29 マナナの今後
「まぁ、人に化けて誤魔化すというやり方もある」
宴会は続いている。
肉が焼けて俺たちが喜んでいるとゼルがそんなことを言った。
「化ける?」
「問題なのはその体から出っ張っているものだからな」
ゼルがマナナの角やら翼やらを指す。
そのマナナは、小さく切った肉をフォークを使って無心で食べている。
最近ようやく、フォークを使えるようになったんだよ。
手掴みか、さらに口を直接持って行こうとするところから、フォークとスプーンを使えるようにしたんだ。
苦労した。
「できるのか、こいつに?」
「う〜?」
自分のことを話していると気付いたのか、マナナが顔を上げる。
こら、口を開けて噛むんじゃない。
「できるだろう。むしろ、俺様より肉体と魔力の境目が怪しいぞ。制御をきちんとできれば、自然と出し入れできるようになる可能性もあるな」
「ほう」
「まぁ、いまはとにかく、知恵が育つのを待つだけだな」
「知恵か」
フォークでちまちま食べるのに飽きて、自分の皿に乗っている肉を全て口に流し込んだマナナにそれを期待できるのかどうか。
なにしろ元は竜だしなぁ。
「まぁ、自分と他人の境界線はできているよな」
と、俺が呟いたところで、カシャの皿から肉を奪っていった。
「なにするんですか⁉︎」
「う〜ぎっ」
「もう!」
「できているよな?」
なんか不安になる。
とにかく、そういう感じでゼルディアとカシャがご近所になった。
「やるからにはちゃんとやる! それが俺様だ!」
朝食が終わった時間に呼び出され、なにかと思えば大量の書物の前でゼルが立っていた。
どうやら外でやるらしい。
青空教室だ。
最初の一時間はマナナとカシャを含めた基礎教養の時間。
というか、マナナのために絵本を読み、カシャのためにこの辺りの常識を教えていくというもの。
その後で俺に貴族的教養というものを叩き込んでいく。
「だりぃ」
「こら、手を抜くな」
空中に光の線で描いた帝国地図の国名を覚えるのがしんどい。
「魔法式は覚えられるくせに、なんで国名ごときが覚えられないのか」
「やる気の問題?」
「なら、やる気を出せ」
「ぐへぇ」
すでに解放されたマナナとカシャは少し離れた場所で遊んでいる。
いや、あれは喧嘩してるのか?
仲悪いな、あいつら。
「帝国の現在を説明してみろ」
「無茶を言うな」
「間違っていたら修正するからさっさと言え」
「ああもう」
帝国……アーサリア帝国。
アーサーが俺たちのいる西部諸国を支配し、アーサリア帝国を建国、さらに東に進出する。
その後も代を重ねながら版図を広げ、三代目のヘンリーで現在の帝国となる。
いくつかの内乱や外敵との脅威と戦いながら、国内の整備やら改革やらを進めていき、現在の皇帝は十代目、アーサー3世。
「ん、まぁ、正解」
「なんで面白くなさそうなんだよ」
「よし、それなら、アーサー3世が現在進めている……」
「それ、俺が絶対知らないやつだろ!」
そんな感じでギャアギャアやりながら、時間は過ぎていく。
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