第027話 冥様は発狂した
「どこにいるかな……」
はじまりの森にやってきた私。
ゲームの開始地点を復活場所として上書きすると、お目当ての存在を探して森の中を歩いていく。
数分程で簡単に対象を発見。
「ゴブゴブッ」
私が求めていたのは、ゴブリンさんだ。
ゴブリンさんは辺りをキョロキョロと見回している。その手にはこん棒を握られていた。
私は特に姿を隠すことなくゴブリンさんに近づいていく。
「ゴブゥウウッ!!」
ゴブリンさんは私を見るなり威嚇しながらこん棒を構えた。
「ゴブァアッ!!」
それでも構わずに距離を狭めると、ゴブリンさんはこん棒を私めがけて振り下ろす。
――ガキンッ
見えないバリアのようなものに阻まれ、こん棒が跳ね返された。打撃無効の効果だ。
「ゴブッ!?」
ゴブリンさんは事態を理解できず、混乱する。
「離して」
「ゴブブッ!?」
私は狼狽えているゴブリンの腕を掴み、こん棒をもぎ取った。
そして、アイテムボックスから取り出したの銀のナイフ。これは森に来る前に購入してきたもの。
「掴んで」
銀のナイフをゴブリンさんの手に握らせる。
「ゴブッ」
でも、ゴブリンさんは銀のナイフを捨てて、そのまま私に襲い掛かってくる。
「捨てちゃダメ」
私はほんの少しだけ力を入れて拳骨を落とした。
「ゴ――」
――パァンッ
「……」
拳が頭を捉えた瞬間、ゴブリンさんの頭が弾け飛んでしまった。
辺りに微妙な空気が漂う。
『ゴブリンを討伐しました』
そして、通知だけが虚しく響き渡った。
上がった分のレベルは死にまくったおかげで下がってる。
ということは、多分いくつかの称号の効果が重複してるせいで、能力が相当上がっているんだと思う。次からは力加減に気を付けよう。
――パァンッ
――パァンッ
――パァンッ
――パァンッ
――パァンッ
「うーん」
でも、何度もゴブリンの頭や体を破裂させてしまった。
中々難しい。
「ゴゴブ」
「ゴッブッ」
次に出逢ったゴブリンさんは複数だ。
――パァンッ
これまでと同じように教えていたら、一匹の頭を吹き飛ばしてしまった。ただ、その途端、もう一匹のゴブリンさんがとても従順に。
これは使える。
そう思った私は、ゴブリンさんを一度に沢山集めて教えることに。
――パァンッ
集めるだけ集めた後、まず1匹のゴブリンの頭を吹っ飛ばした。そして、大人しくなったゴブリンさんに身振り手振りで行動を教え込む。
根気よく続けてようやく、ゴブリンさんに銀のナイフを握らせることに成功した。
ふぅ……ここまで長かった。
「いい? 私が近づいたらナイフを振るの」
「ゴブゥ?」
「こう。分かった?」
「ゴ、ゴブゥ……」
ゴブリンさんは身振り手振りでもなかなか理解してくれない。
そこで、ゴブリンさんの後ろに回り、手取り足取り自分が来た時の対応を教え込む。
でも、ゴブリンさんは強制されるのが嫌だったのか、抵抗し始めた。
「暴れちゃダメ」
「ゴ、ゴブッ!?」
――ブチィッ
体を押さえつけたら腕がちぎれる。
失敗、失敗。
「ちゃんと覚える」
「ゴ、ゴブゥ」
『ゴブゥッ』
しっかりと顔を見つめて笑うと、ゴブリンさんたちはおとなしくなった。
笑顔って大事。ゴブリンさんが怯えているような気がするのは気のせいだよね。
それから幾度もの失敗を経て、ようやく10匹以上のゴブリンさんを上手く調教できた。
これで、特定の行動をした場合、私に向かってナイフを振り下ろしてくれる。
『調教スキルを習得しました』
『自力で調教せし者の称号を獲得しました』
『恐怖政治の称号を獲得しました』
その結果、スキルと称号を手に入れてしまった。
でも、それは些細なこと。今は準備が整ったことのほうがとっても重要だ。
私は復活場所で手を上げて、振り下ろした。
その瞬間、周りを囲んでいたゴブリンさんたちが一斉に私に銀のナイフを突き刺す。
『ゴブゥッ!!』
「ぐぅ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
銀のナイフは抵抗なく、私の体に吸い込まれていく。
そして、私は十カ所以上の場所から体の内側から蝕まれていくような痛みを感じた後、意識を失った。
「はっ!?」
