第012話 ボスなんて絶対倒さないんだからね!
ボス部屋の中は体育館のようにだだっ広い空間だった。神殿の礼拝堂を思わせる、厳かで神秘的な雰囲気が漂っている。
その一番奥に横たわる巨大な生き物。あれがボスみたい。
「グォ?」
部屋の中に入った途端、ボスが眠りから目を覚まして辺りを見回した。そして私の姿を見つけると、立ち上がってその威容を露わにする。
大きさは一軒家くらいありそう。見た目は、きちんと頭のついた猛獣の上に、竜が人の形をとったかのような生物の上半身が生えている。まるでケンタウロスみたい。
全体的に硬質な鎧を思わせる体表をしていて、何かを守るガーディアンのように見える。竜人の上半身は巨大な剣を携えていた。
「強そう」
ボスからは今まで感じたことのない大きな力を感じる。肌がビリビリする。
これは期待できそう。今から殺されるのが楽しみ。
立ち上がったボスの頭の上に、インクレディブルガーディアン、という名前が表示された。そのまま訳すなら無敵の守護者って感じ。その呼び名から考えると、開発者は相当自信があるってことだと思う。
その自信、私が死んで確かめてみせるっ!!
無防備にボスに近づいていく。
「グォオオオオッ!!」
私を敵だと認識したボスは、猛獣の口から白い閃光を吐き出した。
その閃光は名前の通り、一瞬で私に到達して全身を焼く。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
凄まじい痛みが私を襲う。
気づいたら、ボス部屋の前に立っていた。
太陽による焼死と同レベルで気持ちのいい死に方だった。浄化とは違うけど、強力な光線によって体を焼かれ、意識を蒸発させられる感覚。
100点満点中90点あげる。
私は死の快感を貪るため、何度もボス部屋に入り、閃光に晒され続ける。
『無属性攻撃耐性を獲得しました』
そして、また知らないうちに耐性を手に入れていた。高速再生もあるので、ダメージが目に見えて減っていく。
『無属性攻撃耐性のレベルが上限に達しました。無属性攻撃無効へと進化しました』
そう時間が経たないうちに閃光も効かなくなってしまった。
そりゃあ、リアリティ設定と称号で実質400分の1だからね。あっという間に無効になっちゃうよね……はぁ、運営さん本当に勘弁してもらえませんか?
心の中でまた運営に対する怨嗟ゲージがぐんぐん溜まり始める。
もう一度中に入ると、ガーディアンはこれまで通り真っ白な閃光を放ってくる。でも、もうノーダメージ。私はそのまま前進していく。
私が近づくと、ガーディアンは光弾のようなものを連発してくる。
でも、閃光と同じ種類の攻撃だと判断されて効果なし。私はさらにガーディアンに迫った。
「ガァアアアアアアッ!!」
閃光や光弾が意味がないことを理解したガーディアンは長い尾で私を払う。
私はそのまま受けた。でも、しっぽは打撃として判定されて私にダメージを与えられない。
さぁ、もっと新しい攻撃を見せてよ!!
ガーディアンは私に向かって持っていた剣を振り下ろした。斬撃は耐性には引っかかることなく体を斬り裂く。
「ぐはっ」
私は真っ二つになって地面に落ちた。
でも、高まった再生能力のせいで一瞬で死ねなくて、すさまじい激痛に晒される。
はははは……創作物でこんな風に横に真っ二つにされるモンスターや人間が描かれることがあるけど、こんな痛みが襲ってくるんだね……。
とても新鮮な感覚だった。
「がはっ!!」
直後に頭に強い衝撃を受け、意識を失った。
目の前には巨大な扉。もうすでに馴染みのあるボス部屋の前。さっきの死に際を思い出す。最後の衝撃は多分頭を斬られたんだと思う。
まだまだレパートリーがありそう。
私は更なる死を求め、再びボス部屋の扉を開く。
『斬撃耐性を習得しました』
『斬撃耐性のレベルが上限に達しました。斬撃無効へと進化しました』
そして、斬撃が効かなくなった。
もっと、もっと!!
