27 知らない賭け
ゼルディアがマックスと一緒に来た。
なんか、尻尾が増えているし、小さい女の子を連れている。
あいつ、趣味が変わったのか?
「これがそうだ」
気配を察知したので家の前で出迎える。
ベタりと引っ付いたままのマナナを見せてやると、ゼルディア……ゼルは口をあんぐりと開けて俺たちを見下ろしている。
「これは、まさか……本当に?」
「証拠はこちらになります」
ソフィーが騎士に頼んで魔晶卵の殻を運ばせてきた。
マナナはそれに鼻を近づけていたが、すぐに興味をなくして俺の腹に顔を埋めている。
暇になるとこうなるんだよな。
なんなんだ?
割と本気で走ってもしがみつけているので、面白いから放っておいている。
無理に振り解くと泣きながら追いかけてくるんだ。
「う、おお……」
ゼルは、魔晶卵の殻の大きさに言葉を失っている。
いやぁ、面白い。
まさか、こいつのこんな顔が見られるとは。
ニヤニヤが止まらんね。
「ちょっと、よく姿を見せろ」
「うぎ〜〜っ!」
ゼルが手を伸ばして俺から引き剥がそうとして、マナナが全力で抵抗する。
「おい、ちょっと、別に悪いことはしないから、ちょっと離れてみろ」
ここまで慎重に他人に接しているこいつは本当に珍しい。
というか、初めてかもしれない。
その証拠に、マックスも驚いた顔をしている。
「いやぁ、女の趣味が変わってるからわからんよな」
「ふざけんなよ。俺の女の趣味は幅広いが、低年齢層に手を出すほどじゃない」
「いやぁ、どうかなぁ」
「そんなことより、これだ! どうなってるんだ! もっと観察させろ!」
「うぎぎ〜〜っ!」
「いや、それより、他に驚くことはないのか?」
マックスが声をかけてきた。
「は? なにがだ?」
「いや、ゼル。お前、誰と話しているつもりだ?」
「そりゃ、この小僧。……ん?」
やっと気付いたか。
「なんだ小僧。ずいぶん縮んだな」
「うるせぇ」
そして当たり前のように受け入れやがった。
ちなみに、小僧というのは昔からの俺への呼び方だ。
こいつ、見た目に反して百歳越えの爺なんだよな。
狐獣人全体が長命というわけではなく、なんかこいつが異常な魔力保持者で、それが原因で尻尾が増えているらしい。
長命なのは、魔法を極めて魔力を操れるようになったからだそうだ。
「え? どういうことだ? 知っていたのか?」
マックスの方が混乱している。
「こいつ、ちょっと前まで年一でバカみたいな魔力を拡散させてたんだぞ? 賢者である俺様が魔力の個人差を見抜けないとでも思ったか?」
「あ、いや……そうかもしれんが」
「生まれ変わりの話は記録にある。希少な事例ではあるがな」
「そ、そうか」
「そんなことより、こいつだ! どうなってんだ! 魔晶卵を残したのはどの魔獣だ⁉︎」
「この辺りを縄張りにしていた竜だ」
その時の経緯を教えてやると、頭を抱えて悔しがった。
「なにぃ⁉︎ あいつ死んだのか⁉︎」
「知り合いか?」
「ああくそっ! 俺様も狙ってた奴じゃねぇか! それ!」
「ああ、そういう」
狙ってたくせに、忘れてダラダラしてたんだな。
グータラ賢者らしい。
「あ、あのっ!」
悶えるグータラ賢者を笑っていると、ずっと黙っていた女の子が声を上げた。
東方系の服を着た狐獣人だ。
「わ、私、カシャって言います! ゼルディア様に巫女としてお仕えしているのですけど、ゼルディア様からは師匠と呼べと言われています! あの、ゼル……お師匠様とは、あの、そういう、関係では……」
自己紹介したかと思うと、なにやらしどろもどろに弁明している。
ああそうか、ゼルディアの女だと思った部分を訂正したいのか。
「わかってる、冗談だよ。俺はアルブレヒト。アルでいいよ、よろしくな」
「は、はい!」
「うぎっ!」
「そんでこいつはマナナな」
「うぎぎ!」
なんかカシャに威嚇している。
なにもしていないの、変な奴だな。
「うわっ、あれ、見たか?」
「見た」
「あの鉄壁感性は相変わらずか」
「相変わらずだなぁ」
「前はまだ、いまいちパッとしない見た目だったから被害者も少なかったが……」
「いまは俺似だからな」
「……寝ぼけてんのか? 金毛ゴリラ」
「なんだと⁉︎」
なんか、おっさん二人が喧嘩してるな。
「あのっ!」
「うん?」
マックスとゼルが喧嘩しているのを眺めていると、カシャが声を上げる。
「これから、お師匠様ともどもお世話になります!」
「ううん?」
どういうことだ?
と、思っているとマックスが喧嘩を止めて笑った。
「おお、そうだったそうだった。ゼル、約束を忘れるなよ」
「……しまった。覚えていたか」
ゼルは嫌そうな顔を俺を見る。
「こいつに教えるのか」
心底嫌そうにクソでかいため息を吐いた。
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