第028話 冥様は諦めない

 なんで……なんで……なんでこんなスキルが存在するの!?


 改めて説明を読むと『毒無効を弱体化してしまうデバフ効果に対して耐性を得る』と記載されていた。


 毒ロの指輪ちゃんの効果を完全に打ち消してしまっている。


 うぎぎぎっ……おかげでまた毒死ができなくなった。ノラのおかげで折角死ねるようになったのに……運営絶対許さない!!


「あぁあああああああああっ!!」


 もう取り繕うのも止めて運営に怒りのメッセージを送り付けた。


 今回は上中下の三部作。今の私の怒りを全て詰め込んだ超大作だ。これで少しは運営も考えてくれるかもしれない。


「はぁ……はぁ……はぁ……すぅ~はぁ~」


 私は深呼吸して気持ちを落ち着けた。


 運営は本当にいつもいつも余計なことしかしない。


 毒死は諦めて他の死に方するしかないのかな……。


 でも、ここで諦めるのは、運営に負けたみたいでいやだ。死を追い求める乙女としての名が廃る。毒無効をどうにかしたい。


 呪いの装備しかり、生産には可能性がある。調合で毒薬を作ったり、毒料理を作ればなんとかなるかもしれない。


 せっかく料理が作れるようになったし、毒を使った料理を研究してみよう。


 森には豊富な毒を含んだ食材が豊富だ。


「これだけあればいいかな」


 私はアイテムボックスがいっぱいになるまで毒物を採取した。


 市場で買い出しを行い、生産者ギルドの作業室を借りて、普通の料理に毒食材を混ぜたものを作ってみる。


「失敗した……」


 これでも料理のスキルレベルは相応に上がっている。それなのに失敗するなんて思わなかった。


 どうやら毒料理は調理レベルが高いらしい。

 

 それでもあきらめずに料理を作り続けていると、レベルがさらに上がって料理が成功するようになった。


 最初に成功したのは『体内が焼け爛れる麻婆豆腐』。


『見た目は普通に美味しそうな麻婆豆腐。しかし、その実態は食べた瞬間、体内を溶かす劇物。毒耐性がない者が食べた場合、一瞬で死に至る』と説明されている。


 これはなかなかヤバい。期待できそう。


 早速食べてみる。


「体の中から温まって美味しい。次」


 でも、私にとってはただ美味しくて、体がポカポカする麻婆豆腐でしかなかった。


 くっ、毒耐性がなかったら、今頃素晴らしい死を迎えられたかもしれないのに……もっと早く気づくべきだった……悔しい。

 

 次に完成したのは『神経から痺れるスパイシーきのこパスタ』。


『刺激的な匂いが香る毒キノコ尽くしのボンゴレ風のパスタ。毒耐性がない者が食べた場合、呼吸困難に陥って死ぬ』と記載されている。


「ピリリとして美味しい」


 だけど、これも私には意味をなさず、非常に美味しいパスタへとなり下がった。


 絶対気持ちよく死ねたのに……うぎぎぎっ。


 次にできたのは『健康に良いデス汁』。


『野菜とデスグラスを磨り潰して煮詰めるを繰り返して出来た濃縮液。一口飲んだだけで死ぬ』らしい。健康とはこれいかに。


 私はデス汁を一気に飲みほした。


「うーん、マズい。もう一杯……はいらない」


 ただただ、青臭さを煮詰めただけの液体だった。不味さだけなら即死級。多分ただのデスグラスよりも何も感じることなく死ねたと思う。


 どうせなら味わってみたかった……。


 そして、四番目に作れたのは『天死のアップルパイ』


『まるで、教会で天使に連れられて、犬と共に天界に召されてしまいそうなほど美味しいアップルパイ。味わうのに必要な対価はあなたの命。あなたにその覚悟はあるか』と記載されていた。


 焼いたことで凝縮されたリンゴの甘みとサクサクとしたパイの塩味がこれ以上ないくらいマッチしてる。


「おいっしっ」


 こんなに美味しいアップルパイは、今まで一度も食べたことがない。


 そのまま食べた時も美味しかったけど、このアップルパイはそれを遥かに凌ぐ。


 とにかく美味すぎて美味かった。まさに説明文に恥じない味。でも、他の部分は誇大表記すぎる。私は死ねなかった。


 他にも沢山料理を作ったけど、そのどれも私には効果のない物ばかり。


 そこで今度は毒食材だけで料理を作ってみることに。


 まずできたのは『殺人鍋』。


『毒キノコと毒草、そして毒の樹液によって作られたごった煮。凶悪すぎて耐性をもっている者でも命の危険がある』とのこと。


 耐性持っていても命の危険があるなんて最高すぎる。


 とりあえず食べてみた。


「ただただマズい……」


 でも、ダメージもないし、死にもしない。やはり耐性と言っても、無効になるレベルになると意味がないらしい。


 味付けもしてみたけど、素材の味が強すぎてほぼ意味をなしてない。食材がもつ苦みとえぐみが強すぎて食べられたものじゃなかった。


 次に作ったのは『デス果汁100%ドリンク』。

 

『毒性の強い果物をすりおろして作ったジュース。これを飲んだものは幸せな一生の夢を見ながら死ぬことができるだろう。それはある意味幸福なのかもしれない』などと書いてある。


「うまっ」


 確かに記載通り、とんでもなく美味しかった。常飲したいくらいに。


 でもやっぱり期待通りの効果は得られなかった。

 

「うーん……」


 これまでに手に入れられる素材で作れるものはもう作りつくしてしまった。


 これ以上は新しい場所に行って毒アイテムを探すしかないか…………いや、待てよ? そういえば、試していない素材がある。


 私は街を回り、先が鋭利に尖った杭を購入。作業室に戻ってくるなり、腕に突き刺した。


 杭は吸血鬼の弱点の1つ。耐性を無視して体を貫く。


「ぐぅ……」


 ダラダラと流れ出る私の血液。


 その血液を容器に溜めていく。


 そう、まだ試していなかったのは私の体。私の体は隅から隅まで毒になってる。しかもシークレットボスを倒してしまうほど強力な。


 勿論、私自身の体の毒が私自身に効くとは思えない。でも、試してみる価値はある。


 私は溜まった血液をジュースに混ぜた。


 自分の血を飲むことに抵抗がないと言ったら嘘になる。だけど、死を前にしたら気にするほどのことじゃない。


 アイテム名が『デス果汁100%ドリンク』から『100%デスドリンク』へと変更。


 説明文は『このジュースを飲んだものは死ぬ。何人であろうとも。耐性など無意味』と記載されている。


 ""


 この文が私の期待度を上げた。


 心臓の脈打つ音が早くなるのを感じる。


 ――ゴクゴクゴクッ


 ワクワクした気持ちが抑えきれず、私は一気にジュースを流し込んだ。


「うまぁああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」


 美味さを感じた直後、目の前に天使が現れ、私を天へと連れていってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る