第007話 冥様、怒りのGMコール

 陽光の例を見る限り、耐性は100万回、毒を受ける必要があるはず。リアリティ設定が最大なら1万回。


 でも、私は毒は1万回も受けていない。せいぜい50回程度だと思う。


 ステータスの毒耐性の説明を開く。


 入手条件には、毒を1万回受けて死ぬこと、と記載されていた。


 あれ? 陽光耐性よりも簡単な条件になってる。


 もしかして弱点じゃない状態異常に関してはハードルが下がるとか? それとも耐性によって難易度が変わるとか?


 他の耐性を取っていないから分からないけど、どっちもありそう。


 そして、下に陽光耐性を取った時と同じ文章が書いてある。つまりリアリティ設定が最大なら100回だ。


 でも、これだけならまだ私が毒耐性を取得するはずない。


「あっ」


 注意書きのさらに下に文章が追記されているのを見つけた。そこには、称号の効果によってさらに必要条件が半減する、と記載されている。


 つまり、私は50回毒を受けて死んだら耐性を取得してしまうってこと。


 はぁ〜、毒なら太陽よりも長いあいだ死ねると思ったのに……。


 また死の超越者の仕業かぁ。キレそう。


 それから『毒血』は名前の通り、体に流れている血が毒になるらしい。レベルが上がれば上がるほどその毒が強くなるみたい。


 これはあまり死ぬのとは関係ないから置いておく。


 それにしても、思った以上にシステムが私のプレイ死ぬを邪魔してくる。これはゲームを自由にプレイをする、という理念に反しているんじゃないかな。


 私は強くなりたいわけでも、ましてやゲームの攻略をしたいわけでもない。ただ、もっと沢山死にたいだけ。


 今のシステムはそのプレイを否定してる。


 ゲーム内では、すぐに運営に意見や要望を送れるようになっている。私はすぐにメニュー画面を呼び出して、お問い合わせの入力画面を開いた。


『よく分からない称号を作らないでください。耐性の入手条件が簡単すぎるのでもっと難易度を上げてください。リアリティ設定が最大値に設定してもスキルの取得条件を緩和しないでください。習得した耐性を難易度調整に合わせて削除してください』


 という要望をできるだけ丁寧に書いて運営に送りつけた。


 私だけのメッセージじゃ何も変わらないかもしれない。でも、どうしようもなく無念の気持ちが溢れてきて送らずにはいられなかった。


 思いの丈を文章化して送り付けたら少しだけスッキリ。


 まずは毒耐性と陽光耐性の検証をしよう。どのくらい変わるのか確認しなきゃ。


 ――ピピピピピピピピッ


 でも、その前にタイムアウト。


 私は名残を惜しみながらログアウトした。


「機能しててよかった」


 おむつによって寝具は無事。やはりおむつは良い買い物だったと思う。ただ、おむつはずっしりと重くなっていた。それだけ体から色々出てしまったみたい。


 私はシャワーを浴び直してから眠りについた。




 翌日。


「どうしたの? 元気ないじゃん」

「はぁ……ゲームで死ねなくなるかも」

「え、なんで?」

「それが――」


 心配そうに私を見る晴愛に昨日の出来事について語った。


「えぇ〜!! それ、すっごい発見だよ!!」

「そうなの?」

「うん、掲示板でも攻略サイトでも見たことないもん!!」

「ふーん」


 晴愛は驚いてるけど、私はいまいちピンとこない。だってただ死んでただけだし。


 晴愛の話によると、耐性をスキルとして取得した人は今まで誰もいないらしい。


 耐性は基本的に種族固有のスキルか、防具や装飾品に付与されているというのが常識なんだとか。


 ITOはデスペナルティが重いので誰も死にたがらない。それを考えれば、晴愛の言う通り取得する人は少ないのかもしれない。


 それから、称号は取るのが非常に難しく、持っている人がごく少数だという。


 私にとっては邪魔以外のなにものでもないんだけどね。貰ってくれる人がいるのならあげたいくらいだよ。


「でも、100万回とか1万回なら誰も習得できなかったのも納得だね」

「そうかな?」


 リアリティ設定を最大にしたら、弱点じゃなければ100回。そのくらいなら誰でもできると思うんだけど。


 そう思っていたら、晴愛に諭すように反論された。


「あのね、皆が皆、冥みたいに痛みに強くないの。リアリティ設定が最大で100回も毒死したり、1万回も太陽で死んだりできないし、したくないの。誰もゲーム内で苦しみとか痛みを味わいたくないんだよ。分かる?」

「そうなんだ」


 私は痛みも苦しみもひっくるめて死ぬのが大好きなんだけど、他の人は違うみたい。ものすごく気持ちいいんだけどなぁ……。


「それにデスペナもあるしね」

「なるほど」


 アイテムは預けてどうにかなるけど、経験値はどうにもならない。時間を掛けて得たものを失いたくないという気持ちは私にも分かる。


「あ、その顔はこれがどのくらい凄いことか分かってないな?」

「分かってるよ」


 私の顔を見て、呆れたような顔で晴愛は語った。


「いーや、分かってない!! いい? まず、その壊れ性能の称号はどっちも攻略組なら喉から手が出る程欲しいものなの。死ぬだけで強くなれるなら、レベルが同じでも大きく差がつく。経験値はどうにもならないけど、装備やアイテム、それにお金は倉庫に預ければ死んでもなくならないから、デスペナを受けてでも強くなる価値はあるの。それから、精神系の攻撃をしてくる厄介な敵が先に進めば進むほど沢山出てくる。そういうモンスターの攻撃を気にする必要がなければ楽に進めるし、戦略の幅が大きく広がるの。それに、耐性をスキルとして取得できるのなら防具に耐性を付与しなくても済むわけ。その空いた枠に別の効果を付与できれば、その分攻略を有利に進めることができるの。だから、すっごいことなんだよ? どう? 分かった?」

「うん、凄いね」


 私にとっては害でしかない称号や耐性も、他の人にとっては有用なんだね。


「こりゃ、全然分かってないな」

「完全に理解した」


 これだけ説明されれば、嫌でもその有用性は理解できる。


 でも、重要なのは私にとって全然有用じゃないというところ。だから、他の人に対するメリットをいくら提示されても本当の意味で凄いとは思えない。


「ホントに? 称号に関しては冥以外は獲れないけど、耐性に関しては下手したら脅してでも情報を得ようとする人もいるかもよ?」

「ん? 脅してくれるの?」

「ちょっと目を輝かせないでよ!!」

「輝かせてない」


 良いこと聞いちゃった。


 脅迫方法は分からないけど、リアルバレさえしなければそれでいい。


 脅すってことは、情報を話さなければ、多分私に襲い掛かってきてくれるってことだよね? 情報を拡散すれば沢山のプレイヤーが私を殺しに来てくれる可能性があるんじゃないかな? つまり、自分では何もせずに自動で死ねるってことでは?


 それって最高じゃん。


「あぁ〜、絶対何か企んでる顔だ!! 白状しなさい!!」


 今後の想像をしていると、晴愛が私の顔を指さしながら詰め寄ってきた。


 これは面倒そう。


 そう思ったところでちょうど家が見えてきた。


「私、死ぬので忙しいから。それじゃ」


 晴愛をするりと躱して別れを告げ、家に駆け込んだ。


「こらっ、冥!! 待ちなさぁああああい!!」


 後ろで何か言っているけど、気にしないでおこう。


 今日は金曜日。日曜の夜まで目一杯死ぬぞ!!


 私は日課を済ませてゲームにログインした。

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