第013話 システム君の思い通りにはならない
ボスが討伐される前に死のうと思ったのに、意図せずボスを倒してしまった。それもこれも耐性を沢山持っているせいだ。
「はぁ、もうやだ……」
私のレベルが24まで上がり、称号を3つも手に入れた。
レベルが上がるだけならまだしも、嫌な予感しかしない称号を3つも手に入れたのは、誠に遺憾としか言いようがない。
それに、受けたダメージも高速再生の力でいつの間にか回復してしまった。
私は死ぬのを諦めて、各々の称号の効果を確認していく。
1つ目の『不可能を乗り越えし者』は、
『現在のレベルでは絶対に倒せないモンスターを倒した者に送られる称号。自分よりも敵対した相手の方がレベルが高かった場合、全ての能力が上昇する。上昇率は相手のレベルが高いほど上がっていく』
と記載されていた。
どうやら自分よりレベルが高いモンスターと戦う時、自分の意思とは関係なく強くなってしまうみたい。しかも相手が強ければ強いほど、私も強くなってしまう。
ただでさえ、色んな攻撃が効かなくなって強いモンスターを探さなきゃいけなさそうなのに……。
新しいモンスターと出会っても、私が強くなってしまったら、どうやって死ねばいいの?
2つ目の『ノーアタックキラー』は、
『一度も自分から攻撃せずに圧倒的な強者を倒してしまった者に送られる称号。一定確率で物理攻撃を反射する』
と書いてあった。
いや、私も全く想像できなかったよ? まさか万毒体がボスまで倒してしまうくらい強力だったなんて。
この称号のせいで、これから私は何もせずにモンスターを倒してしまう可能性があるってことだよね。
そうでなくても、毒の体になって意図せずダメージを与えてしまわないように気を遣う。それなのに、さらに自分の意に反して攻撃を反射するとか、本当に勘弁してほしい。
そして最後の『孤高の戦神』は、
『たった一人で強大な敵を倒した者に与えられる称号。パーティを組まずに一人で戦闘を行う場合、全能力が飛躍的に向上する』
というもの。
それってつまり、今後私が一人でモンスターと戦うと、相当死ににくくなってしまうということでは? ということは、モンスターと戦って死ぬためには誰かとパーティを組む必要があるってこと?
でも、ボスとの戦闘中に死んでしまったら迷惑も良いところ。自分だけならどうでもいいけど、他人に迷惑をかけるわけにはいかない。
晴愛も普通に攻略するんだろうし、私に付きあわせるのは悪い。
いるわけがないけど、死んでもいいという条件で私を入れてくれるどこかのパーティを探すか、自分でパーティを作ったほうがいいかもしれないなぁ……。
そこでハッとした。
私はパーティプレイを強いられている!!
また運営に、プレイヤーのプレイスタイルを狭めるな、という内容の怒りのメッセージを送信した。
「ふぅ……えっ?」
ひとまず溜飲を下げたけど、目の前に突然ウィンドウが現れて驚く。
そこにはこう書かれていた。
『進化条件を満たしました。進化しますか?』と。
私は迷うことなく「いいえ」を選択。
ふっふっふっ、システム君、私が素直に進化すると思ったら大間違いだよ?
進化したら、今の下級吸血鬼より強くなるのは目に見えてる。そうなったら、ただでさえ死にづらくなってきているのに、もっと死ねなくなってしまう。
もうこれ以上死ににくくなる要素を増やすのは嫌だ。
『進化しませんでした。以後、ステータスからいつでも進化可能です』
よし、これで私が進化することはなくなったはず。
ホッと一安心。
「ん? あれは……」
辺りを見回すと、ボスが消滅した場所に、いくつかのアイテムが落ちているのが見えた。
モンスターを倒すと、そのモンスター特有の素材アイテムを落としたり、レアなアイテムを落としたりする。それをドロップアイテムと呼ぶ。
ボスは確実にアイテムを落とし、レアな品物を手に入れやすい。
レアアイテムに興味はないけど、折角ドロップしたので、アイテムボックスの中にしまっておく。
「え、なにこれ……」
でも、最後のアイテムを手に取ったところで異変が起こった。
真っ赤な石が勝手に私の体の中に吸い込まれていく。
その瞬間、通知が聞こえてきた。
『真祖の血石を取り込みました』
「え?」
突然のことに呆然としていると、また私の前にウィンドウが現れた。
『特殊な進化条件を満たしました。真祖への進化が可能になりました。進化しますか?』
それは特殊進化を促す画面だった。
さっき進化を拒否したばかりだというのに、性懲りもなく進化画面を出してくるなんて……システムも中々考えてくるね。
だからと言って、私の意思は変わらない。すぐさま「いいえ」を選択してやった。
『特殊進化は一度拒否すると、2度と進化することができません。本当によろしいですか?』
しかし、先ほどとは違い、確認画面が表示される。
間違う人はいないだろうけど、誤って「いいえ」を押してしまった人への安全措置だと思う。
それに、こういう風に問われると、心理的に「はい」を押しにくい。そういう効果も狙っているのかもしれない。
でも、そんなこと私には無意味!!
「はい」を押した。
『真祖は非常に稀有な種族です。本当に進化しなくてもよろしいですか?』
さらにもう一度現れるウィンドウ。
システムも諦めが悪い。私はまた「はい」を選択。
それでもまたウィンドウが現れる。
『本当に――』
『本当に――』
『本当に――』
……
……
……
『本当によろしいですか?』
それから「はい」を押すこと10回。
『真祖への進化を取りやめました。以後真祖への進化はできなくなりました』
ようやく進化を拒否することができた。
ふぅ〜、やっと終わった。
リアリティ設定の時もそうだったけど、システムが本当にしつこすぎる。
一応これでダンジョンは攻略したはずなんだけど……。
ダンジョンを攻略すると、転移ゲートみたいなものが出現するみたいなんだけど、一向に現れる気配がない。
だけど、辺りを見回していると、体が急に勝手に動き始めた。
「ん? なにこれ?」
思い……出した。
多分イベントによる強制的な自動操作だ。そういうこともあるって説明をゲームを始める前に受けた気がする。すっかり忘れてた。
私の体はボス部屋の奥へと向かって歩いていく。
自分の意思に反して体が動くのは凄く気持ちが悪い。あ、でも、この状態で死んだら、それはそれで気持ちいいかも。
「あれは……」
ボスが最初に横たわっていた場所の先に通路があり、私の体はその中に入っていく。
その先にあったのは錬金術師のアトリエと呼ぶのにふさわしい部屋。
魔女が怪しい薬を混ぜていそうな大きな釡に、試験管やフラスコのような容器の類が乗った机、それに沢山の本が詰まった棚などが設置されている。
そして、その先にはフードを被った骸骨が椅子に座っていた。
その前まで歩いていくと、骸骨の少し上に半透明のおじいさんの姿が浮かび上がる。
『よく来た、わが後継者よ』
そのおじいさんは私に話しかけてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます