第018話 生産職の可能性

 レーナさんと連れだって道を歩きながら街を進む。


「メイはMMOをするのは初めて?」

「はい」


 晴愛に付き合わされてゲームの心得はあるけど、あくまでオフラインのゲームの話。オンラインのゲームは今回が初めてだ。


 興味がないことは続かない。


 オンラインゲームでは人との付き合いが発生することが多い。嫌々始めた後、途中で辞めてしまえば、迷惑をかけることになる。


 だから、晴愛に誘われてもMMOはやらなかった。話はよく聞いていたので、ある程度知っていることはあるけど。


「そう。それじゃあ、基本的なところから説明するわね。それと、レーナで良いわ。敬語も要らないから」

「分かった」

「切り替え早いわね……」


 敬語は慣れないし、普段より多く話さなきゃいけないから疲れる。レーナの提案はとても助かった。


「ここがNPCが経営する道具屋よ。生鮮食品以外の食材や回復アイテムならここに買いに来たらいいわ。ただし、NPCが販売する回復ポーションの効果は一定。もっと効果の高いポーションが欲しいならプレイヤーから買えばいいわ。でも、ぼったくりもあるから注意が必要よ。それからNPCにもきちんと感情と知能があって、ぞんざいに扱えば好感度が下がり、こちらもぞんざいに扱われるようになるの。しかも、行動によっては数人のプレイヤーのせいで、プレイヤー全体に対する好感度が下がることもある。そうなったら、NPCからアイテムが買えなくなることもあるから気を付けてね」

「分かった」


 街を巡りながら、レーナは基本的な説明から、あまり知られていないことまで懇切丁寧に教えてくれる。


 晴愛と同じで面倒見のいいタイプみたい。これだけ熱心に教えてくれると、聞かないのは悪い。ちゃんと聞こう。 


「毒ポーションは売ってる?」

「NPCの店には売ってないわ。そういうのはプレイヤーが作っているわね」

「へぇ」


 つまり、毒薬は自分で作れるってこと。


 毒草や毒キノコをそのまま食べても非常に強い効果がある。もし、調合したら? ものすごい毒薬ができるんじゃないかな。下手したら耐性を貫通するような毒薬も……くふふっ。


 私は設定の時に生産系のスキルを取っている。後々こういうところで役に立つんじゃないかと思っていたから。予想通り。


「薬は調合か錬金術スキルがあれば作れるわ」

「興味ある」

「それなら生産者ギルドに行くといいわ。講習をしているはずよ」

「そうなんだ」


 いつか行ってみようかな。


 私たちは、鍛冶屋、装飾品店、服飾店などの装備系のお店や、八百屋、肉屋、魚屋などの消費アイテムのお店を見て回る。


 現実では見られないファンタジーなアイテムや、不可思議な食材などもあり、とても面白かった。


「ここが冒険者ギルド。冒険者として登録すれば、専用のクエストを受注できるわ。主に討伐系や採取系の依頼が多いわね。実績が増えれば、ランクが上がって難易度の高いクエストを受けられるようになるわ。それに、認められれば、冒険者ギルドでの待遇が良くなるし、街の人が好意的になったりするわ」

「ふーん」


 冒険者ギルドはあまり関わることはなさそうかな。何か特別な理由がない限りは、モンスターに殺されることはあっても、私が殺すことはないと思うし。


「ここが生産者ギルドね。冒険者ギルドと同様で、主に何かを作って納品する種類の依頼が多いわ。ギルドには専用の作業場があるし、もし、今後生産者として活動するなら、登録しておくと便利だと思うわ」

