第011話 トラップ地獄《てんごく》
「はぁ、なんでまたこんな称号を……」
称号の効果を確認して肩をガックリと落とす。
『死亡回数が200万回を初めて突破したプレイヤーに送られる称号(リアリティ設定が最大の場合2万回)。死亡すればするほど能力が強化される(死の超越者よりも強化率上昇)。スキルのレベルアップと取得条件が緩和される(1/4)。まずは200万回おめでとうございます、と言わせていただきましょう。はぁ……何があなたをこれほどまでに死へと掻きたてるのでしょうか。私たちには全く理解できません。でも、ご安心ください!! この称号があればもう大丈夫。余程の事がなければ、なかなか死ななくなるはずです。楽しくプレイしてくださいね』
まず、何がもう大丈夫、だ。全然大丈夫じゃないし、安心もできない。
他の人なら喜んだかもしれない。だけど、せっかくのゲームなのに死ねなくなるとか、私にとってはただの悪夢。
それに、他のプレイヤーと会わないので、実感できてないけど、他の人より少し死んでいる数が多いので、多少は強くなっていると思う。
さらに強化率が上がると、どれだけ強くなるのか想像もつかない。その上、耐性やスキルがもっと簡単に手に入るようになった。
一つだけ言えるのは、今よりもっともっと死ににくくなったってこと。最悪以外のなにものでもない。
それから、次の称号の『死に神』。
『リアリティ設定が最大の状態で死亡回数が2万回を初めて超えたプレイヤーに送られる称号。全ての精神攻撃を反射する。どうやらあなたの精神は人を超越してしまったようですね。"に"はちゃんと平仮名で表記するんですよ? あなたにはこの名前がぴったりでしょう』
死にまくる神、という意味合いなのかな。正直どうでもいい。ただ、前回無効になった精神攻撃を反射するようになったらしい。
無効でも困るのに、反射するとかもう嫌すぎる。精神攻撃を反射して敵を倒してしまうかもしれない。そうしたら、レベルが上がってもっと死ねなくなってしまう。
称号とその条件を作った開発者、絶対許すまじ。本当に余計なことしかしない。全力で怒りを込めたGMコールをしてやるんだから。
私は恨みつらみをギッチギチに詰め込んで、また運営に送り付けた。
――ピピピピピピッ
ちょうどアラームがなったのでログアウト。一度睡眠をとった。
翌日、ゲームの世界に舞い戻る。
スペクターのドレインタッチでも死ねなくなったので、悲しみに暮れながら探索していると、3階層への階段を見つけた。
2階層の宝箱も全無視。期待を胸に3階層に降りた。
これまでと同じように造り自体は変わらない。ただ、2階とは違い、きちんと松明が焚かれていて、夜目がなくても見通せる程度には明るさが確保されている。
多分普通の種族のプレイヤーでも支障なく進めると思う。
私は早速、死に場所を求めて足を踏み出した。
――カチリッ
足をついた瞬間、床が少し沈み込み、何かと何かがハマり合ったような音が微かに耳に届く。
「がっ!?」
疑問に思っていると、私は急に胸や腹部に激痛を感じた。痛みを堪えながら視線を下げると、私の胸にいくつもの矢の羽が生えている。
矢が刺さった部分が熱を帯び、包丁で切った痛みなんて目じゃないくらい鋭い痛みが広がる。
これが矢に射抜かれる感覚……戦国時代の人たちはこんな痛みに晒されていたんだね……。
「ぐふっ……」
吐き気が抑えきれなくなってその場に蹲ると、口から血を吐いて倒れた。
まさか一歩目から罠があるなんて……最っ……高……。
私はそのまま意識を失った。
「うっ」
階段の前で意識を取り戻す。
どうやら今の床のスイッチは、複数の矢が飛んでくる罠だったみたい。全然見えなかった。
急所を貫かれたせいなのか、罠の矢の威力が高いのか分からないけど、高速再生が発動する前に死んだ。
一歩目からなかなか殺意の高い罠が配置されている。
善き。
突き刺さった矢の感覚を思い出すと、体の奥が熱くなって体が震える。
矢で射抜かれた痛みは結構好み。太陽による浄化死が100点だとすれば、70点くらいは上げられると思う。ちなみにゴーレムに弾けさせられたのは80点くらいかな。
でも、ここまで罠が一つもなかったので油断していた。もう油断しない。全力で死ににいこうと思う。
『刺突耐性を習得しました』
その結果、すぐに刺突耐性を獲得してしまった。
陽光耐性もそうだけど、ほんのちょっと死んだくらいで無効になるなんてシステムとしてホントどうかしてる。
『高速再生のレベルが上がりました』
その後、何度か回数を重ねただけで、耐性と回復スキルによって、一撃では死ねなくなってしまった。
「痛い……」
死へ向かう過程の上での痛みや苦しみならいいけど、ただ痛いのは嫌いだ。
私は半端に刺さった矢を体に残したまま先へと進んだ。
「うっ」
数メートル程進むと、上からねっとりとした液体が体に降り注ぐ。
その液体はぬめぬめしていて、毒々しい紫色をしていた。
通知が聞こえてくる。
『毒体のレベルが上がりました』
毒体のレベルが上がったということは、多分この液体は毒。耐性のないプレイヤーが浴びたらひとたまりもない。
でも、私にはすでに毒は効かない。それどころかスキルがレベルアップする始末。
