13 来客



 エルホルザに来て半年ほど経っただろうか。


「来たぞソフィー!」


 来客があった。


「お父様!」


 だいぶ見れるようになったボロ屋から飛び出したソフィーは、そこに立つ人物を見て駆け寄った。


「わはははは! 楽しんでいるようだな!」

「はい!」


 少女のようにソフィーを抱き上げるのは彼女の父親、そして俺の祖父。

 勇者ジークの仲間。

 マクシミリアン・アンハルト。

 マックスだ。


「アンブレヒト! 楽しんでいるか?」

「はい。お祖父様」


 ソフィーの次に抱き上げられた俺は、お行儀よく答える。

 まさか、マックスにこんなことをされる日が来るとは。

 不可思議だ。


「ふむ?」


 俺を抱えたマックスが首を傾げる。


「どうかしました?」

「いやいや、大きくなったな」


 ソフィーに聞かれ、マックスは笑う。

 俺としては老けたなという感想だ。

 最後に会ったのは、ソフィーが生まれた時だったか?

 あるいはアンハルト騎士団に魔功を教える時だったか?

 アルブレヒトが生まれた時に五十ぐらいのはずだから、今は五十六とかか。

 仲間だった時より、全体的に質量が増えている。

 太っているのではなく、筋肉の量が増したのだろう。


「お父様、まさかお一人で?」

「はっはっはっ。そうしたいが、さすがにな。騎士を何人か連れている。街には何人か滞在させているから、困った時には頼れ」

「大丈夫ですよ」

「そういうわけにはいかんのだよなぁ」


 そんなことを話しながら、家の中に移動する。

 一つしかないテーブルでマックスのお土産の焼き菓子を食べて、近況を語る。

 しばらくすると、ソフィーが俺に部屋に戻るように言った。

 大人しく従うが、部屋から耳を澄ませていれば、会話は聞こえてくる。


「アルブレヒトはどうだ? 見たところ元気そうだが」

「楽しそうですよ。いつも森で遊んでいますし、勉強もちゃんとしています」

「そうか。それならいいんだが」

「王都でなにかありましたか?」

「わからんが、なにか騒ぎが起きている。外には漏らさないようにしているようだがな。こういうのは人の動きでわかってしまうものだ」

「陛下にはお会いしました?」

「ここに来る前にな。娘の様子を見てくると言ったら、嫌な顔をされたよ。だがそれより、なにやらやつれていた。起こっている問題は、どうやらかなり深刻なようだ」

「まぁ」

「それはいいんだ。我々としては自業自得だと笑っていればいい。それより、お前と陛下のことだ。どうなんだ?」

「陛下は、私のことが気に入らないのでしょうね。なにが気に入らないのかは存じませんが」

「ふうむ。政略結婚だからな。とはいえ、うちとしては向こうに押し切られた結婚だ。こちらが罪悪感を抱く必要はない」

「お父様、アンハルトの民たちは?」

「お前は好かれていたからなぁ。怒っている者は多い。療養が必要ならアンハルト領に迎えれば良い。必要なら離縁してしまえと言っている家臣もいる。お前はどうしたい?」

「私は……離縁はどちらでもかまいませんが、このままだとアルの立場が。後継には弟もいますし」

「そうだな。アンハルト領を継ぐのはウォルフガングだ。それに第一王子の地位が厄介だな。領に引き込めば野心があると思われるか」

「それはかわいそうです」

「やれやれ、金山が見つかって財政はマシになったが、代わりに厄介ごとが増えたな」


 そんな会話をしている。

 ふうむ。王都というか城で騒ぎか。

 ……もしかして、これが原因か?

 引っ越しの時に荷物に紛れさせていた剣。

 フランツの部屋から迷惑料としてもらったんだが、実はけっこう大事な剣だったのかもしれないな。

 たとえば、王位継承に関わるようなものとか?

 いや、そんな大事なものをあんなところに飾るはずもないか。


 はっはっはっ。

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