第036話 魔王が生まれた日
時は少し遡る。
ITO内の各街のイベント観戦会場。
空中にバカでかいモニターがいくつか浮かんでいて、バトルフィールド内を撮影するカメラの映像を映し出されている。
数多くのプレイヤーたちが画面に見入っていた。
「おぉ、始まったな」
「あっ、クラストさんだ!!」
「こっちにはクレアもいるな!!」
「アリエルもいるぞ!!」
「ヒカルだ!!」
優勝候補たちがモニターに映ると、プレイヤーたちが一層色めき立つ。
今までも現在のITO内で誰が最強なのか、という議論はずっとされてきた。
でも、実際にプレイヤー同士で戦うことはなかなかない。だから、今までその議論は平行線のまま終わっていた。
でも今回、このバトルロイヤルによって、その議論の一応の答えが出ることになる。プレイヤーたちの期待が高まるのも当然だった。
「あっ、クラストさんが他のプレイヤーと出くわしたぞ」
「すげぇな、あの剣技。どうやったらあんな動きができるんだ?」
「やっぱ、現実でも剣道とか格闘技とかやってんじゃねぇか?」
「確かに。ITOは現実での経験がかなり反映されてるもんな」
「クレアの火力もやっぱITO内一だよなぁ。不意打ちさえされなきゃ最初で決まる」
「だなぁ。接近戦が弱いのは仕方ないけどな」
「アリエルの召喚獣たちも可愛いけど強い。一人で物理攻撃も魔法もバフも回復もターゲット管理までできるとか頭おかしい」
「リアルに並列思考でもないと無理だよな」
「ヒカルも一時は誰かに出し抜かれて叩かれてたけど、やっぱり攻略組のトップを張るだけあって総合力が高いよな」
「そうだな。バランスが取れてる」
広場のプレイヤーたちは、イベント参加者が戦うのを見ながら和やかな雰囲気で語り合う。
自分たち以外のプレイヤーの戦闘を見ることはそう多くない。自分の参考になる部分を見出しながら映像を楽しんでいた。
「お、おい……あのプレイヤー見てみろよ」
「ん? どれだ?」
しかし、とある観客の一言で場の雰囲気が変わる。
彼が指し示すモニターに映し出されていたのは、明らかに普通じゃない装備のプレイヤー。
おどろおどろしいオーラとラスボスのような禍々しさを放つ、ゾッとするほどの美少女だった。
「な、なんだありゃ。なんで物理攻撃が効かないんだ? それになんで敵だったプレイヤーは死んだんだ?」
「分からん……あのプレイヤーは何もしてなかったと思うが……」
その美少女は、何もしてないのに敵の攻撃を無効化。それどころか何もしてないのに敵を倒してみせた。
だが、その直後にモニターの映像が切り替わってしまい、その後どうなったのかは分からない。
何かの見間違いだろうと、誰もがその時は思った。
「おいおい、どうなってんだよ……」
「なんであのプレイヤーに攻撃したら死ぬんだ? 呪いか?」
「そんな呪いあってたまるか。多分、反射スキルか何かだろ」
「そんなバカみたいな性能のスキルなんてあるのか?」
「知らん。だが、現に目の前に存在している」
しかし、その美少女が映し出されるたびにその対戦相手は攻撃した後に死んでいく。もう見間違いでは済まされない。
「あのプレイヤーは何者だ?」
「分からん。あんなプレイヤー見たことないし」
当然だが、次に気になるのは美少女の正体。だが、知る者は誰もいなかった。
そうこうしている内にその美少女は、他のプレイヤーを積極的に狩り始める。その誰も寄せ付けず、得体のしれない力でプレイヤーを蹂躙していく姿はまさにラスボスそのもの。
「魔王……」
誰もが息を飲んだ。
「おい皆、ランキングを見ろ!!」
「なんだ?」
「どうしたんだ?」
そこでプレイヤーの一人が気づく。
モニターとは別にランキングが表示されているウィンドウが空に浮かんでいる。そこには上位100人のプレイヤー名と獲得したポイントが表示されていた。
そのランキングを、聞いたことのない名前のプレイヤーが駆け上がっていく。
そのプレイヤーの名は……。
「メイ……それがあのプレイヤーの名前か……もしかしたら、あいつが勝っちまうんじゃねぇか?」
観客の一人がポツリと呟く。
彼がそう思うのも無理はない。それだけ冥のランキングの上昇スピードが圧倒的だったから。
「ま、まぁ、でもあのメイってプレイヤーもクラストには敵わねぇだろ」
「そ、そうよ、クレア様だって負けないわ」
「アリエルだって」
「ヒカルも強いしな」
他の観戦者たちはもしかしたらと思いつつも、自分の推しプレイヤーが負けるはずない、そう思っていた。
しかし、その淡い幻想は打ち砕かれてしまう。
「クラストが負けた……だと!?」
「クレア様の魔法が効かなかったというの!?」
「そんなバカな……」
誰もがメイに挑み、敗北してしまった。
その後に繰り広げられたのはまさに蹂躙。メイは何十人で襲い掛かっても物ともせずに勝利していった。
あまりに一方的な展開に会場はシーンと静まり返る。
「あはははっ……あれはプレイヤーに見せかけたレイドボスだ。運営も人が悪いな」
「た、確かに……あんなに強いプレイヤーなんているわけないもんな」
「そ、そうそう。実はバトルロイヤルじゃなくてあのボスを倒すイベントだったんだよ」
そして、彼らは現実から目を背けた。
また、目を背けたのは彼らだけではなかった。
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