中にもかかわらず、怨念を目一杯込めたメッセージを送りつける。


「ふぅ……」


 何度も送り続けていると、ようやく気持ちが落ち着いてきた。

 

「あっ」


 そこでふと閃く。


 そうだ、自殺すればいいじゃん、と。


 イベント中は特にアイテムの持ち込みの制限もされていなかった。当然私のアイテムボックスの中には、イベントのために用意した料理と、杭がたくさん入っている。


 杭は吸血鬼の弱点に指定されているおかげで耐性を貫通するのはすでに確認済み。


 殺して貰えないのなら自分で死ねばいい。


 そう思うと一気に気持ちが楽になった。


 しかもイベント中はデスペナルティ無しで復活できる。つまり、アイテムボックスの中身はなくならないので、いくらでも死ぬことができる。


 最初からこうしてればよかった。


 腹ごしらえも兼ねてデバフ料理を食べる。装備ほどじゃないけど、体が重くなるのを感じる。


 これで少しはマシだと思う。


 私は杭を逆手に持ち、自分の胸に思いきり突き刺した。


「ぐふっ」


 心臓から浸食が広がり、身体が滅んでいく感覚。


 私はその場に仰向けに倒れる。


 空が青い……。


 あぁ~、これこれ。私はこれを待ってた。痛みと恐怖と快感がせめぎ合う、死を前にしないと感じることができない興奮。


 やっぱり、最っ高っ!!


 体がビクンと跳ねた瞬間、意識が飛んだ。


「あはっ!!」


 目を覚ますと、全く別の場所。すぐに手に持った杭で再び自分の心臓を貫いた。


「あははっ!!」


 そして、また別の場所で復活。


「あはははっ!!」


 さらに自分の心臓を突き刺して、また別の場所で復活。


「うわぁっ、不死王インモータルだぁっ!! 逃げろっ!!」

「あははははっ!!」


 何度か死んでいると、他のプレイヤーに遭遇することもあった。


 何かよく分からないことを言われた気がするけど、私は無視して自殺する。


 バトルフィールドでは、蘇生を待つかどうかの選択がない分、復活までのラグが少ない。本当に一瞬で死んで一瞬で復活してくれる。


 これほど死ぬのに適した場所はない。いつも以上に死ぬのが捗る。


 あぁ、いつもこれならもっと楽なのに……。


『杭耐性を習得しました』


 しかし、幸せな時間は長くは続かない。


「はぁ……」


 イベント中も死亡回数はしっかり数えているらしく、杭にも耐性が付いてしまった。


 イベント中はデスペナルティもないし、カウントされないかな、と期待したけど甘かった。


 ここから死ぬまでにかかる労力と時間が格段に上がる。


 でも、死ねないわけじゃない分、断然マシ。


「そうだっ」


 私は閃いた。


 杭を地面に埋めてしっかりと固定し、近くにあった木に登る。


 リアルだったら登れないような真っすぐな木だけど、それほど苦も無く頂上まで辿りつけた。


 そこから私は飛んだ。


 そう。落下速度を乗せて杭に刺されれば、耐性があってもすぐに死ねるはず。


「がはっ」


 予想通り、杭は私の体をアッサリと貫いた。


 考えは間違っていなかった。それに自分で突き刺すよりも鮮烈で強烈。木に登らなければならないのがネックだけど、とっても気持ちがいい死だった。


 私は死ぬたびに復活した場所の近くに杭を突き刺し、木を登って死んでいく。木がないところでは近くの高い場所の下に杭を突き刺した。


 何度もそうしているうちにすでに杭がある場所の近くに復活することも増え、どんどん死ぬ効率が上がっていく。


『杭耐性のレベルが上がりました』


 だけど、当然耐性が上がるスピードも加速。高いところからの落下でも少しずつ死にづらくなっていった。 


 そしてまた、まるで一瞬のようにひと時の夢の時間は終わりを告げる。


『杭耐性がレベル上限に達しました。杭無効へと進化しました』


 あぁ、残り少ない弱点の内の1つがまた消えてしまった……悲しい。


 でも、仕方ない。また次の死に方を探そう。


 そう思っていた矢先、更なる絶望が私を待ち受けていた。


『死の創造主の称号を獲得しました』

『死(概念)の称号を獲得しました』


 それは称号の獲得を知らせる通知だった。



 ◆   ◆   ◆



 一方、メイが自殺をキメていた頃。


 バトルフィールド内のとある場所に参加者たちが集められていた。


 参加者の前で訴えかけるように話をするのは、攻略組のヒカルだ。


「皆聞いてくれ!! 今回のイベントはバトルロイヤルと銘打っているが、実はレイドボスバトルがメインのイベントだったようだ。メイというプレイヤー。あれは明らかにプレイヤーが勝てるような相手じゃない。おそらく運営がプレイヤーに紛れ込ませたボスモンスターだろう。そこでここに集まってもらったのは他でもない。メイを倒すために力を貸して欲しい」


 彼はメイがプレイヤーだという現実から目を背け、ボスとして扱うことにした。


 そして、1人で倒すことは到底不可能なため、プレイヤーに声を掛け、同士を募っているわけだ。


「悪いが、俺はパス。あいつはボスじゃない」

「私もよ」


 しかし、有力な戦力候補のクラストとクレアは早々に断った。二人を皮切りに断る者が続出。しかも戦力が高いプレイヤーが多かった。


 彼らに抜けられるのは痛い。しかし、これは命を懸けた戦いでもなければ、ヒカルは勇者でも王様でもなんでもない。ただの一介のプレイヤーだ。プレイヤーに無理強いすることなんてできない。


「そうですか、分かりました……」


 ヒカルは去っていくプレイヤーたちの背を見送った。


 そして、ため息を吐き、気持ちを切り替えて再び声を張りあげる。


「残ってくれた皆、ありがとう!! 絶対あのボスを倒そう!!」

『おぉおおおおおおおおっ!!』


 彼らはメイを倒すために動き始めた。

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