『ゴブゥッ!?』
私はその場で復活。
「あはぁっ……」
最っ高っ……。
目の前で死んだはずの私がすぐに復活したせいで、ゴブリンたちが困惑している。
『ゴブゥッ!!』
でも、手を上げて振り下ろすと、指示通り私に銀のナイフを突き刺した。
完成した楽々死亡システム。
私は復活するたびにゴブリンさんに刺し殺された。
『銀耐性を習得しました』
暫くすると、耐性を獲得。
でも、一斉に10匹以上のゴブリンさんに刺されているせいか、耐性を物ともせずに私は死ぬことができた。
『銀耐性のレベルが上限に達しました。銀無効へと進化しました』
その結果、無効になるまで苦労することなく死に続けることができた。
甘くてとろけるような時間だった。
「解散」
『ゴブゥ……』
ここまで付き合ってくれたゴブリンさんを解放しようとすると、なぜか一匹たりとも離れていこうとしない。
まるで『ゴブリンが仲間になりたそうにこっちを見ている。仲間にしますか?』というウィンドウでも表示されているみたい。
だけど、どこにもそんなウィンドウはない。
はぁ……しょうがない。
「ついてきて」
『ゴブゥッ!!』
身振り手振りで呼び寄せると、ゴブリンさんたちは嬉しそうな顔で後をついてくる。
私はゴブリンさんたちをおじいさんのお墓に連れてきた。
内部機構は主の私が完全に掌握しているので、ゴブリンさんたちに危害を加えないように調整。
「この中で留守番してて」
『ゴブッ!!』
墓の中でゴブリンさんたちを飼うことにした。
私はゴブリンと別れて森の中を歩く。折角森に来たので、デスグラスで死ぬためだ。
デスグラスを見つける度に私は死んだ。
あぁ、毒死もやっぱり気持ちいいっ!! 一度は耐性によって死ねなくなったけど、また毒死できるようになって本当に良かった!!
私は再び甘受できるようになった毒死に酔いしれていた。
でも、夢の時間が長く続くことはなかった。
頭の中に通知音がなる。
『毒無効弱体化耐性を習得しました』
それは悪夢のようなスキル習得の知らせ。
私はデスグラスを食べても死ねなかった。
あぁあああああああああああっ!!
「●☆×▲彡%&$#*?¥&&#”!!」
私は怒りが限界を突破して言葉にならない叫びを上げていた。
◆ ◆ ◆
「お疲れっす、先輩」
「お疲れ~。おっ、ありがとな」
開発室で山岸に後輩がコーヒーを手渡した。
山岸はコーヒーを一口
「いやぁ、この前は驚きましたね。あのプレイヤーには」
「あぁ、メイのことか」
最近開発者たちの間で話題に上るのは冥のこと。
耐性の発見や隠しダンジョンなどをクリアした冥は、開発者たちの記憶に深く刻み込まれていた。
あの日以来、次は何をしでかすのか、と、ことあるごとに話題になっている。
「はい。まさか公開して僅かの期間にあの隠し要素を見つけるとは思いませんでした」
「俺も完全に予想外だったよ」
山岸は後輩の言葉に肩を竦めた。
「ですよねぇ。あのプレイヤーには脱帽です」
「そうだな」
「でも、流石にあの鬼畜な隠し要素は見つけらんないっすよねぇ」
後輩は好戦的な笑みを浮かべる。
「無効弱体化耐性スキルのことか?」
「そうです。あれは無効になった耐性を、呪いの装備で弱体化させた状態で、再び同じだけ死なないと手に入れられない隠しスキル。絶対手に入れられないっすよ」
呪いの装備は浄化しないと外せない。
浄化にはそれなりのお金か、高位の聖職者系のプレイヤーが必要になる。その上、弱体効果がついているため、死にやすくなってしまう。
そんな装備を好き好んでつけるプレイヤーはいない。
それに、呪いの装備は中々発見できるものじゃないし、発見されても弱体効果ばかりなので捨てられてしまうことが多い。
そして、わざわざ呪いの装備を作る物好きなプレイヤーはほとんどいない。
こんな状況下で、冥が呪いの装備にたどり着き、無効スキルを弱体化させ、再び同じくらい死ぬまでには相応の時間がかかるはずだ。
「まぁ、あのメイでもすぐには見つけられないだろ」
「ですよねぇ」
二人はお互いにほくそ笑んだのであった。
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