第026話 システム君のさりげない気遣い
『塩耐性のレベルが上限に達しました。塩無効へと進化しました』
『大蒜耐性のレベルが上限に達しました。大蒜無効へと進化しました』
調理と実食を繰り返していたら、無効を獲得。
弱点を複数組み合わせると、耐性を持っていてもすぐに死ねた。そのおかげで死ぬスピードが下がらずに済んだ。
それに、作った料理はどれも良い仕上がり。美味しさを噛みしめながら逝けたのは、控えめに言って最高の時間だった。
儚い夢のようにすぐに終わっちゃったけどね…………とほほっ。
ただ、両方の耐性が上限になって無効スキルに進化した瞬間、組み合わせても効果がなくなったのは不思議だった。
仕様だと言われればしょうがないので、次の死に方を模索する。
まだ試していないのは銀と聖水辺りかな。
教会に近づいた時に襲ってくる不快感は、死ねなくて辛いだけなので嫌い。だから、先に銀製のアイテムで死ぬことにしよう。
ファンタジー世界で銀と言えば、銀の剣がよく出てくる。耐性があるのでダメージを受けるか分からないけど、鍛冶屋に向かった。
「銀製の武器が欲しいだぁ!?」
要望を聞いた瞬間、店主のドワーフが私を睨みつけた。
「はい」
ドワーフは、お馴染みの樽のような体躯に、モジャモジャの髭を生やした頑固おやじみたいな見た目の種族。
鍛冶や大工、それに装飾品の細工など、手先の器用さが求められる作業を得意としている。
私よりも身長は低いのに、威圧感が半端じゃない。腕や足が太く、筋骨隆々で、肉がギュッと凝縮しているせいだと思う。
「銀っていうのはなぁ、柔らかくて武器には向いてねぇ。だから、儀式や式典用の祭剣くらいしかねぇんだよ。勿論ある程度の切れ味はあるがな? だが、鉄の方がよっぽど切れらぁ」
そうは言うけど、他の武器じゃ意味がない。だって、斬ったり、突いたりではもう私にダメージを与えられないから。
でも、銀の剣なら手に持つだけで効果があるはず。
「それでも、銀の武器がいいんです」
「はぁ……分かった分かった。ちょっと待ってろ」
折れる気がないと察したのか、ドワーフの店主は店の奥から銀色の剣を持ってきてカウンターの上に置いた。
とてもきれいな装飾が施されていて、祭剣と言っていた意味がよく分かる。ファンタジーの貴族とかが持ってそうな雰囲気。
「ほらよ、銀の剣だ。これでいいか?」
「はい、ありがとうございます」
「でも、これ高いぞ?」
銀の剣は銀で造られている上に、装飾品も派手なため、かなり良い値段だった。
「……大丈夫です」
ちょっと高いけど、背に腹は代えられない。
触らないように取引画面で銀の剣を購入し、宿に戻った。
私はアイテムボックスから銀の剣を取り出す。
「ぐぅっ」
手に持った瞬間、にんにくと同じように激痛が走った。でも、このくらいの痛みなら大分慣れてきた。
検証のため、銀の剣で自分の腕を刺してみる。
――ズブッ
剣は抵抗なく腕に吸い込まれた。
「うっ」
本来なら刺突無効スキルが発動して刺さらないはず。でも、刺さった。これは嬉しい誤算。
銀なら無効スキルを無視して私にダメージを与えられるってことだからね。
私は早速両手で銀の剣を逆手に持ち、自分の胸を思い切り突き刺した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
刺された部分から痛みが全身に広がった直後、意識を失った。
「はっ!?」
目を覚ますとベッドの上。
銀で死ぬのは、細胞が何かに浸食を受けて、内側から壊されていくような感覚だった。
今までに感じたことのない死に方で、非常にグッド。どんどん死んでいこう。
「あれ?」
そう思った矢先、銀の剣を探したけど、どこにも見当たらない。アイテムボックスの中にも客室の中にもない。
これは……もしかして……。
「ロスト……した?」
ここに来てデスペナルティでショックを受けるなんて思わなかった。
「あぁあああああっ!!」
あんなに高かったのに……!!
ロストしたのもシステムが邪魔してるに違いない。
――ピピピピピピピッ
私が愕然としていると、寝る時間を知らせるタイマーが鳴った。
私はログアウトして、意気消沈したまま就寝した。
「今日は昨日と違ってお通夜みたいじゃない。どうしたの?」
翌日、晴愛が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「銀の剣ロストした……」
「なんだ、そんなことか」
晴愛はゲームの話で安心したのか、安心した表情を見せる。
全く他人事だと思って……。
「そんなことじゃない。銀の剣高い」
「私を放って一人で遊んでる罰だよ。それにしても、冥が武器なんて珍しいね」
「吸血鬼の弱点だから」
私は昨日のゲームでの出来事を説明した。
「なるほどね。銀の剣で死んだけど、自分で自分を刺すのはやりづらいし、ロストしてしまう、と」
「うん」
銀の剣での死亡方法に2つのネックがある。
やりづらさとロストの可能性だ。それをクリアしないと死ぬのが大変。
「じゃあ、誰かに剣を渡して殺してもらえば?」
「それは相手に申し訳ない」
「それもそっか」
他のプレイヤーに殺してもらったら、そのプレイヤーはプレイヤーキラー、通称PKとして様々なデメリットを受ける。
それに、元々プレイヤーを殺しているPKじゃないと、プレイヤーを殺すのはハードルが高いと思う。
現実に近いこの世界だと特に。
流石に自分の欲を満たすために、他のプレイヤーが苦しんだり、損をしたりするのは嫌。
「あっ」
ただ、晴愛の話を聞いていて、とある存在が閃いた。
ゲーム内には理想の存在がいるじゃない。
私は大きく口端を吊り上げた。
「あぁ~!! それは何か思いついた顔ね? 何、私にも教えてよ!!」
私の顔を見ていた晴愛が抱き着いてくる。
仕方ないので、説明しながら学校に向かった。
そして、家に帰ってきた後、ゲームにログイン。
街の外へと向かった。
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