「分かった」


 私は早速生産者ギルドに登録しておいた。


「ここは冒険者市場。プレイヤーが露店を出して各々が作った商品を売ってるわ。NPCのお店では出されない商品も色々売ってるわ」


 次にやってきたのはプレイヤーたちがバザーみたいに露店を出している広場。プレイヤーたちが商品を見て唸ったり、店主のプレイヤーと交渉していたりする。


 沢山のプレイヤーがひしめき合って賑わっている。


「自分の能力を下げたり、耐性を消したりする防具は?」

「さっきからおかしなところを突っ込んで来るわね……そうね、作れる可能性はあるわ。それに自分の能力が下がるような呪いの装備はダンジョンで手に入ることもあるわよ」

「おおっ」


 もしかしたら、おじいさんのお墓で拾ったアイテムの中に呪いの装備があるかも。後で倉庫で確認しよう。


 ないならないで、他のダンジョンに探しに出かけるのもいいかもしれない。


「これで粗方街を見て回ったと思うけど、他に行きたい場所はあるかしら?」

「教会は?」


 吸血鬼の最大の天敵と言えば、聖なる力。私はまだその場所を知らない。


「え、吸血鬼は教会に近づくとダメージ受けるわよね?」

「いいの」

「そ、そう、分かったわ」


 渋るレーナと共に教会へと向かう。


「うっ!?」


 数分程歩くと、頭にガンガンとした痛みが襲ってきた。


「大丈夫?」

「……うん」


 まるでインフルエンザにでも罹ったみたい。


「それが教会によるダメージよ。結界に入るともっとひどくなるわ……それにしても痛そうね、リアリティ度はどれくらいでプレイしてるの?」

「最大」

「へ?」


 返事を聞いたレーナは立ち止って、私の方を向いて間抜けな顔をした。


 ちゃんと聞こえなかったのかもしれない。


 もう一度はっきりと言い直した。


「最大」

「いやいや、最大であんな無茶なプレイしてたの? 死ぬの?」

「死ぬけど?」

「いや、そういうことじゃない!!」

「じゃあ、なんなの?」


 レーナが詰め寄ってくる理由が分からず、困惑してしまう。


「はぁ……まぁいいわ。見えてると思うけど、あそこが教会よ。これ以上進むと、もっと症状がひどくなると思うから、ここまでにしておくわね」

「ありがと」


 本当は今すぐにでももっと教会に近づいてみたかったけど、ジッと堪える。


 場所さえわかればこっちのもの。後で教会に向かうことにしよう。


「どういたしまして。そうだ、この世界の料理は食べた?」

「まだ」

「それじゃあ、食べに行きましょ。おごるわ」


 現実世界でも食べることはそれなりに好きだし、両親が出張が多いので、しょっちゅう自炊してご飯を作っている。だから、異世界っぽい料理には興味がある。


 私は先に歩き出したレーナの後を追った。


「美味しい」

「本当ね。そう言ってもらえてよかったわ」


 レーナに連れていかれたお店の料理は、彼女の自信通りとても美味しかった。


 そこで毒リンゴが物凄く美味しかったことを思い出す。


「毒の入った料理って作れるの?」

「作れるわ」

「なるほど」


 それなら、毒リンゴ単体よりも美味しい毒料理を作れば、もっと気持ちいい死に方ができるんじゃないかな。


 料理は初期スキルで取っている。育てるのに何の問題もない。


 調合といい、装備といい、料理といい、今日はレーナのおかげで新しい可能性に気づくことができた。


 システムのせいで私の死亡生活はお先真っ暗だったけど、少し光が差したかもしれない。


 感謝感謝。


「あ、呼ばれちゃったわ」


 レーナが耳を押さえて何処か明後日の方を見たと思ったら、残念そうに呟く。


「うん、今日はありがと」

「いいえ、気にしないで良いわ。それよりもフレンド登録しておきましょ。何かあったら連絡して。プライベートのことでもいいから。何かする前にね」

「分かった」


 レーナの真剣な表情の前に、断り切れずフレンド登録した。


 フレンドになると、ログイン状態が見れたり、連絡を取り合ったりできる。


「いい? 絶対よ?」

「うん、わかってる」

「じゃあ、またね」

「ばいばい」


 最後まで心配そうなレーナ。


 安心させるように頷くと、チラチラと私を振り返りながら去っていった。


 完全に自殺志願者認定されてしまったかなぁ? まぁ、いっか。


 正直、彼女が実は悪い人で、「実は私――」と態度を豹変させて私を殺してしまう、みたいな可能性も考えていたんだけど、ただの親切な人だった。


 良いことなんだけど、良くない。殺してくれたら、どんなに良かったか……。


「はぁ……」


 しばらく死ねなかったので、モヤモヤと不完全燃焼気味。


「あ゛か゛か゛か゛か゛か゛か゛か゛か゛か゛っ」


 ひとまず人気のない川のほとりを探して、一発流水死をキメた。

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