第025話 天にも昇る気持ち
「はぁ……っ」
目を覚ますと、私はベッドの上に寝かされていた。
どうやら宿屋で復活する時はそういう仕様らしい。
塩による死は、身体を炙られているような激痛とともに、身体が消失していく。
やっぱり吸血鬼の弱点で死ぬのは格別。
思い出すと、体がゾクゾクと震えて止まらなくなる。
もっと死にたい。
お風呂場に行くと、前に使った塩と袋が残っていた。
使いまわしできるなんて最高。
生産者ギルドでお金を下ろし、塩を買い足して湯船に追加。お風呂に溜まった塩の中にダイブした。
「ぎゃああああああっ!!」
私は塩に触れた部分から体が燃えるように消えていって死んだ。
「ぎゃああああああっ!!」
死んだ。
「ぎゃああああああっ!!」
死んだ
『塩耐性を習得しました』
そして、すぐに耐性を手に入れてしまった。
まだそんなに死んでないのになぁ……称号を手に入れてからは本当に一瞬。それに、耐性を手に入れてしまうと、もう一瞬じゃ死ねない。
『塩耐性のレベルが上がりました』
レベル上昇によってそれがより顕著になる。体が消失していくスピードが大分遅くなってしまった。
そこで今度はニンニクにチェンジ。市場に行って袋一杯のニンニクを買ってきた。
「うっ」
ニンニクは匂いだけでも私にダメージを与えてくる。リアルでは匂い自体は好きなはずなのに、ゲーム内では物凄く体調が悪くなった。
でも、今まで数々の苦しみを経験してきた私にはどうってことない。
「ぐぅ……」
ニンニクを手に持つと、持っているだけで手に激しい痛みが走った。高速再生のせいで爛れと回復を繰り返している。
痛みを堪えながら一個分の皮を剥いて一度に口の中に放り込む。
その瞬間、激辛チャレンジメニューの料理を食べたみたいに、痛みと熱さを感じて口が閉じられなくなった。
激辛料理と違うのは、実際に体にダメージを与えること。体の内側に真っ赤に加熱された金属を放り込まれたみたいな感じ。
ニンニクが触れている部分が焼け爛れていくのが分かる。
このままじゃ口の下に穴が開くと思い、私は気力を振り絞ってにんにくをひと思いに飲みこんだ。
ニンニクは食道から胃の中まで焼いていき、更なる激痛が体を襲った。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛」
ニンニクに触れていた部分が爛れて身体に穴を開けていく。
立っていられなくなった私はその場に倒れ、意識が途絶えた。
「はっ!?」
そして、再び目を覚ます。
「うふっ」
ニンニクも悪くない。
それに、塩と同じように、外に出していたニンニクは消えてなかった。
私はすぐに残っているニンニクを食べて次々死に始める。
『
当然、耐性を習得。これでニンニクの方も一瞬では死ねなくなった。
「あっ、そうだ」
私はふと閃く。
ニンニクと塩を両方を同時に摂取したらどうなるのか、と。
ただ、ニンニクをそのまま食べるのはもう飽きた。そこで私は料理に挑戦することに。
図らずもフィールドボスを倒したおかげで懐が温かい。私は再び生産者ギルドでお金を下ろし、街を回って一通りの調理器を買った。
塩とニンニクを使う料理を思い浮かべながら食材も購入。これで準備は万端だ。
「すみません、作業室を借りたいんですが」
「かしこまりました」
生産ギルドの作業室にはコンロもついてる。早速、料理を作っていく。
「あっ」
でも、思った以上に料理の成功判定がシビア。簡単な豚のにんにく塩焼きから作っているのに、すぐに焦げた塩焼きになってしまう。
当然レベルが低いのもあると思う。だけど、普段料理をしている人間としては、シンプルな料理を失敗してしまうなんてプライドが許さない。
私の料理魂に火がついた。
何度も何度も焼いては焦がすを繰り返す。
『料理のレベルが上がりました』
何度か繰り返すと、料理のレベルが上がった。
「おっ」
レベルアップは劇的な変化を引き起こす。
『ボア肉のにんにく塩焼き』
料理が成功して、アイテムとして登録された。
なんだかレベルアップに助けられたみたいで嫌だけどしょうがない。
それから、ペペロンチーノ、アヒージョ、ステーキ、にんにくの塩漬けなどなど、沢山の料理を作った。
その過程で料理のスキルレベルもどんどん上がる。そのおかげで失敗が少なくなり、最後にはほとんど失敗しなくなった。
「ふぅ……」
最終的に、作業室には数百人は食べられそうな量の料理が出来上がった。その全てを収納し、調理器具を倉庫に預けて再び宿に戻る。
客室で料理を広げた。
VRの世界だけあって、客室は広く造られている。それでも、作った料理で埋め尽くされてしまった。
凄まじいニンニク臭が部屋全体に漂う。でも、耐性が上がった私にはもうダメージはない。
ただ、これだけ臭いと近隣から苦情が来るかも。一応、客室は完全に隔離された空間になっていて、外に影響はないと聞いた気がするけど……。
もしかしたら、匂いが漏れるかもしれない。速やかに死のう。
私は大好きなペペロンチーノから食べた。
「あ゛は゛は゛は゛は゛は゛は゛っ゛」
口いっぱいにうま味に広がったと思った瞬間、私は天国へと飛んで行った。
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