第030話 イベントを楽しむためにできること

 学校から帰ってきた私は雑事を全て済ませてからゲームにログイン。明日のバトルロイヤルに向けての準備を始める。


 せっかく参加するんだから精一杯。そのためにできることをやらなきゃ。


 私は、はじまりの森、ダイス渓谷などの街の近隣を巡って沢山の素材を集めた後、生産者ギルドへ。


「あ、メイさん、ごきげんよう」

「ん、ノラ、ごきげんよう」


 そこでノラとばったり会った。数日ぶりだけど、相変わらず隠しきれないお嬢様オーラを纏っている。


「今日はどうされたんですか?」

「明日の準備」

「あぁ、イベントの」


 呪いのアイテムしか興味なさそうだけど、ノラもちゃんと知ってたみたい。


「うん。ノラは出ないの?」

「私は生産職なので見送ろうかな、と。荒事は得意でもありませんし」


 渡りに船。用があったのでちょうどいい。


「じゃあ、暇?」

「そうですね、暇と言えば暇でしょうか。スキルレベルを上げようかと思っていました。もっと色んな呪いのアイテムちゃんたちを作りたいので……ふへへっ」


 呪いのアイテムの話をし出すと、だらしのない顔になるのも相変わらずだ。


 欲望に正直なのはいいこと。


 そして、今回はノラの大好きな呪いのアイテムに関する話だから興味は持ってくれるはず。

 

「そう。頼みごとがある」

「頼み事……ですか?」


 きょとんとした表情になるノラ。


「うん。ちょっと付き合って」

「分かりました」


 私はノラを連れて倉庫へ向かう。


「作れる呪いの装備の種類は増えた?」


 そう。実は私がノラを探していたのは新しい呪いの装備を作ってもらうため。


 だって、できるだけ弱体化してイベントに参加したいから。弱体化すればするほど殺してもらえるかもしれないんだから、やらない手はない。


「そうですね、ここ数日ずっとアイテムを作っていたおかげでスキルレベルが上がったので、前回より作れる幅が広がりました」


 これは期待できそう。


「明日までに倉庫にあるアイテムを使っていいから全身の装備を作って欲しい」

「全身ですか!?」

「無理?」


 装飾品はそれほど時間が掛からなかった。


 でも、やっぱり全身ともなるとそうはいかないのかな。それなら装飾品だけでも作ってもらいたいけど……。


「何をおっしゃいますか!! 余裕です。お任せください、ふへへっ」


 諦めようと思っていたら、それは私の杞憂だった。 


「そう。じゃあ、頼んだ。できるだけ戦闘に不利になる効果をつけてね」

「分かりました」


 残るのはお金の話。


「代金は――」

「いりませんよ?」


 でも、ノラが食い気味に言葉を被せた。


「いいの?」


 装備を作るには私の倉庫にあるアイテム以外にも色々必要になる。さらに、技術料が上乗せされて費用が決まるはず。


 無料ただで作ってもらえるなんてありえない。


「はいっ、まだ恩返しできたとは思っていませんし、なんたって呪いのアイテムちゃんを作らせてもらえるんですから!!」


 これだけ言ってくれるのなら断るのは逆に失礼かな。


 私はノラの言葉に素直に甘えることにした。


「そう。ありがと」

「いえ、こちらこそありがとうございます!!」


 ノラはさっきからニヨニヨしっぱなし。嬉しそうだから、まぁ、いっか。


 話している間に倉庫の前にたどり着く。NPCと会話をして中のアイテム一覧を表示させた。ノラにも見えるように設定を変更する。


「うわぁ、見たことがない素材ばかりっ!! 本当に使っちゃっていいんですか? こんな貴重なものを」


 アイテムを見たノラが目をキラキラさせながら私の方に顔を向けた。


 シークレットダンジョンのアイテムだからそれなりに価値があるみたい。


 でも、私は特に必要ないし、このままだと倉庫の肥やしになるだけ。それなら、死にやすくなる装備に使ってもらった方が何百倍も良い。


「うん。好きに選んで」

「分かりました!!」


 ノラはアイテムをタッチして中身を確認しながらウキウキした様子で選び始めた。


「あら? メイじゃない。こんなところで何してるの?」


 ノラが選ぶのを待っていると、後ろから声が掛かった。


 振り返ると、そこに立っていたのはレーナだ。相変わらず目のやり場に困りそうな露出の多い衣装を着ていて、色々溢れそう。


「レーナ。明日の準備」

「あぁ、イベントに出るのね?」


 レーナも当然イベントのことを知っていた。


 知らないのは私だけ。やっぱり通知くらいはもう少し確認しないとダメかも……反省。


「うん。装備を作ってもらう」

「あなたもようやく元気になったのね……」


 返事を聞いたレーナがなんだか感動したような目で私を見てくる。


 全く心当たりがない。


「なんのこと?」

「なんでもないわ、気にしないで」

「そう」


 なんだかまた勘違いされているような気がしないでもない。でも、レーナがそういうのなら気にしないでおこう。


「メイさん、そちらの方は?」


 ノラが話に入ってきた。


「もういいの?」

「はい、素材は選び終わりました」

「分かった。この人はレーナ。この前街を案内してもらった」


 私は手で指しながら紹介する。


「レーナよ、よろしくね」

「私はノラと申します。以後お見知りおきを」


 レーナの軽い挨拶に、ノラはカーテシー?とか言われるような仕草で返答した。


「ノラがあなたの装備を?」

「そう」

装備を頼むわね?」


 私が頷くと、レーナがノラの肩に手を置き、真剣な表情でノラを見つめる。


「はいっ、お任せください。今できる装備を作ってみせますから」

「それは頼もしいわ。ちょっと肩の荷が下りた気分ね」


 返事を聞いたレーナはホッとため息を吐いて安堵の表情を浮かべた。


「何の話?」

「なんでもないわ。それよりあるの?」


 レーナは一体なんのことを言ってるのか分からない。でも、はぐらかされてしまったので、これ以上追求できそうにない。


 私はレーナの質問に答える。


「勿論ある」


 ノラの装備に加え、私の料理にデバフの効果をつけることができれば、かなり殺してもらいやすくなるはず。


 間違いなく素晴らしいイベントになると思う。


「それならもう何も言わないわ。イベント、目一杯楽しんでね」


 私の言葉を聞いたレーナは、慈愛を含んだ笑みを浮かべた。


 やっぱり何か勘違いしてる気がするんだけど……気のせいかな。


「うん、ありがと。それじゃ」


 レーナと別れて生産者ギルドに戻る。


「それじゃあ、よろしく」

「かしこまりました!!」


 そして、分かれて各々の作業を進めた。

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