第010話 システム君は過保護

 耐性を手に入れた後、私は長時間のプレイのせいで強制的にログアウト。その時間に所用を済ませて戻ってきた。


 ――ガンガンガンガンッ


 私は今、固い金属を叩くような音を聞きながらダンジョンを歩いている。


 音の正体はミスリルゴーレムさんたち。何体ものゴーレムさんたちが私を囲んで叩いている。


 でも彼らは、打撃無効を手に入れてしまった私を傷つけられない。


 1階層はゴーレムさんが至る所に配置されている巨大な迷路で、トラップは特になく、彼らこそが道を阻む最大の敵だった。


 その彼らの攻撃でダメージを受けなくなった私は、死に場所を求めてダンジョンの奥へ。


 その過程で別のゴーレムさんと会うたびに数を増やして、何をするでもなく、そのまま引き連れている。


 ゴーレムさんを倒さないのは、倒したらレベルが上がってしまい、今よりもっと死ににくくなるから。


 それに、どう攻撃してもダメージを与えられないのに、諦めることなく私を殴ってくる彼らは、なんだか滑稽で、愛着が湧いてしまった。


 進行の邪魔をされているわけでもないし、放っておいても害はなさそうなので、好きにさせている。


 ちなみに打撃耐性の取得条件は、打撃で100万回死ぬこと。ただし、戦闘中に打撃以外の攻撃を受けた場合はカウントされない。


 ゴーレムさんは打撃しかしてこないし、私にはリアリティ設定と死の超越者の効果がある。だから、たった5000回死ぬで打撃耐性を習得してしまった。


 それから、至る所に宝箱があったけど、一切手を付けてない。だってここで手に入れても、どうせ死んだらなくなっちゃうから。


 それは勿体ない。折角だからここで死ねなくなってから回収しても良いと思う。


 そうこうしている内に、前に下り階段が見えてきた。


「ばいばい」


 私は何度も殴ってくるゴーレムさんたちに別れを告げ、次の階層へ。


 見た目は1階層とさほど変わらなさそう。でも、打って変わって静まり返っていて、松明もなく、妙に寒気がする。


 嫌な予感がしつつも、気にせず先へと進んでいく。


 暫く歩くと、私の傍を風が撫で、何者かの声が聞こえた。


「ケケケケケケッ」


 声の方に視線を向けたけど、何もいない。


 幾度となく、私の周りで不自然に風が動いたり、誰もいない場所で物音が鳴ったりする。どう見てもポルターガイストだ。


「やっぱり……」


 私の予想は当たった。ここはゴースト系モンスターが出る階層らしい。


 死に興味を持つ私にとって、幽霊のような超常的な存在は切っても切り離せない。だって、人間に魂があるのなら、死んだ後その魂はどうなるのか、とても気になっていたから。


 少しでも答えに近づくために、私は色んな心霊スポットを巡ったことがある。でも、今まで一度も霊的な現象を体験したり、その存在を見たことがなかった。


 それがここでは自然に体験できる。もちろん本物じゃないけど、なかなか面白い。


 それに、流石国産というべきか、嫌らしいタイミングで影が動いたり、声が聞こえてきたりする。


 ホラー好きはいいけど、嫌いな人は多分すぐにギブアップしてしまいそうなくらい不気味。


 ちなみに私は全然平気なタイプ。でも、晴愛はああ見えてホラー系は物凄く苦手。


 一緒にやる時はここに誘ってみようかな。


「ケケケケケケッ」

「!?」


 ただ、流石の私も足許から急に何かが飛び出してきたらびっくりする。


 その正体は、半透明で体が透けているモンスター。ボロボロのローブを纏い、顔の部分だけ暗くて見通せなくなっている。


 そのモンスターは驚いて動けなくなっている私の頭に手を押し当てた。


「ぐっ」


 すると、私の中からどんどん熱と力が抜けていく。まるでいきなり極寒地に置き去りにされてしまったみたい。


 ガタガタと体が震えだして止まらなくなる。


 モンスターの上にスペクターと表示されている。アンデッド系モンスターにありがちな、生命力を奪うドレイン系の能力だと思う。


 熱や力と共に、私自身の意識が手に吸い寄せられ、少しずつ自分の何かを失っていくような感覚が広がっていく。


 あれ、どうしてこんなところにいるんだっけ? あれ、ここってどこだっけ? あれ、私って誰だっけ? 私ってなんだっけ?


「んっ」


 何がなんだか分からなくなったのを最後に、私は階段の前に立っていた。


 思い出すと、だんだん私が私じゃなくなっていって、最後には自分が誰かさえ分からなくなって意識が保てなくなった。


 多分ドレイン系の能力は、生命力と一緒にその人を形作っている記憶や人格まで吸い出してしまうんだと思う。


 なんて恐ろしい死に方なんだと思うと同時に、自分自身が消失していく過程の、言葉にできない快感が全身を貫いた。


 すでに蘇った後なのに、身体が何度も跳ねて止まらなくなる。私は立っていられなくなってその場に倒れ込んだ。


 私はその場で陸に打ち上げられた魚のように、しばらく体を痙攣させながらのたうち回っていた。


 その後のことは言うまでもないと思う。


『吸精耐性を習得しました』


 快感を求めてスペクターを探し、何度か殺されていたら、これまで通り耐性を手に入れてしまった。


 ただ、ドレインは体にダメージがないせいか高速再生が発動しない。そのおかげで高速再生のスキルレベルが上がらずに済んだ。


『吸精耐性のレベルが上限になりました。吸精無効へと進化しました』


 結局、私は無効になるまで貪るようにドレインの快楽に溺れた。


 でも、それだけでは済まなかった。


『死の支配者の称号を獲得しました』

『死神の称号を獲得しました』


 新たな称号も獲得してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る