第019話 一石三鳥のお得プラン
私はポータルの前で復活。
「やっぱり面倒……」
ここなら簡単に何度も死ねるのに、いちいち人気の無い場所を探して死ぬのはとても面倒くさい。時間もかかるし、手間もかかる。しばらく他のやり方で死んだ方が良い気がする。
すぐ思いつくのは塩やにんにく、それに聖水。塩やにんにくはNPCの雑貨屋や露店で簡単に買うことができる。
思い立った私はすぐに雑貨屋に向かった。
「いらっしゃい」
雑貨屋の店主のおばちゃんが私を出迎える。
「塩下さい」
「どのくらいだい?」
「買えるだけ」
「すぐ出せるのは100㎏くらいかねぇ」
「じゃあ、それで」
「あいよ。500ルルドだよ」
ゲーム世界の通貨単位はルルド。
500ルルドは初心者にとって割と高い。でも私は、グリムの墓でボスを倒した時に大金を手に入れている。その額は確か100万ルルドくらい。500ルルドなんて余裕。
気持ちよく逝くための必要経費。出し渋るつもりはない。
だけど、私はお金を取り出そうとして気づく。
「あれ?」
お金の数値が0になっていることに。
なんでお金がないんだろ……街に来た時は確かにあったはずなのに……。
「あっ」
そうだ。
アイテムは預けたけど、お金をギルドに預けるの忘れてた…………ショック。
ようやく自分の失敗に気づいて愕然とする。初ログインから死にまくっていてお金がずっと0だった私は、デスペナルティでお金も失うことを完全に忘れていた。
アイテムを失うことは覚えていたのに……反省……。
「どうしたんだい?」
私を心配そうに見つめるおばちゃん。
いけない。少し考え込んでしまった。
「ごめんなさい、お金が足りませんでした」
「そうかい、また来てくんな」
「はい、次は必ず」
気持ちを切り替え、おばちゃんに謝って店を出た。
無くなっちゃったものは仕方ない。ないなら稼げばいい。
私はクエストを受けるために生産者ギルドへと向かった。
「どれにしようかな……」
生産者ギルドの依頼掲示板の前で、クエストの内容を吟味していく。
薬や武具、それに服や食料の納品などなど。レーナが言っていたように、生産者ギルドだけあって主に生産したアイテムを納品するタイプのクエストが多い。
冒険者ギルドのような討伐依頼もあるけど、それはごく少数だった。
「あ、これいいかも」
私が目を付けたのは、素材採集系のクエスト。
アイテムを作って納品したくても、作るための道具を持ってない。道具を買うには当たり前だけどお金が必要。つまり、無一文の私には無理。
でも、素材採集系のクエストなら、指定のアイテムを群生地に行って取ってくるだけだから何も道具はいらない。それに、いくらでも需要があるみたいで、多くとってくれば来るほど色をつけてくれるらしい。
レベルもこれ以上あげたくないし、今の私にピッタリの内容だと思う。
「ダイス渓谷」
そして、私がこのクエストで何より気に入ったのは、目的のアイテムの生息地。渓谷と言えば、川が流れているはず。
つまり、そこに飛び込めば、流水死できる。
この世界はリアル世界と変わらないため、移動に時間がかかる。
その移動時間を軽減するためにポータルがある。ポータルは登録した場所同士の移動を可能にする。ダイス渓谷にもポータルがあるはず。
登録すれば、渓谷で復活できる。街よりも圧倒的に人が少ないので、沢山死んでも目立たないと思う。
それに、渓谷と言えば、切り立った崖。そこから飛び降りれば、転落死もできちゃう。
アイテムを集める前に死の快感も味わえる。一石二鳥。これは行くしかない。
「ん?」
密かにテンションを上げていると、ふと2人のプレイヤーの会話が聞こえてきた。
「ねぇねぇ、聞いた?」
「何を?」
「ダイス渓谷の方で、フィールドボスが出たらしいよ」
「へぇ~、面白そうじゃん」
その内容についつい耳を傾けてしまう。
「それが本当に強くて、今まで戦いにいった人たちは全員死に戻りしたんだって」
「あぁ~、それは止めた方がいいな」
「だよねぇ、せっかく育てた武器や防具を無くしたくないし」
「それな」
ほっほ~う? 誰も倒せないモンスター? そんなに強いボスなら私を殺してくれるんじゃないかな?
俄然ダイス渓谷へ行きたい気持ちが強くなってきた。
「それで今、攻略組が挑むメンバーを募集してるんだって」
「それじゃあ、そんなにかからずに倒されそうだな」
「多分ね」
せっかく出現した強そうなボスモンスター。早くいかないと、倒されてしまうかもしれない。
それはダメ。私を殺してもらわないといけないんだから。
依頼書を剥がして受付嬢さんの許へ。
気づいたら、このモンスターの話をしているのは2人だけじゃない。ギルド内はその話題でもちきりになっている。これは一刻の猶予もなさそう。急がないと。
「この依頼をお願いします」
「あの、現在、ダイス渓谷付近に正体不明の強力なモンスターが出現しているという報告を受けております。非常に危険な依頼となりますが、本当に受けられますか?」
「はい」
危険なら、ダイス渓谷には尚更人がいないってこと。まさに渡りに船。受けないはずがない。
「かしこまりました。重々お気を付けください」
「分かりました」
受付嬢さんとの会話を済ませると、通知が届く。
『「クエスト:クエリ石の採集」を受諾しました』
クエストを受けた私は急いでダイス渓谷に向かった。
「なんで?」
その結果、話題のボスモンスターと遭遇することなく、渓谷についてしまった。
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