第009話 儚き全自動死亡システム
「おお……」
ダンジョン内に入ると、外見とは裏腹にレンガ造り通路が真っすぐ続いていた。通路と言っても高さも幅も広く、どちらも5メートル以上ありそう。
ところどころに松明が灯されているけど、けっこう薄暗い。私には種族固有スキルの夜目があるから遠くまで見通せるけど、普通の人は慣れるまで少しかかりそう。
これまでずっと森の中にいて、こういういかにもダンジョンという雰囲気の場所はログインして以来初めて。その雰囲気に圧倒される。
カビ臭さや少し湿気のある空気感まで再現されていて、本当にリアルとの違いが全然分からない。
「ん?」
そこでふと体に違和感を覚えた。
先ほどまでよりも明らかに体がだるく、重く感じる。
あぁ、そういうことか。ここは屋内だから外のように月の光が届かない。だから今、私は弱体化しているみたい。
墓といい、こんなにも私を死にやすくしてくれるなんてシステムを少し見直した。
さて、いったいどんなイベントが待ち受けているのかな。
気持ちを落ち着かせた私は、死に方を探すため、足を踏み出した。
本来、ダンジョンの中では、斥候役みたいな人が罠を探して解除したり、モンスターがいる場所を探りながら進んでいくんだろうけど、私はそんなことしない。
だって攻略したいんじゃなくて死にたいから。罠でもモンスターでもどんとこい。
でも、意気揚々と歩き出したのに、今のところ罠がない。ただの一本道が続いているだけ。大賢者の墓と聞いてワクワクしてたのにちょっと拍子抜けしてしまう。
「ん?」
その代わり、奥から地鳴りのような音が聞こえてきた。
何かが近づいてきている。
「ゴォオオオオッ」
「ゴーレム?」
走ってきたのは、金属を人型に組み立てたようなモンスター。3メートルくらい身長があって、かなり威圧感がある。
頭の上にミスリルゴーレムという名前が浮かんでる。ミスリルと言えば、結構強い立ち位置のファンタジー鉱物だったはず。
ミスリルで体ができてるなら、森のモンスターより強いに違いない。
私は何もせずゴーレムが襲い掛かってくるのを待った。
ゴーレムは私に近づくと、大きく腕を振り上げる。
「ゴォオオオオッ」
そして、その腕を思い切り振り下ろした。
「が――」
鈍器で殴られたような衝撃を受けた瞬間、私は意識を失った。
「ここは……うっ」
目を覚ますと、私はダンジョンの入り口に立っていた。
どうやら私は死んだらしい。
さっきの死を思い出してぶるりと体が震える。
頭が砕かれてそのままぺしゃんこになる感覚。ログイン直後に太陽で焼死した時以来の強い衝撃だった。
まるでなんの配慮もなしにバックドロップされて頭から地面に叩きつけられたみたいな。太陽の焼死までとは言わないまでも、なかなか気持ちよかった……。
「ゴォオオオッ!!」
余韻に浸っていると、少し先にいたゴーレムが私を見つけるなり走ってくる。そして、再びゴーレムが腕を振り被り、そのまま私に叩きつけた。
――パァンッ
私は再びゴーレムの拳の衝撃で弾ける。
「んっ」
――パァンッ
「んっ」
――パァンッ
「んっ」
――パァンッ
入り口で目を覚ました私は、その度に目の前にいるゴーレムの腕に叩き潰された。
これって無限モンスターキルとかいうやつでは?
確か、近くでモンスターが待ち構えていて蘇ってもすぐに殺されてしまい、永遠にそれを繰り返して抜け出すことができずに死に続けるという、一種のバグに近い現象。
攻略を目指すプレイヤーにとっては泣きたくなるような状況だけど、私にとっては最高の状態。
ほぼ全自動で死ねる上に、太陽の焼死くらい楽に快楽を堪能できる。まさに天国。耐性になるような攻撃もないから、このまま死に続けることができるんじゃないかな。
私はそんな期待を抱きながらゴーレムに叩き潰され続けた。
『打撃耐性を習得しました』
うん、知ってた、私の淡い期待なんてシステムが簡単にぶち壊してくることくらい。
でも、ミスリルゴーレムの攻撃力は思った以上だったみたい。ほんの少し耐えられるになった程度で、ほとんど今までと同じように弾け続けた。
むしろ、少し耐性が上がることで死ぬまでの痛みを長く感じられて非常にグッド。
『打撃耐性のレベルが上がりました』
でも一度耐性を習得したら、まるで斜面を転がる石のようにあっという間に耐性のレベルが上がってく。
それにつれ、攻撃に耐えられるようになって一撃で死ねなくなってしまった。
『自己再生のレベルが上がりました』
同時に吸血鬼が持っている種族固有スキルまでレベルが上がり始める。
自己再生は生命力を自動的に回復させるスキル。手足を失うような大きな怪我でも、ゆっくりだけど徐々に回復できる。
太陽や毒では上がらなかったけど、打撃に耐えられるようになった途端上がり始めた。ルールがあるのかもしれない。
そのせいで私の再生能力が上がり、さらにしぶとくなってしまった。
ここでもまたシステムが私が死ぬのを邪魔をする。
――ガンッ!!
――ガンッ!!
――ガンッ!!
私は殴られて壁に叩きつけられた後、何度も何度も殴られる。まるで巨大なハンマーで殴られているかのようだ。
目の前に星が飛んでチカチカして、意識が朦朧としてくる。
死ぬまでに受ける痛みが長くなり、比例して快楽の波も大きくなっていく。
「ゴォオオオオオッ!!」
意識が朦朧とする私の耳にひと際大きなゴーレムの声が届いた。
――ボキボキボキッ
凄まじい衝撃と共に全身の骨という骨が砕けるような音が体内に響き渡る。
「んぁああああああっ!!」
その瞬間、私は大きな声を上げて意識を失った。
『打撃耐性のレベルが上限に達しました。打撃無効に進化しました』
『自己再生のレベルが上限に達しました。高速再生に進化しました』
そしてまだそんなに死んでないのに、私は打撃無効の体を手に入れた上に、回復能力まで強化されてしまった。
辛い……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます