12 堪能
ソフィーはボロ屋での一人暮らしを楽しんだ。
実際には一人暮らしではない。俺もいるし、侍女もいるし、騎士も一人いる。
だが、貴族として大勢に囲まれて暮らしていた彼女にとっては、一人暮らしのようなものなのだろう。
近くには森もあり、ソフィーは手製の弓矢と俺を連れて狩りに出かける。
騎士は鎧を脱いで家の修繕を行い、侍女は少しでもボロ屋が暮らしやすくなるように頭を捻っている。
生活費としてフランツからいくらか送られてくるが、少ない。
おそらく代官が着服しているのだろう。
だが、ソフィーは気にしない。
アンハルト領から定期的にやってきて援助の金貨を置いていくし、そもそも街での買い物は最低限で済ますようにしている。
マックスからの手紙を一度盗み見たのだが、そこには「しばらくそこで楽しめ」と書かれてあった。
フランツのやり方には腹を立てているようだが、ソフィーがいまの状況を楽しむこともわかっていたようだ。
ソフィーが街に頼らない生活をすると決めたのには理由がある。
「勝手に森で狩りをするな! 決まりがあるんだ!」
「勝手に森の木を伐るな! 伐る木は決まっているんだ!」
森を管理しているのだという村長が、度々怒鳴り込んでくるのだ。
村長の言い分も間違いではない。
集落の近くにある森林は、共有財産だ。
獲物を取り過ぎれば全滅してしまうし、木を倒し過ぎれば森が死ぬ。
だが、ボロ屋が森に沿って存在している以上、ここが使えないのは困る。
初日は冷静に話し、森を使わせてもらうように交渉したが、奴らが求めてきたのは使用料という名の金貨だった。
それだけを金貨を払うぐらいなら街で買った方が安いぐらいだが、村長はその強気を崩さなかった。
その態度からして、街の連中も俺たちに物を売らないように圧力がかけられていることは明らかだった。
「これは戦ね」
ソフィーはにっこりと笑ってそう言い切った。
そして村長たちを無視し、森を使いまくることにした。
何度も文句を言いに来ていた村長が村の若者を引き連れてやってきた。
そうすれば、ソフィーと騎士も剣を持ち出してくる。
俺も出ていきたいのだが、侍女に抱きかかえられているのでできない。
ソフィーも魔功が使えるし、騎士もマックスに鍛えられたアンハルト騎士だ。
たかが村人に負ける要因がない。
二人で、若者たちが持っていた斧や棒を瞬く間に切り裂いて追い払ったそうだ。
その日以来、村から文句を言いに来ることはなかった。
「森で遊んできます」
「はい、気をつけてね」
しばらくすれば、俺が一人で外に遊びに行く事も可能となった。
走り回るだけで鍛えきれない部分を鍛えるために、今度は木々の間を飛び回る。
普段は隠している魔功を全力にし、徒手での型を空中で行い、次の木に移る。
そんなことをしながら、森の探索を樹上からも行う。
森の大きさを調べ、そこで暮らす獣たちの分布を確認する。
森の獣は数が多く、そう簡単に絶滅する心配はなさそうだ。
主格の獣が二体いる。
熊と猪だ。
どちらも樹上から見下ろす俺と目が合うと、そそくさと姿を消していった。
この時点で、どちらが上かの戦いは終わったようだ。
にしても、この辺りに魔獣はいないか。
少しばかり期待していたんだけどな。
あいつらなら、いくら狩っても問題になることはないだろうから。
魔獣は天然で発生する魔力に影響を受けすぎた結果、異形化した獣のことを指す。時に人がそうなる事もあるが、そんな強力な魔力が発生するような場所に人間が住んでいることは少ない。
かの魔王は、魔族の中であえて魔獣化した存在だという話だが、真実はわからない。
呑気に話をする仲ではなかったからな。
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