「グォオオオッ」
「あはははっ」
ガーディアンの咆哮と共に、体から黒い靄が噴き出した。
見たことのない攻撃に期待が高まる。
靄はガーディアンの頭上でドクロを形作り、私へと襲い掛かかってきた。
「あっ……」
靄が私の体を包み込んだ瞬間、私は意識を失った。
多分即死攻撃の類だと思う。
死に続けていると耐性を習得。
『即死攻撃耐性を習得しました』
予想通り、黒い靄は即死系の攻撃だった。
『即死攻撃耐性のレベルが上限に達しました。即死攻撃無効へと進化しました』
耐性を手に入れてしまった。
もっと、私を殺して!!
「あははははははっ!!」
「グォオオオンッ!!」
ボスの叫びと共に突然室内に隕石が現れ、私に向かって落ちてきた。
ワクワクしながら隕石が当たるのを待つ。
でも、隕石は私に当たった瞬間に消滅。
私は呆然とした。
「え?」
隕石はすでに持っている耐性で無効になってしまったらしい。もう無属性の光系の攻撃も、即死攻撃も、打撃も、斬撃も私にはもうダメージを与えられない。
それでも、ガーディアンは私を排除しようと攻撃してくる。でも、もう私に害をなすことはできなかった。
運営さん、こんなに簡単に死ななくしちゃっていいんですか? ダメですよね?
「しまった……」
不満を募らせていると、致命的な失敗に気づく。
それは、ここから出るには、死ぬかボスを倒すかの二択しかないということ。
私はボスを倒したくない。でも、現状自分を殺せる有効な手段がない。だとしたら、倒すかここで餓死するまで待つしかない。
私は断固として倒す気はないので、ガーディアンの前に腰を下ろした。
――ガンッガンッガンッ
――ザンッザンッザンッ
――ガガガガガガガガッ
その間、ガーディアンが一生懸命に殺そうとしてきたけど、なんの効果もない。
私は暇なので横になった。
「ガォオオオオオオオッ!!」
ガーディアンは舐められていることに怒り、やけくそになって私に思い切り噛みついた。
「がはっ!?」
噛みつきは斬撃に当たらないようで、私は死んだ。
やった、まだレパートリーあるじゃん!!
それから私は、ガーディアンを挑発して噛み殺され続けた。
『歯牙耐性を獲得しました』
そんなことをしていれば、当然耐性が手に入る。
そして、次に私がボス部屋に入った時だった。
「グォオオオオオオオオオッ!!」
「ぐぁっ」
ボスは私に噛みついてぶんぶんと振り回した後、私を放り投げる。
地面をゴロゴロと転がり、止まったところでボスがもっと攻撃してこないのを不審に思った。
ダメージで動かない体をどうにか動かしてボスを見ると、ボスが大きな声を上げ、その場でのたうち回りはじめた。
どうしたんだろう?
よく見ると、白目を剥き、口から泡を吹いている。
その様子であることを思い出す。
それは私の体全てがあらゆる生物を殺す毒でできてるってこと。
つまり、ボスは私の体の一部を摂取したせいで、猛毒を受けることになった、そういうことみたい。
これまで倒したことにならなかったのは、多分私が殺される方が早かったから。
このままじゃボスが死んじゃう。それは避けないと。だってボスなんて倒したら、レベルが沢山上がってしまうから。
どうにかして今すぐ死なないと……。
噛みつかれて重傷を負っている自分に止めを刺そうとしたけど、高速再生や、無効になっている攻撃が多すぎて何も効かない。
ただ、時間だけが過ぎていく。
あぁああああ、もうっ!!
そうこうしている間に、タイムオーバー。しばらくぎったんばったんと大暴れしていたボスは、ぱったりと動かなくなった。
『シークレットボス:インクレディブルガーディアンが討伐されました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
『レベルが上がりました』
……
……
……
『レベルが上がりました』
『不可能を乗り越えし者の称号を獲得しました』
『ノーアタックキラーの称号を獲得しました』
『孤高の戦神の称号を獲得しました』
その結果、なす術なくレベルが上がり、新たな称号まで手に入れてしまった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
私は悔しさのあまり、感情を爆発させた。
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