毒無効がなければ、ここで死ねたのに……。
「はぁ……」
私はため息を吐いた後、運営への怨嗟を堪えながら唇を噛んだ。
さらに進むと、横の壁がパンチでもするような勢いで飛び出してくる。
――ガンッ
私は回避せずにそのまま受けた。
でも、打撃無効のせいで全くノーダメージ。ただ、その勢いは止まらず、私をそのまま反対側の壁まで運び、挟み込んだ。
「うぐっ」
飛び出した壁の勢いは私が壁に挟まれても止まらず、ギリギリと押しつぶす。
まるでどんどん人間が私の上に乗っていっているみたいだ。
その重みはさらに増していき、私の体は臨界を迎えた。
――ボキボキボキッ
腕の骨が折れ、そのまま体の骨が折れ、全身を砕かれた痛みが貫く。
圧力は打撃判定ではないらしい。
「あぐっ」
骨を砕き、体を滅茶苦茶にしながら壁が
気がおかしくなりそうな痛みと共に私の意識は途絶えた。
「はっ!? はぁはぁ……はぁはぁ……」
いつも通りに階段の前で復活。
徐々に体を磨り潰されていく恐怖を思い出して呼吸が荒くなる。
今までで一番恐怖を感じられる死に方だった。そしてその分、体の反応も激しく、体が跳ね回ってしばらく立てなかった。
正直、快感は太陽による浄化死より上かもしれない。
ただ、この罠がある場所が今のところここしかないことと、自動では死ねないことを考えると、総合的な評価は浄化死の方が上かな。
『刺突耐性のレベルが上限に達しました。刺突無効へと進化しました』
『圧力耐性のレベルが上限に達しました。圧力無効へと進化しました』
『毒体のレベルが上限に達しました。百毒体へと進化しました』
『百毒体のレベルが上限に達しました。千毒体へと進化しました』
『千毒体のレベルが上限に達しました。万毒体へと進化しました』
『万毒体のレベルが上限に達しました』
『高速再生のレベルが上限に達しました』
しばらく最初の1歩目から繰り返すうちに、2つの耐性が無効になり、高速再生が上限になってしまった。高速再生はこれ以上進化しないみたい。
高速再生がこれ以上成長しないのはいい。これ以上回復能力が上がってしぶとくなったら、たまったもんじゃない。
それに、毒体はもう訳がわからないくらい進化した。その結果、私はどんな生物をも殺す毒の体、万毒体になってしまった。
これって晴愛と一緒にゲームできるのかな? ちょっと疑問。ダメだった時は謝ろう。
ここで一度ログアウトして休憩を挟み、諸々の用事を済ませて再開。
――ドォオオオオオオオオンッ
壁の罠の次は大爆発だった。凄まじい轟音と共に、私は目の前が真っ白になった。
いつの間にか死んでしまったらしい。
大爆発は、威力が高すぎて一瞬で死んでしまい、何も得られなかった。デスグラスの時も思ったけど、威力が高すぎるのも考えものだよね。
でも、致死性が高くて非常に高得点。
今度はどんどん爆発の罠に掛かりまくる。
『炎熱耐性を習得しました』
『衝撃耐性を習得しました』
そしてまた、何回か死んだところで耐性を習得。
スキルレベルが上がるにつれ、爆発で足や腕が吹き飛んだり、半身だけ焼け爛れたり、中途半端に死ねない状態になっていく。
「あっ」
この状態は辛い。這いずって先に進むと落とし穴。下には黄色くて炭酸のような泡が出ている液体。
――ジュウウウウウウウッ
体に触れた瞬間、液体から煙が出ると同時に鋭い痛みが走った。その正体は強い酸。私の体が酸に触れた部分から溶けていく。その痛みは常軌を逸していた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」
叫ばずにはいられない。
全身が酸に浸かり、熱湯に飛び込んでしまったような痛みに包まれる。一気に肉が溶け、骨が露出し、骨も溶ける。
私はすぐに意識を失った。
「はっはっはっ――」
意識を取り戻すと、体が溶けていく感覚を思い出して呼吸が荒くなる。
酸の痛みは半端じゃなかった……でも、それがまたいいっ!!
『酸耐性を習得しました』
ほどなくして酸も耐性を習得。
『炎熱耐性のレベルが上限に達しました。炎熱無効へと進化しました』
『衝撃耐性のレベルが上限に達しました。衝撃無効へと進化しました』
『酸耐性のレベルが上限に達しました。酸無効へと進化しました』
そしてちょっと経っただけで、3つの耐性も無効に進化してしまった。
その後は割と致死性が低い罠ばかり。前半が異常に殺意マシマシだっただけみたい。
せっかくの死にまくり天国が終わってしまってガッカリ。
最奥にたどり着くと、ひと際大きな鐘のような形をした扉があった。
両開きで凄く重そう。
これはいわゆるボス部屋と言われる場所に続く扉だと思う。
中にいる強力なモンスターを倒すことでダンジョンが攻略されることになる。でも私は攻略する気は全くない。死ねなくなるまでボスに殺されるだけ。
私は特に準備もせずに扉を押し開ける。
思ったよりも簡単に開いた。
――ピピピピピピッ
でも、いざボス部屋へと足を踏み入れようとしたところでタイマーが鳴る。
罠に1つずつ掛かっていたので、抜けるまでにかなり時間がかかってしまったみたい。
私はログアウトして睡眠をとった。
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