28 マナナの扱い



 ゼルディアとカシャがここに残ることとなった。

 しかも、俺の教育係だという。


「お前は王侯貴族の常識がないからな」


 とマックスに言われてしまええば、その通りだと頷くしかない。


「それに、下手な奴をお前に近づけさせておくのは危険だ。主にそいつが」

「おい、どういうことだよ」

「貴族の家庭教師というのは当たり外れが大きいんだよ」


 マックスが言うには、家庭教師というのは、契約されれば貴族の爵位関係なく尊敬されるので、その地位の逆転を勘違いして調子に乗ってしまう者もいるらしい。


「そういう奴は、バレれば身が危ないというのにやってしまう」

「ふうん」

「……いま、そんな奴が教育係になったらなにをすると考えた?」

「……うん?」

「だからだぞ」

「なるほど」


 考えを見透かされては納得するしかない。


「とはいえ、あいつかぁ」


 いまさら、あいつに教えを乞うとか嫌だなぁ。

 でも、グータラだけど知識量と魔法の技量は確かだからなぁ。


「あいつなら、お前のことがわかっているし、意思の疎通もできているし、悪巧みされてもある程度はわかるだろ?」

「まぁな、あいつが信用できるわけないもんな」

「ああ、そうだな」

「お前ら、そういうことは当人のいないところで喋るものだぞ?」


 自分の尻尾をソファにして寝転がっているゼルディアはさっきからそこにいて、マナナを観察している。

 知らない他人がいることに慣れたからなのか、俺から離れて以前に侍女に縫ってもらったぬいぐるみで遊んでいる。

 いや、噛んでいるのか?

 ただ、まだ警戒しているのか、俺の近くからは離れようとしない。


 にしても狭い。

 我が家はそんなに広くないんだがなぁ。

 ゼルの尻尾が邪魔なんだよな。


「ていうか、うちにはもう泊まれる場所はないぞ。どうすんだ?」

「俺様を誰だと思ってる?」


 ゼルはニヤリと笑うと、俺たちを外へと出させた。

 移動するとなるとマナナは俺に引っ付く。

 今度は背中だ。

 ほっといて歩く。


「あの、しんどくないんですか?」

「ん、ぜんぜん」


 カシャに心配されたが、マナナは本当に重くない。


「この程度でヒィヒィ言ってたら、全身鎧を着て戦場は走り回れないぞ?」

「はぁ」


 よくわからないという顔をされてしまった。

 東方は平和なのかね?


「では、見せてやろう」


 寝転がったまま宙を滑って移動するグータラ賢者は、尻尾の毛を数本むしって息を吹きかけると、瞬時に変化を見せた。

 分解して魔力となったかと思うと、凄まじい勢いで増幅し、魔法陣を形成し、さらに増幅し、魔力が形を生み出していく。

 変化は五つ数える間もなく終わり、そこには一軒の家が生まれていた。

 大きさは、うちの家と同じぐらいか。


「へぇ、すごいもんだな」

「そうだろうそうだろう。この超賢者様をもっと褒めてくれてもいいんだぞ」

「ソダネースゴイネー」


 こいつの自慢に真面目に付き合うのはしんどい。


 そんな感じで、ゼルディア達の引っ越しは終わった。

 その夜はゼルディアの新居で引っ越し祝いの宴会となった。

 マックスが街で材料を買ってきて、侍女が腕を振るう。

 良い肉がと調味料がたくさん手に入ったらしくて、肉の焼ける良い匂いが漂ってくる。

 ああ、たまらん。


「そうだ。こいつだがな」


 匂いに引かれてマナナとカシャと一緒になって厨房を見ていると、ゼルが酒を飲みながら言った。

 指さすのはマナナだ。


「獣人として認めるなら、枠は竜人になるのは避けられん」

「ん? ああ」


 そういえば、そのことで呼んだのもあったか。

 自慢が終わったらどうでも良くなっていた。


「まぁ、この、俺様が、獣人連邦のお偉方に一言申せば、通るだろうな。俺様が言えば!」

「わかったわかった。アリガトネー」

「だが、そうなると獣人連邦に一度顔見せに行かなければならんだろうな」

「あ、そうなんか?」

「そりゃあそうだ。新しい獣人種が誕生したなんて、そうあることじゃない。誰も彼もが興味津々になるだろうな」

「それ、面倒だな」

「面倒さ」

「別にやらなくてもいいか」

「別にやらなくてもいいんじゃないか?」


 獣人社会に認められたところで、こいつがただ一人の竜人であることは変わらない。

 好奇の視線に晒されることも変わらないだろう。

 それに、新しい厄介ごとが生まれそうな気もする。


「ただ、どっちにしてもいずれ、力ある魔法使いとか、権力者とかに目をつけられることは確かだ。それに対抗するのは、飼い主であるお前の責任だぞ」

「むう。腕力でいけるか?」

「いや、もっと使えるもんがあるだろう」

「なんだよ?」

「権力だよ」


 心底呆れた顔をされた。

 でも俺、絶賛父親に嫌われているんだが?

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