第029話 神様の思し召し
「あはっ」
目を覚ますと宿屋の天井が目に入った。
死ねた……。
死ねた……。
死ねたぁああああああああっ!!
私は起きてベッドの上で何度も飛び跳ねる。
まさか自分の体が鍵になるとは思わなかった。
「ふっふっふっ」
普通なら自分の体を構成している毒が自分に効くはずない。でも、だからこそ自分自身に使うのは想定外だったってことかな?
「あーはっはっはっ!!」
一時はどうなることかと思ったけど、この勝負は私の勝ちみたい。残念だったね、システム君。
これで思う存分死ねる。
私は詳しい条件を探るため、様々な条件で検証を行っていく。その結果、毒の耐性を貫通させるためには、毒料理の中に私の体を素材として加えなきゃいけないことが分かった。
単純に私の血を飲むだけでは無効。それが毒料理に混ざることで、なんらかの反応を引き起こし、貫通する効果が付くらしい。
不思議。
私は自分の血液を使って、毒耐性を無効化する料理を作りまくった。
――ピピピピピピピッ
その途中でアラームが鳴り、ログアウト。
いつも通りに処理をして非常に穏やかな気持ちで眠りについた。
翌日。
「おはよ。今日はまるで長年ため込んでいた便秘が解消されたみたいな、清々しい顔してるね。何かあった?」
いつも通りのつもりなのに、やっぱり晴愛ママに隠し事はできない。
「運営に勝った」
「ん? どういうこと?」
私は昨日の出来事を話した。
「なるほどね。道理で冥が自信満々なわけだ。確かにしてやったりって感じだね」
「でしょ」
運営もさぞかし悔しがってるに違いない。
私は心の中でほくそ笑む。
「でもさ、本当にそうかな?」
「え?」
ポツリと呟いた晴愛の言葉に、私は思わず彼女の方を向いた。
「今までのことを考えてみてよ。全部耐性ついてるじゃん。今回も同じじゃない?」
「そんなこと――」
ないとは言えない。
寝耳に水とはこのこと。確かに晴愛の話も一理ある。私はあまりの嬉しさにその可能性を見逃してしまったみたい。
晴愛に言われなかったら、また浮かれたまま新しい耐性を手に入れて、怒り狂っていたと思う。
本当にほくそ笑んでいたのはシステムだった。危ない、危ない。また掌の上で転がされるところだった。
ふぅ……。
私は気持ちを落ち着かせた。
いつもながら感謝しかない。
「ありがと、ママ」
「はぁ、もう何でもいいよ…………そういえば、冥はイベントには参加するの?」
晴愛から公認の許可が下りた。やっぱり私に甘い。
「イベント?」
「前から通知来てたでしょ。明日オープンして最初のイベントが開催されるって」
毎日ログインしてるけど、そんな話は聞いてない。
一体いつの間に……そういえば、死んでばかりで通知なんて見てなかったな。
「気づかなかった。でも、死ぬのに忙しいから出ない」
だからと言って興味があるのかと聞かれれば、特に興味はない。私には初イベントなんかよりも死ぬ方が大事。
そんな風に考えていると晴愛が意味ありげな笑みを浮かべた。
「相変わらず一直線なんだから。でも、そんなこと言っていいの?」
「何が?」
「今回のイベントの詳細を知らないんでしょ? 聞かないと後悔するかもよ?」
「内容は?」
話を聞いていると、内容が気になってくる。
「えぇ~、どうしよっかなぁ」
「いい。自分で調べる」
焦らす晴愛のドヤ顔がイラっとするので、私は端末を起動させた。
「あぁっ!? 待ってよ、言うから!!」
「最初から言えばいいのに」
「えへへっ、ごめんごめんっ」
「それで、どんなイベント?」
私は端末を終了させて尋ねる。
「初めてのイベントはバトルロイヤルなんだよ?」
「え……」
バトルロイヤル。
一度に沢山のプレイヤー同士が参加し、最後の1人になるまで戦い続けることを目的としたゲームだ。
それはつまり、運営公認で殺し合いができるってこと。
ということは、参加さえすれば、沢山のプレイヤーが何もしなくても私を殺しに来てくれるわけだ。
確かに参加していなかったら後悔してたに違いない。こういう情報を見逃さないためにも、たまには通知を確認しておく必要がありそう。
「どう? 興味ある?」
「ある」
さらに、詳しく話を聞くと、今回は規制を設けることなく、自由に参加できるらしい。
簡単に言えば、めちゃくちゃ強いプレイヤーとめちゃくちゃ弱いプレイヤーが同じ戦場で戦えるってこと。
しかも、魔法もアイテムもなんでも使っていいみたい。まさになんでもあり。
最前線を攻略している強いプレイヤーたちなら、私が耐性を持っていない攻撃やスキルを使って沢山殺してくれるはず。
「それで、冥は参加するの?」
「当然」
「まぁ、そうだよね」
参加しない理由はない。
今からワクワクが止まらない。ただ今回のイベントはPKさんだけは参加不可らしい。PKさんたちなら私をいっぱい殺してくれると思っていただけに残念で仕方ない。
PKさんたちに殺されるのはまたの機会になりそう。
「帰っていい?」
「ダメに決まってるでしょ。馬鹿言ってないで学校いくよ」
気持ちが昂って帰りたくなったけど、晴愛に引きずられて学校へと向かった。
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