第006話 システム君は優しい
『陽光耐性のレベルが上がりました』
『陽光耐性のレベルが上がりました』
『陽光耐性のレベルが上がりました』
『陽光耐性のレベルが上がりました』
再び夜になったら、耐性のレベルが5まで上がってしまった。
これも死の超越者の効果ですか、そうですか……。
「あっ……」
その上、毒を飲むことができると思ってアイテムボックスを開くと、致命的なミスを犯していたことに気づく。
それは、自分の死ぬ回数が桁違いなのをすっかり忘れていたこと。
集めた毒系アイテムが全部なくなっていた。
他のプレイヤーは1日に何回も死ぬ人は少ないと思うけど、私は毎日何千回も太陽に焼かれて死んでる。これじゃあ、いくら集めても意味がない。
うーん、どうしようっかな……しょうがない、少し面倒だけど、これからは毎回採取して試そう。
この森の植物なら、ほとんどのアイテムが鑑定スキルで毒かそうじゃないかの判別がつくようになった。
鑑定スキルのレベル上げと情報収集のためだったと思えば、経験が全く無駄になったわけじゃないし、よしとしよう。
私は気持ちを切り替えて毒草を探し始めた。
「見つけた」
近くでトリカブトを発見して引っこ抜く。
鑑定レベルが3に上がると、アイテムが持つ毒の強さについて分かるようになる。そのおかげで致死性の毒かそうじゃないかも見分けられるようになった。
トリカブトは解毒しないと、死んでしまうくらい深刻な毒状態になってしまうほど強力な毒性を持つアイテムの一つ。現実でも食後10~20分以内に症状が現れ、重症化すると死ぬことがある。
死を追い求める乙女としてはぜひ試さずにはいられない。
早速食べてみよう。
「不味い……」
口に入れると、草特有のえぐみと苦みが口いっぱいに広がり、痺れるような辛さが後からやってきた。
リアルなのは分かるけど、不味さまで再現しなくてもいいと思う。
味わいたくなくて、私はあまり噛まずに飲み込んだ。
今のところ異状はない。
「うぐっ……!?」
でも、1分くらい経ったら、唇や舌から痺れが始まり、徐々に手足も痺れだした。最初は少し痺れるくらいだったけど、段々ひどくなって体が動かせなくなってくる。
「うぉええええええっ……」
次に視界に映る世界がぐるぐると回り、めちゃくちゃ気持ち悪くなって吐き気をもよおした。
その場に突っ伏して完全に動けなくなる私。
嘔吐のリアリティまで再現されていて、食べたトリカブトと胃液が出てくる。でも、他に何も食べていないので、えずくのを繰り返すだけ。
気持ち悪い、苦しい、痛い。
色んな辛さが一度に押し寄せてくる。
「はっ、はっ……くはっ」
数分で呼吸もできなくなった。視界がだんだんぼやけ、狭まっていく。意識が朦朧として、何も考えられなくなってしまった。
これが毒……死……。
「……はっ!?」
気づいたら、私は復活ポイントで目を覚ましていた。
どうやら私は死んでしまったみたい。
トリカブトによる毒死。うーん、悪くないけど、やっぱり太陽に比べて鮮烈さに欠ける。なによりトリカブトの味がマズすぎ。
他のアイテムに期待しよう。
「これなら……」
次に見つけたのはとっても美味しそうなリンゴ。でも、実は猛毒を含んでいて、マーダーアップルという名前がついているくらい怖い果物。
死んでリセットされているはずなのに、口の中がイガイガするので、口直しのために食べてみる。
「!?」
体に悪いものは美味しい、という理論みたいに、この毒リンゴはとっても美味。今までこんなに美味しいリンゴは食べたことがない。
噛むとシャキシャキとした歯ごたえが小気味よく、にじみ出てくる果汁はフレッシュで、酸味と甘みが絶妙なバランスで、味だけで天にも昇りそうな気持ちになった。
これなら私じゃなくても死んででも食べたいと思う人がいるんじゃないかなぁ。
「ぐげっ……!?」
でも、地獄は唐突にやってきた。
突然、目の前にチカチカと星が飛び、視界が真っ赤に滲んだ。刃物で刺されたかのようなズキズキとした痛みが全身を突き抜ける。
痛い、痛い、痛い。
とにかく痛くないところがないくらいに全身が痛くて、どうにかしてほしいけど、どうにもならない辛さで頭が埋め尽くされる。
「あががががあがががっ!?」
もう何も考えられない。
ただただ痛みに包まれながら、私の意識は消えていった。
「んふっ……はぁ……はぁ……」
再び目を覚ました時、私は体をぶるりと震わせる。
死ぬまでの時間がトリカブトに比べ、とても短い。その分、痛みが凝縮されているような感覚だった。
味を抜きにしてもトリカブトより毒リンゴの方が点数が高い。
「デスグラス……」
さらに一番ヤバそうな毒草を食べる。
「あひぃ!!」
デスグラスは鮮烈さはなかった。だって、強力すぎて一瞬で死に戻ったから。それほど凶悪な毒だった。
その後も私は毒を食べて死に続ける。
体の内側から焼けただれていったり、体が徐々に干からびていったり、血反吐吐いたり、全身浮腫が出来て破裂したり、様々な死に方をした。
どれもなかなか強烈だったけど、やっぱりリンゴが一番だった。
美味さで天国に行ってから急転直下で地獄にフリーフォールする、あの落差はとっても気持ちがいい。太陽ほどとは言わないけど、気持ちよさで体がビクビクと痙攣してしまった。
毒は太陽ほどすぐに死ぬことはできない。その分、耐性がつくのも遅いはず。
しばらくは日中は焼死、夜は毒死しよう。そして、焼死できなくなったら毒死をメインにする。
そう思った矢先、通知が届いた。
『毒耐性を習得しました』
『毒血を習得しました』
それは新たな耐性の獲得。
「なんで?」
私は混乱して無意識に呟いていた。
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